異世界無宿

ゆきねる

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第十章 気楽な一人旅

第百四十話 姿なき反応再び

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嵐のように去っていった第三王子の背中を見送った後で、イズミも町長の屋敷から出た。

「マスタング。なんか今日は疲れた」

「お疲れ様です」

マスタングに乗り込んだイズミは運転席に身体を預けて、一休みしてから町を出発した。

隣町には夕方には到着するとマスタングからアナウンスがあったが、今日は夜営をする事にする。

マシンガントークに疲れた身体には、大自然の中で眠った方がリラックス出来る気がしたからだ。

「キャンプの趣味は無かったが、悪くないな」

焚火で鍋を温めながら、黒パンを噛じる。
空を見上げるが、曇り空で星は見えない。

「マスター、今夜は雨が降りそうです」

マスタングからの報告を聞いたイズミは、慣れない車中泊を決め込んで助手席を手前に寄せ倒した。


マスタングのルーフに雨が当たる音が心地良い。
通退勤の雨は怠かったが、今日に限っては安眠へと誘ってくれそうだ。

「…マスター。魔法反応を検知しました」

「敵か?」

「特定出来ません」

眠い目を擦りつつ、イズミはモニターで場所を確認する。
少し走らせたら到着する程の距離に、魔法反応が1つだけあった。

雨は止んでいないので、窓から外を見ても何が居るのかは分からなかった。

「またか…この雨じゃ料理も難しいな」

イズミは取り敢えず魔法反応の場所までマスタングを走らせた。
流石に現場確認をしないのも無用心だろうと判断したのだ。

運転席から周囲を見てみるが、やはり前回と同様に何もいない。

「さて。どうしたものか」

雨が止むのを待っても良いが、それだと自分の睡眠時間が削れてしまう。
料理を供えても、雨ざらしでは台無しだ。

「マスタング。雨はいつ頃止む?」

「明け方には止むと思われます」

微妙なタイミングだ。
考えた結果、イズミはマスタングに頼んで酒を実体化させた。
ガタイの良い冒険者へ渡した酒と同じ、イズミが好きで飲んでいた酒である。

キャップの代わりにコルクで栓がされている瓶を開けて、手の甲に酒を乗せて口に含む。

「…飲み慣れたジャック、だな」

イズミはコルクで栓をしてから、コップを持ってマスタングから降りた。
傘を持っていないので、雨に濡れながら魔法反応がある場所へと歩いて行く。

「…この辺りか?」

「もう少し右側です…その辺りです」

マスタングからの確認も取れたので、イズミは酒瓶とコップを地面へと置いた。

「流石にこの雨では食べ物は供えられません。ですので、私が好きなお酒を供えさせて頂きます」

イズミは雨に濡れながら両手を合わせる。
その後、急ぎ足でマスタングへと戻った。

「風邪を引いたら不味いからな」

そう言ってずぶ濡れの上着を脱いで、後部座席の足元へ置いた。
明日晴れたら、乾かしてから出発をしようと思いながらイズミは眠り始めた。


翌朝。
青空が眩しい朝の空気を吸いながら、イズミはマスタングのトランクに上着を置いて乾かしていた。

お供え物を置いた場所を確認しに向かうと、そこにはコップだけが残されていた。
コップの中には、燻したような銀色の指輪が入っている。

「酒瓶ごと無くなってるし…意味が分からん」

そう言いながらも、イズミは何処か満足気な表情でマスタングへと戻って行った。



時を同じくして。

「ルノ様。銀狼の騎士から、此方が届きました」

「懐かしいわね。魂だけの存在になっても元気そうね」

原初魔族の1人であるルノは、従者から酒瓶を受け取った。
コルクを開けると良い香りが広がる。

銀狼の騎士。
その男は人間族でありながら、小さな魔族の娘の為に命をかけて戦うような、本物の騎士だった。
訃報を聞いた時は悲しんだものだが、死して魂だけになってもこの世界に留まっていたようだ。

「…へぇ」

ルノの目が青紫色に輝くと、銀狼の騎士が見た物が脳裏に映った。
そこには雨に濡れながら酒を供える男と、あの特徴的なアーティファクトが見える。
男の左手には、原初魔族しか扱えない魔力の籠もった石をあしらったブレスレットをしていた。

「やっぱり、面白い人ね」

ルノは酒瓶を両手で抱えて、その事を魔王へと報告する為に歩き始めた。
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