バレンタイン ー 偶然から生まれる愛ー

101の水輪

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バレンタイン ー 偶然から生まれる愛ー

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 2月14日は、女子が思いを寄せる男子にチョコレートを贈るバレンタインデー。さらに義理チョコ、恋人や夫婦間で贈る愛チョコ、仲のいい友だちに贈る友チョコ、世話になってる人に贈るサンクスチョコ、自分に贈る自分チョコ等々、形を増やしながら日本社会に根付いてきた。
 かつてほどではないにせよ、南中学校でもこの日が近づくと、男女とも自分のことととらえ、落ち着かずソワソワし出す。
 南中学2年の磯田大翔も、その1人である。教室内だったら気軽に話せる女子はいるが、これまでステディと呼べる女性とは、1度も巡り会ったことがない。
 そんなもてない大翔だからこそ、やはり14日は外せない1日だ。
「大翔、明日だからもう決めた?」
 話し掛けてきたのは、親友の東山寬司。明日?決めた?いったい何のことだろう?
「俺は愛実と泰香。何か今年は上手くいく気がする」
「えっ、俺も愛美にしようと思ってたのに」
「じゃあどちらがチョコレートもらえるか勝負しようぜ」
 さすが美園愛美、一番人気の女子。
 それにしても2人がはしゃぐのには訳があり、それは南中伝統のバレンタインルールが物語る。
「もし愛美以外だったら悲劇かも。きっと断るね」
「俺は泰香でもOKだけど」
 そうこうしてるうちに、2年5組のバレンタイン実行委員会、通称VPが、教室の背面黒板に、リストを記した方眼紙を張り出した。

氏 名       特  徴           女子のタイプ   デート場所
   
磯田大翔  女子に優しい  カワイイ        遊園地
東山真司  趣味はアニメ  はしゃがない  グッズショップ
  
 この2名を含め、計11人の名前がリストアップされている。
 このクラスでは、バレンタインでの特別ルールがある。それは参加したい女子が、男子参加者リストから気に入った男子をピックアップし、一人は本命チョコ、一人は義理チョコの必ず二名にチョコレートを贈ることにしている。一方でもらった男子は、いくつもらってもその中の一人に決め、一週間後のその相手とのデートを申し込まなければならない。ただたとえ男子が申し出ても、女子にはそれを断る自由が認められている。
 本命彼氏ならカップル誕生、義理だと直ちにお別れとなってしまうので、チョコレートをもらった男子としても、そのチョコレートが本命か義理かを、見極めなければならない。
『いざノミネートしちゃうと、何か緊張してきた』
 いつもは強気の大翔も、ことバレンタインになると、からきし威勢を失ってしまう。

 運命の14日を迎えた。女子は誰に渡そうかで悩むが、男子は男子で果たしてチョコレートがもらえるか気が気ではない。
 ここにまたまた南中バレンタインルールが存在する。朝7時半から8時までが女子だけの登校時間とし、その間に男子生徒の机の中に、自分の名を記したメモとチョコレートを忍び込ませ、その後登校してきた男子が、結果を知ることになるのだ。
 女子たちからのプロポーズが済み、いよいよ男子たちが登校してきた。
「やった~。1つゲット!」
「お~い、ゼロ?誰か俺にもくれないか」
  机の中を見る男子たちも悲喜交々。そこに大翔と寛司が登校してきた。
「じゃあ見るか。またあとでな」
 まるで親の敵を討ちにいく仇討ちのようだが、大翔が意を決して机の中をのぞき込んだ。
『あった!それも2つも』
 わずかな期待はしてたといえ、まさか2つも入ってたなんて驚きの極みだ。盆と正月か一緒に来たとは、まさにこのこと。そしてそこに書かれていた名前を見て、さらにビックリ。
『おいおい愛実からじゃん、信じられない。そうそうあと1つはっと。えっ?』
 大翔の手がはたと止まった。そこには戸川英美里の名前が。
『戸川さん?えっこれまで1度も話したことないのに』
  うれしさと迷いが交錯する中、すぐに寛司の所へ駆け寄って行った。
「おい、どうだった?俺、2つもあった」
 寛司も待ち構えてたようで自慢し始めた。
「俺は1つ。だけど愛実だからね!」
 愛実の名を聞いて、大翔の顔が急に険しくなった。
『えっ愛実のやつ、よりよって寛司にも渡してたんだ』
  ガッカリした大翔だったが、素知らぬふりして話を合わせる。
「ほ~そうなんだ。ところでさ、戸川さんのこと知ってる?」
「そりゃ同じクラスだから名前ぐらいは。でも目立たないというか、どちらかというと印象薄いし。何かあったのか?その戸川さんと・・・まさか?」
「当たり、そのまさか。俺だって分かんないよ、どうしてか」
「で、もう1人は誰?」
 さすがに答えるのに窮したが、後からバレる方がよけいに恐い。
「俺も愛実から」
「えっ!ということは、どちらかが本命でどちらかが義理ってこと?」
 一瞬、2人の間の会話が途絶えたが、すぐさま寛司が涙目で泣きついてきた。
「頼む、俺に譲ってくれ。お前には戸川さんがいるだろ」
 大翔の本命もやはり愛実だったが、寛司の泣きつくその姿を哀れに思い、思わず身を引くと言ってしまう。
「分かった。でも俺も愛美からもらったってこと忘れないなら、譲ってやってもいい」
「分かった絶対に覚えとく。ホン~ト恩に着る」
 こうなると、大翔は英美里に賭けるしかない。
「どんな子なんだろう?何か変に興味が湧いてきた」
 チョコレートをもらった男子たちがデートを申し込むのは、今日14日の放課後だ。

 放課後、VPが告白タイムを設定した。チョコレートを渡した女子たちが一列で並ぶ中、もらった男子1人1人が、その告白をOKするか答える時間となる。
 他クラスのやじ馬も合わせて、教室内はギャラリーで一杯となった。
「次は東山君で~す。さあ告白を」
 寛司が出てきて告白する。相手はもちろん愛実。
「美園さん、デートお願いします」
 みんなが固唾をのんで見守っている。すると、
「ごめんなさい。それって義理チョコなの」
 とノーサンキューの返事が。すると、
「ヤベ~。寛司選手、完全に撃沈ハハハ」
と観衆から一斉にからかいのヤジが飛んだ。
 ただその時点で気持ちの整理が付かない男がもう1人いた。同じように愛実からチョコレートをもらった大翔だ。
『てことは、まさか?俺が本命だったってこと?!』
 これほど悔しいことがあるだろうか!
『寛司に譲らなければよかった』
 大翔は後悔の念に駆られた。
「さてさて、次は磯田く~ん」
 さっぱり気合いが入らないが、決まりだからしかたなく告白することにする。
「あの~戸川さん。よろしければお願いしま~す」
 大翔は、自分でもふざけてると感じてしまうほど嫌な言い方だ。
『どうせ好きでもないんし。ここは断ってってくれた方がスッキリするんだけど』
 そこまで言うのもあんまりで、最初から成功したい気持ちは微塵も感じられない。
 しかし、
「こちらこそお願いします」  
の誰もが耳にしたその答えに、教室に押し寄せていた観衆から一斉に歓声が起きた。
 というより一番驚いたは当の大翔本人だ。
『ということは、彼女の本命が俺ってこと?』
「やった~うれしい~。最高!」
 大翔は大声で叫びんだが、気持ちが入ってないことは、本人が一番分かってる。
 この時点で、次の日曜日のデートが決定した。
『まあいいか。適当にやれば嫌われるし。それでお別れってことで』
 ここまでくると、何か英美里がかわいそうになってきた。

   デートの当日の朝9時。10時には遊園地の入り口で待ち合わせの予定だが、肝心の大翔はまだベッドで熟睡中だ。それでも9時20分の2度目のアラームが大音量で鳴り出すと、ようやく大翔も目が覚めた。
『ヤバ、9時過ぎてる。まあいいか。どうせ俺のこと好きで待っててくれんだから』
 こんなの調子で、最初から約束の時間に合わせる気はさらさらない。
   
  ゴメン 遅れる
 
 しかたなそうな英美里への簡単なメールで、いかにも謝罪した振りをする始末だ。
 
 大翔が到着したのはかなり遅れた10時半、その間も英美里はずっと待っていた。
「ああ、ごめんごめん。こんな時間になっちゃった」
 さすがにマ大翔もマズいと思ったようだが、どうも言葉に心がこもっていない。
 ところが、
「ううん、ぜんぜん。それより来てくれてありがとう」
と英美里は非難するどころか、感謝の言葉を口にしてきた。
『何こいつ?こんなに遅れてきたのにイヤミか?まったく頭にくる』
 ここまでの大翔ののぼせに、何かギャフンといわせたくなってくる。
「まあ楽しもうぜ。まずはジェトコースターから」
と強引に声を掛けながらも、ふと今日の英美里の姿が目に入り、大翔は“ドキッ”としてしまった。
『うん?何かカワイイ!』
 いつも見てる学校での制服姿と違い、かなりオシャレしてるのが伝わってくる。

「えっもうこんな時間?」
 二人は時を忘れるほど、夢中にアトラクションに乗り、気がついたら昼食を取るのも忘れていた。
「お腹空いた。ハンバーガーでいい?俺、買ってくる」
 すると英美里が、背負ってたリュックから包みを出した。
「これ作ってきたの。でも磯田君の口に合うかなあ?」
 それは手作りのサンドイッチだった。お世辞にも形や切れ口はガタガタで、不細工だが、味さえよければそれも許される。
「えっ作ったの?ああおいしそう、いただきま~す」
 大翔は1つ摘まんで口に入れた。
『うん?何これ。卵が塩っ辛い』
 どうやら炒り卵を作るときの塩分量を、間違えたようだ。
 それでも、
『まあ考えてみれば、生まれて初めて女子に作ってもらったし、それも俺のためだけに』
といじらしさを感じてしまう。そして今までの大翔だったら、迷わず文句のマシンガンのはずが、
「えっこれっておいしい!卵と生ハムのマッチが最高」
と心にもないことを口に出すほど、大翔の心は完全にもってかれている。
 その言葉を聞いて、英美里も満面の笑顔になり、
「ほんと?うれしい。磯田君って何が好き?次もがんばるから」
と甘えてくる。
『こんな嘘っぽいことでも、真に受けるんだ。何て素直ないい子。それに次もって』
 英美里の“次も”が、大翔の胸に刺さってくる。
『何だこのフワフワした感じ。ずっと続いてほしい』
「あっ俺?何でも食べるよ。そんなことより、磯田でなく大翔でいいよ」
「そんな~緊張する・・・・・言うね・・・大翔」
 全身に電流が走るとはこのことだ。これまで経験したことない快感が大翔を覆い尽くす。
「じゃあ俺も英美里って呼ぶ」
 こんな色男の言葉も、今の大翔なら舌も滑らかに抵抗なく出てくる。
「わあうれしい。ねえねえ、また乗りに行こ」
 英美里の瞳には、光るものがあった。
  
 次に向かったのはお化け屋敷。より密着できる最高の場を、図らずも二人とも選択していた。
「ねえ怖くないよね?」
「大丈夫、俺に任せとけ」
 楽しそうに歩いてた大翔たちの前に、泣いてる少年を見つけた。
「どうしたの?迷子?」
 大翔が優しく話し掛けるとすぐに、
「迷子センターへ行ってくる」
と走って行った。その間も、英美里はその少年をなだめ続ける。
 それから大翔が少年の母親を連れて来るのを見つけ、英美里もうっとりした。
『え~カッコいい!すぐに行動するなんて』
 戻って来た大翔が目にしたのは、泣く子をあやしてる英美里の笑顔だった。
『何て気遣いする子だ。完全にやられた』
 この予期せぬ出来事が、二人の仲を急速に近づけることになった。
 
 その後も時間を惜しむかのように、アトラクションに乗り続ける。 
『英美里と出会え、ほんと~に良かった』  
 そもそも愛実が本命だったこと、そして寬司に愛美を譲ったことを悔しがったことなど忘れさせるくらい、充実した時間が過ぎていった。
 とても今日出会ったばかりとは思えないほど、二人からは恋人感が溢れてる。
 
 日も沈みかけ、閉園の時間が迫ってきました。大翔がこのまま終わらないで欲しいと願ったことは、これまでの人生で未だかつてなかったかも知れない。
『あ~何て早く過ぎてくんだ。まだ帰りたくない』
 充実感で満ちてた大翔だったが、英美里が突然と衝撃的な言葉を漏らした。
「話さないといけないことがあるの」
 普段は鈍感な大翔だが、さすがに英美里の真剣な眼差しに異変を感じている。
「うんいいよ。何でも話して」
 嫌な予感が頭を過り、本当は話してもらいたくなかったのだが。
「大翔って・・・」
 そこでまでで言葉が途切れたが、英美里は意を決したように再び話し始めた。
「義理チョコだったの。本命は東山君。でも彼が愛実に行くこと分かってたから・・・だから本命チョコは誰にも渡してないの。ゴメンね、だましたようで。知ってたよ、大翔が愛実を好きだってこと。だから大翔を迷わせようと嫌がらせしたの。でも今日は本当に楽しかった。付き合ってくれてありがとう。それに大翔が気を遣ってくれてるのも分かってた。私が言うことでないけど、何かこのまま続いてほしいって。だから初めは義理チョコだったけど、今は大翔が大好き」
 そこまで言うと、英美里は涙が止まらなくなり、しゃがみ込んでしまった。
『ショック!えっ俺って当て馬?』
 さすがに大翔は言葉を失い、今日1日の出来事が、音を立てて崩れ落ちていくのがよく分かった。
 それでも、
『考えてみれば俺だって本命じゃなかったといえばそうか。そんなことより今は楽しくて幸せだけど。でも・・・でもさすがに、こちらから付き合いたいとはお願いしにくいし』
と頭の中がグチャグチャとなり、思考が停止してしまった。 
 気を取り戻した英美里が、小さな声で話し始めた。
「ほんと勝手だけど、またここに一緒に来てくれない?ねえお願い、そうして」
 そう消え入るような声で懇願してきた。
 混乱してしまい、大翔もすぐには答えが見つけ出せない。
「う~ん・・・分かった。じゃあもしもだけど、俺が付き合う気になったら、次の日曜日の朝10時、この遊園地の入り口にまた来る。でもそれまでは連絡取り合うのを止めとこうな」
 それだけ言い残すと、大翔は去っていった。
 彼にとっては、1日という短い時間だったが、天国と地獄を同時に見た気分となった。
 それからというもの、大翔は苦悶の一週間を過ごすことになる。

 ついに運命の日を迎えた。英美里は、約束の10時から1時間も前の9時には,すでに到着していた。
『あんなこと言わなきゃ良かったかも・・・でも嘘ついたままじゃ嫌だったし。それでもやっぱり大翔が好き』
 揺れ動く女心に、切なく意地らしさが感じられる。

 まだまだ開場は先なのに、ボチボチと入園者が集まって来たかと思うと、あっという間に長蛇の列が出来てきた。そこに大翔の姿を探すが、見つけることはできない。
『やっぱり来ないか。そりゃそうよね』
 そのときだった。
「英美里~!」
 列のはるか後方から、大翔の声が聞こえた。それを見つけた英美里も、
「大翔~」
と叫びながら駆け寄っていき、ためらわず抱きついた。
「来てくれてありがとう。大大だ~い好き!」
「何だよ今さら。俺たち付き合ってんだろ」
 泣きじゃくる英美里を、大翔はしっかりと抱き寄せた。
「こちらこそゴメン。待たせちゃった。あっあとこれ」
 そう言うと、大翔は1本の真っ赤なバラを英美里に差し出した。
「早いけどチョコレートのお返し」
   
 恋の第2幕が開いた。

 偶然から生まれる愛。2月14日がそんな1日になるかも。

                                            


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