私はだれ? 2 (選択的夫婦別姓の真実)

101の水輪

文字の大きさ
1 / 1

私はだれ? 2 (選択的夫婦別姓の真実)

しおりを挟む
 どこにでもいる普通の心桜だが、帰宅すると普通じゃなくなってしまう。
「津田さん、宅急便です」
「は~い、今行きます」
 出てきたのは心桜の母の瞳。瞳はリモートワークのため、週の三日は自宅勤務だ。
「心桜、通販で何か届いてるよ」
「やった。シーズンの最終公演のブルーレイがきた、待ってたのよね」
  確か心桜の名字は松波のはず。ところが母は津田と呼ばれている。そうだ、心桜と母との名字が違うのだ。ただ日本では法律上、選択的夫婦別姓はまだ認められていないので、心桜の両親は事実婚となる。心桜の名字は、父の稔と同じの松波、弟の賀来人は、瞳と名字が同じの津田で、中学一年生の津田賀来人と言う。すなわち兄弟で名字が違うのだ。両親が結婚するときに制度上別姓が認められてなかったので、それぞれの氏を名乗り二人の子どもにどちらかをつけることにした。そこにはルールがあり、最初に生まれた子は松波姓を、次が津田姓を付けることにしていた。これまでは、心桜も賀来人も別に違和感なく違う姓を名乗ってきていた。昨今、選択的夫婦別姓を認める法律が話題に上るようになってきたが、心桜の家ではまさに世間を先取りしていたとも言える。

 夕方、家族三人の食事中、テレビでは偶然にも選択的夫婦別姓を巡っての討論会を行っていた。
「いや日本では古来から夫婦は同じ姓を名乗ってきた歴史があるのです」
「ちょっと待ってください。江戸時代は別姓でしたよ」
「そんなこと言ったら家族の絆が緩んでしまうじゃないか」
「えっ私も別姓で家族みんな仲いいけど」
「兄弟同士で名字が違ったら子どもがかわいそうでしょ」
「何で男の名字を優先するのですか?」
「いや現行法でもどちらかの氏を名乗るとあります。女性の氏でもいいんですよ」
「伝統的な家制度が残る日本ではやはり男性の氏が九十%以上だそうです」
「でも女性の名字は禁止ではない」
「やはり女性がキャリアをもつ今の世では、結婚で名前が変わるとその後の仕事に不利になってしまいます」
「だから、女性の姓を夫に名乗らせることも出来るんですよ」
「だいたい日本くらいですよ、別姓を認めてないのは。国連の機関も男女差別だと特定しています」
「まるで天皇家の後継問題みたいだよね。とにかく男系しか認めてない」
「それは論点が違うでしょう」
「ではMCの田丸さんは結婚したらどちらを名乗ります?」
「私・・・ですか?それは・・・夫の姓かな。だってそれが普通、女子の憧れでしょう」
「結局そうなんですか」
 この問題の典型的な議論。互いに譲ろうとしない。
 
 テレビを見ていた心桜は、ふと思い込んだ。

 うちではどうだろう?

 心桜、母、弟の誰もが改めて別の氏を名乗ることの難しさを感じていたところ、一本の電話がかかってくる。
「松波心桜さんのお宅ですか。私GNNニュースプロヂューサーの風間です」
 偶然出た心桜は、けげんなうちに返事をした。
「はい。松波心桜ですが何か?」
 すると思いもしなかった答えが返ってきた。
「実は今度うちの番組で選択的夫婦別姓をテーマに討論会をやろうと思ってるんです。それも若者限定の討論会です。そこで、に実際別姓の松波さんに出てもらいたいのですが、いかかがでしょうか」
「えっ?まあ家族で相談してみますので、後ほどまた連絡します」
 そんな大事なこと、にわかに答えられるわけがない。
「分かりました、ぜひお考えください、お願いします」
 そこまで言うと、ひとまず電話がを切られた。

 私がテレビに、それもお堅い討論番組だなんて
 
「ママ、あのね・・・・・」
  家族会議が始まった。いったい松波、津田家は別姓で良かったのか、問題はあるのかないなのか、これまでは考えてもこなかったことを、真摯に語り合った。
「俺、別に気にならないんだけれど」
「私だって不便だと思ったことはない。でも世間から見ると、家の家族って普通じゃないみたいよね。ところで普通っていったい何なのかなあ?」
 
 過去、現在、未来。その時々で変化が必要なこと、逆に変化してはいけないこと。それはその時代に生きる人が決めること。
 
 あなたの周りにある普通って何だろう?
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...