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1杯のごはん
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渚は受験を間近に控えた中学三年生。部活動も引退し、今は勉強、勉強の毎日だ。ここでがんばってあこがれの高校生活を、希望校で送りたいと思い日々努力している。家族にも少しずつだが、その緊張感が出ている。特に母の由希子は、我がことのように心配な毎日が続く。
「渚、勉強の調子はどう?」
「がんばりどころよ、今がんばらなくていつがんばるの!」
「何か食べたいものはない?あったらなんでも言って。作ってあげるから」
矢継ぎ早に小言が出てくる。しかし、さすがに顔を合わせるたびに言われてしまうと、渚もうっとうしく感じるのは当然だ。
「何回同じこと言うの」
「ちゃんと勉強してるからもう言わないで」
「あ~、もうるさいうるさい」
こんな会話が、日常聞かれるのが、受験生を抱えた家庭の宿命だ。
ただ毎日のように繰り返されるので、見かねた父の拓司が止めにかかる。
「ママ。いいじゃないか。渚もがんばってるんだし」
こんなこと言ってしまうと、倍になって返ってくるのが関の山。
「あなたがそんな甘いこと言うから、成績が今いち伸びないのよ。こんなときこそ家族が団結じゃないの?」
倍に返ってきた。
「わかった、わかった。もう言わないよ」
いつもゲームはここで終了。みんな火の粉が飛んでこないよう、自分の部屋にさっさと退散していく。
「ママ、ただいま」
渚が学校から帰ってきた。部屋に入ると一日の活動の確認となる。
5時から~8時まで塾。9時までが食事とリラックスタイム。そして9時~1時まで部屋で勉強。決まったルーティーンを口に出し唱える。
本日のすべての活動を終えると、渚が最も楽しみしているのことが始まる。つまりこういうことだ。
台所に置いてあるお茶碗に米粒を入れるが、そこには厳然たるルールが存在する。
・勉強がんばったら2粒
・学校生活がんばったら1粒
・お手伝いがんばったら1粒
・他は1粒
この渚独自のルールにそって、一日の終わりに米粒を入れていく。今日の結果は、勉強2粒、学校生活1粒だったので、計3粒だった。
がんばったぞ 渚
自分に言い聞かせるようにつぶやく。これ自体は思いつきで二ヶ月前から始めたが、なかなか米粒の数が増えてこないのが実情だ。それでもようやく半分くらいになってきた。
やばい 受験まであと三か月しかない それまでにはぜったい一杯にしてみせる
はたしてこのお茶碗が一杯になるのは、いったいいつになることやら。
二月も中旬を過ぎ、いよいよ受験の日が近づいてきた。お茶碗の米粒はどうなったのだろうか。
確かに渚のがんばりは相当なものだったが、、思った以上に米粒の数が増えているように思えて仕方がない。不思議に思った渚が、みんなに尋ねてみた。
「ねえ、誰か知ってる?この頃、急に米粒の数が増えてきたんだけど。まさか誰かいたずらでもしたの?」
誰も口を開かない。それどころか何かを隠している様子が見え見えだ。
「みんな知ってると思うけど、このお米には、大きな意味があるって言ったはずよ。もしいやがらせなら止めて!」
そこまで聞いていて、こらえきれず口火を切ったのは、拓司だった。
「そのことなら・・・渚、ごめん。お米入れたのパパ。もちろんふざけたのではなく、渚と一緒に受験を乗り越えたいと思って。だから、パパはその日お酒を飲まなかったら、1粒入れてたんだ。初めから渚に言っとけばよかったな。ごめん」
突然始まった懺悔に、その場はよけいに静まりかえってしまった。
すると今度は由希子がしゃべり出す。
「渚、実はママも入れてたの。もちろん意地悪ではなく、パパにも相談してないわ。渚の夜食がうまくできたら入れてたの。ママも受験に関わりたくて。黙っててごめんね」
拓司だけでなく由希子からまでからも謝罪され、渚もどうしていいか分からなくなってきた。すると、
「お姉ちゃん、僕も」
と、なんと小学四年生の弟の翼までもが。
「僕はパパ、ママの言うことを聞けたら1粒入れてた」
ここまでくると、 さすがに渚はあきれてものが言えない。でもみんなの気持ちが痛いほど分かるだけに、怒るに怒れなくなってしまっている。
「もういい、私の気持ちも考えないで」
そう叫ぶと、そのまま部屋に引きこもってしまった。
渚の目からは大粒の涙があふれてきたが、それは怒りからくるものでは、決してなかった。
受験を三日後に控え、ようやくお茶碗一杯になった。予定通りこれまでのごほうびとして、お米を炊き上げごはんを食べることになった。ただ計算と違うのは、一人ではなく家族四人で、一緒に一杯のご飯をほうばうということ。
そこには受験に向かう渚の決意あるまなざしと、それを支える渚親衛隊の笑顔があった。
受験は個人戦、受験勉強は団体戦。
二月の今、まさに受験は佳境。
受験生のみんな、自分の力を信じて勝利をつかめ。
きっと君に勝利の女神が微笑む。
桜咲く。
「渚、勉強の調子はどう?」
「がんばりどころよ、今がんばらなくていつがんばるの!」
「何か食べたいものはない?あったらなんでも言って。作ってあげるから」
矢継ぎ早に小言が出てくる。しかし、さすがに顔を合わせるたびに言われてしまうと、渚もうっとうしく感じるのは当然だ。
「何回同じこと言うの」
「ちゃんと勉強してるからもう言わないで」
「あ~、もうるさいうるさい」
こんな会話が、日常聞かれるのが、受験生を抱えた家庭の宿命だ。
ただ毎日のように繰り返されるので、見かねた父の拓司が止めにかかる。
「ママ。いいじゃないか。渚もがんばってるんだし」
こんなこと言ってしまうと、倍になって返ってくるのが関の山。
「あなたがそんな甘いこと言うから、成績が今いち伸びないのよ。こんなときこそ家族が団結じゃないの?」
倍に返ってきた。
「わかった、わかった。もう言わないよ」
いつもゲームはここで終了。みんな火の粉が飛んでこないよう、自分の部屋にさっさと退散していく。
「ママ、ただいま」
渚が学校から帰ってきた。部屋に入ると一日の活動の確認となる。
5時から~8時まで塾。9時までが食事とリラックスタイム。そして9時~1時まで部屋で勉強。決まったルーティーンを口に出し唱える。
本日のすべての活動を終えると、渚が最も楽しみしているのことが始まる。つまりこういうことだ。
台所に置いてあるお茶碗に米粒を入れるが、そこには厳然たるルールが存在する。
・勉強がんばったら2粒
・学校生活がんばったら1粒
・お手伝いがんばったら1粒
・他は1粒
この渚独自のルールにそって、一日の終わりに米粒を入れていく。今日の結果は、勉強2粒、学校生活1粒だったので、計3粒だった。
がんばったぞ 渚
自分に言い聞かせるようにつぶやく。これ自体は思いつきで二ヶ月前から始めたが、なかなか米粒の数が増えてこないのが実情だ。それでもようやく半分くらいになってきた。
やばい 受験まであと三か月しかない それまでにはぜったい一杯にしてみせる
はたしてこのお茶碗が一杯になるのは、いったいいつになることやら。
二月も中旬を過ぎ、いよいよ受験の日が近づいてきた。お茶碗の米粒はどうなったのだろうか。
確かに渚のがんばりは相当なものだったが、、思った以上に米粒の数が増えているように思えて仕方がない。不思議に思った渚が、みんなに尋ねてみた。
「ねえ、誰か知ってる?この頃、急に米粒の数が増えてきたんだけど。まさか誰かいたずらでもしたの?」
誰も口を開かない。それどころか何かを隠している様子が見え見えだ。
「みんな知ってると思うけど、このお米には、大きな意味があるって言ったはずよ。もしいやがらせなら止めて!」
そこまで聞いていて、こらえきれず口火を切ったのは、拓司だった。
「そのことなら・・・渚、ごめん。お米入れたのパパ。もちろんふざけたのではなく、渚と一緒に受験を乗り越えたいと思って。だから、パパはその日お酒を飲まなかったら、1粒入れてたんだ。初めから渚に言っとけばよかったな。ごめん」
突然始まった懺悔に、その場はよけいに静まりかえってしまった。
すると今度は由希子がしゃべり出す。
「渚、実はママも入れてたの。もちろん意地悪ではなく、パパにも相談してないわ。渚の夜食がうまくできたら入れてたの。ママも受験に関わりたくて。黙っててごめんね」
拓司だけでなく由希子からまでからも謝罪され、渚もどうしていいか分からなくなってきた。すると、
「お姉ちゃん、僕も」
と、なんと小学四年生の弟の翼までもが。
「僕はパパ、ママの言うことを聞けたら1粒入れてた」
ここまでくると、 さすがに渚はあきれてものが言えない。でもみんなの気持ちが痛いほど分かるだけに、怒るに怒れなくなってしまっている。
「もういい、私の気持ちも考えないで」
そう叫ぶと、そのまま部屋に引きこもってしまった。
渚の目からは大粒の涙があふれてきたが、それは怒りからくるものでは、決してなかった。
受験を三日後に控え、ようやくお茶碗一杯になった。予定通りこれまでのごほうびとして、お米を炊き上げごはんを食べることになった。ただ計算と違うのは、一人ではなく家族四人で、一緒に一杯のご飯をほうばうということ。
そこには受験に向かう渚の決意あるまなざしと、それを支える渚親衛隊の笑顔があった。
受験は個人戦、受験勉強は団体戦。
二月の今、まさに受験は佳境。
受験生のみんな、自分の力を信じて勝利をつかめ。
きっと君に勝利の女神が微笑む。
桜咲く。
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