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私はだれ? 2 (選択的夫婦別姓の真実)
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どこにでもいる普通の心桜だが、帰宅すると普通じゃなくなってしまう。
「津田さん、宅急便です」
「は~い、今行きます」
出てきたのは心桜の母の瞳。瞳はリモートワークのため、週の三日は自宅勤務だ。
「心桜、通販で何か届いてるよ」
「やった。シーズンの最終公演のブルーレイがきた、待ってたのよね」
確か心桜の名字は松波のはず。ところが母は津田と呼ばれている。そうだ、心桜と母との名字が違うのだ。ただ日本では法律上、選択的夫婦別姓はまだ認められていないので、心桜の両親は事実婚となる。心桜の名字は、父の稔と同じの松波、弟の賀来人は、瞳と名字が同じの津田で、中学一年生の津田賀来人と言う。すなわち兄弟で名字が違うのだ。両親が結婚するときに制度上別姓が認められてなかったので、それぞれの氏を名乗り二人の子どもにどちらかをつけることにした。そこにはルールがあり、最初に生まれた子は松波姓を、次が津田姓を付けることにしていた。これまでは、心桜も賀来人も別に違和感なく違う姓を名乗ってきていた。昨今、選択的夫婦別姓を認める法律が話題に上るようになってきたが、心桜の家ではまさに世間を先取りしていたとも言える。
夕方、家族三人の食事中、テレビでは偶然にも選択的夫婦別姓を巡っての討論会を行っていた。
「いや日本では古来から夫婦は同じ姓を名乗ってきた歴史があるのです」
「ちょっと待ってください。江戸時代は別姓でしたよ」
「そんなこと言ったら家族の絆が緩んでしまうじゃないか」
「えっ私も別姓で家族みんな仲いいけど」
「兄弟同士で名字が違ったら子どもがかわいそうでしょ」
「何で男の名字を優先するのですか?」
「いや現行法でもどちらかの氏を名乗るとあります。女性の氏でもいいんですよ」
「伝統的な家制度が残る日本ではやはり男性の氏が九十%以上だそうです」
「でも女性の名字は禁止ではない」
「やはり女性がキャリアをもつ今の世では、結婚で名前が変わるとその後の仕事に不利になってしまいます」
「だから、女性の姓を夫に名乗らせることも出来るんですよ」
「だいたい日本くらいですよ、別姓を認めてないのは。国連の機関も男女差別だと特定しています」
「まるで天皇家の後継問題みたいだよね。とにかく男系しか認めてない」
「それは論点が違うでしょう」
「ではMCの田丸さんは結婚したらどちらを名乗ります?」
「私・・・ですか?それは・・・夫の姓かな。だってそれが普通、女子の憧れでしょう」
「結局そうなんですか」
この問題の典型的な議論。互いに譲ろうとしない。
テレビを見ていた心桜は、ふと思い込んだ。
うちではどうだろう?
心桜、母、弟の誰もが改めて別の氏を名乗ることの難しさを感じていたところ、一本の電話がかかってくる。
「松波心桜さんのお宅ですか。私GNNニュースプロヂューサーの風間です」
偶然出た心桜は、けげんなうちに返事をした。
「はい。松波心桜ですが何か?」
すると思いもしなかった答えが返ってきた。
「実は今度うちの番組で選択的夫婦別姓をテーマに討論会をやろうと思ってるんです。それも若者限定の討論会です。そこで、に実際別姓の松波さんに出てもらいたいのですが、いかかがでしょうか」
「えっ?まあ家族で相談してみますので、後ほどまた連絡します」
そんな大事なこと、にわかに答えられるわけがない。
「分かりました、ぜひお考えください、お願いします」
そこまで言うと、ひとまず電話がを切られた。
私がテレビに、それもお堅い討論番組だなんて
「ママ、あのね・・・・・」
家族会議が始まった。いったい松波、津田家は別姓で良かったのか、問題はあるのかないなのか、これまでは考えてもこなかったことを、真摯に語り合った。
「俺、別に気にならないんだけれど」
「私だって不便だと思ったことはない。でも世間から見ると、家の家族って普通じゃないみたいよね。ところで普通っていったい何なのかなあ?」
過去、現在、未来。その時々で変化が必要なこと、逆に変化してはいけないこと。それはその時代に生きる人が決めること。
あなたの周りにある普通って何だろう?
「津田さん、宅急便です」
「は~い、今行きます」
出てきたのは心桜の母の瞳。瞳はリモートワークのため、週の三日は自宅勤務だ。
「心桜、通販で何か届いてるよ」
「やった。シーズンの最終公演のブルーレイがきた、待ってたのよね」
確か心桜の名字は松波のはず。ところが母は津田と呼ばれている。そうだ、心桜と母との名字が違うのだ。ただ日本では法律上、選択的夫婦別姓はまだ認められていないので、心桜の両親は事実婚となる。心桜の名字は、父の稔と同じの松波、弟の賀来人は、瞳と名字が同じの津田で、中学一年生の津田賀来人と言う。すなわち兄弟で名字が違うのだ。両親が結婚するときに制度上別姓が認められてなかったので、それぞれの氏を名乗り二人の子どもにどちらかをつけることにした。そこにはルールがあり、最初に生まれた子は松波姓を、次が津田姓を付けることにしていた。これまでは、心桜も賀来人も別に違和感なく違う姓を名乗ってきていた。昨今、選択的夫婦別姓を認める法律が話題に上るようになってきたが、心桜の家ではまさに世間を先取りしていたとも言える。
夕方、家族三人の食事中、テレビでは偶然にも選択的夫婦別姓を巡っての討論会を行っていた。
「いや日本では古来から夫婦は同じ姓を名乗ってきた歴史があるのです」
「ちょっと待ってください。江戸時代は別姓でしたよ」
「そんなこと言ったら家族の絆が緩んでしまうじゃないか」
「えっ私も別姓で家族みんな仲いいけど」
「兄弟同士で名字が違ったら子どもがかわいそうでしょ」
「何で男の名字を優先するのですか?」
「いや現行法でもどちらかの氏を名乗るとあります。女性の氏でもいいんですよ」
「伝統的な家制度が残る日本ではやはり男性の氏が九十%以上だそうです」
「でも女性の名字は禁止ではない」
「やはり女性がキャリアをもつ今の世では、結婚で名前が変わるとその後の仕事に不利になってしまいます」
「だから、女性の姓を夫に名乗らせることも出来るんですよ」
「だいたい日本くらいですよ、別姓を認めてないのは。国連の機関も男女差別だと特定しています」
「まるで天皇家の後継問題みたいだよね。とにかく男系しか認めてない」
「それは論点が違うでしょう」
「ではMCの田丸さんは結婚したらどちらを名乗ります?」
「私・・・ですか?それは・・・夫の姓かな。だってそれが普通、女子の憧れでしょう」
「結局そうなんですか」
この問題の典型的な議論。互いに譲ろうとしない。
テレビを見ていた心桜は、ふと思い込んだ。
うちではどうだろう?
心桜、母、弟の誰もが改めて別の氏を名乗ることの難しさを感じていたところ、一本の電話がかかってくる。
「松波心桜さんのお宅ですか。私GNNニュースプロヂューサーの風間です」
偶然出た心桜は、けげんなうちに返事をした。
「はい。松波心桜ですが何か?」
すると思いもしなかった答えが返ってきた。
「実は今度うちの番組で選択的夫婦別姓をテーマに討論会をやろうと思ってるんです。それも若者限定の討論会です。そこで、に実際別姓の松波さんに出てもらいたいのですが、いかかがでしょうか」
「えっ?まあ家族で相談してみますので、後ほどまた連絡します」
そんな大事なこと、にわかに答えられるわけがない。
「分かりました、ぜひお考えください、お願いします」
そこまで言うと、ひとまず電話がを切られた。
私がテレビに、それもお堅い討論番組だなんて
「ママ、あのね・・・・・」
家族会議が始まった。いったい松波、津田家は別姓で良かったのか、問題はあるのかないなのか、これまでは考えてもこなかったことを、真摯に語り合った。
「俺、別に気にならないんだけれど」
「私だって不便だと思ったことはない。でも世間から見ると、家の家族って普通じゃないみたいよね。ところで普通っていったい何なのかなあ?」
過去、現在、未来。その時々で変化が必要なこと、逆に変化してはいけないこと。それはその時代に生きる人が決めること。
あなたの周りにある普通って何だろう?
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