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星に願いを1(もどっておいで)
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♫ ささの葉さらさらのきばにゆれる
おほしさまきらきらきんぎんすなご
ごしきのたんざくわたしがかいた
おほしさまきらきらそらからみてる♫
あなたは七夕について、どれだけ知っているか? 話はこうだ。
天の神のひとり娘である織姫は、機織りが上手で神々の機を織る働き者の女性。そんな織り姫が年ごろになったので、天の神は婿として、牛を飼っている働き者の彦星と引き合わせた。
すぐに2人は恋に落ち結婚する。ところが結婚したとたん、2人は遊んでばかりで働かなくなってしまう。
怒った天の神は、二人を天の川の東と西の両岸に引き離しまうが、織女があまりにも嘆き悲しむので、1年に1度の7月7日の夜にだけ、会うことを許した。
それからというもの、2人はかつての働き者にもどり、その日が来るのを楽しみに毎日を過ごす。
いよいよ7月7日の夜。織姫は彦星に会いに行くが、雨で天の川の水かさが増え、川を渡ることができない。そんなとき、どこからかかわさぎが飛んできて、天の川に橋をかけ、織姫を渡してくれた。
この話から由来し、人々は、大事な七夕の日に2人が雨で会えなくなることがないよう、短冊に願いを書き出したといわれている。
県立あすなろ病院には、重度の病気の治療に専念するために学校へ通えない子どもたちの院内学級がある。1つは小学生対象の「すずらん学級」、いまひとつは中学生対象の「やまばと学級」。
すずらん学級には、芳樹(小1)、美鈴(小3)、マリナ(小6)の3名。やまばと学級には、愛莉(中1)、拓哉(中3)の2名の子どもたちがいる。
そこには小学校1年生から中学校3年生と幅広く通っていて、5人の病状は様々だ。心臓、呼吸器、血液等に疾患をもち、2年以上も入院している子どももいる。
通うというより、病気治療のため長期入院してる彼らのため、学習の遅れが出ないように支援し、心の空白を埋めることが院内学級の役割だ。
その院内学級には、男性の武田と女性の塚本の2名の教師が派遣されている。子どもたちは親しみを込め、〝タケちゃん、ツカちゃん〟と呼んでいる。タケちゃんは新採3年目のイケメンで、女子のあこがれの的。ツカちゃんはまさにお母さん的な存在で、何でも悩み事を打ち明けられる。
教師を含めみんな仲良しで、そこで生活する7人は、
あすなろセブン
と呼ばれている。
「タケちゃん会いたかった」
さっそく女子たちの歓迎だ。特にお年頃の愛莉は、タケちゃんが来る火曜日は、前日からウキウキ感が止まらない。
「ね~ね~、話聞いて」
「わかったよ、授業が終わってからね」
ツカちゃんもやって来て、タケちゃんは小学生、ツカちゃんは中学生の授業を始める。
「え~と、算数やるよ。1、3年生は計算問題、マリナは図形の問題だ」
「ではこっちは愛莉が正と負の計算で、拓哉は二次方程式のところね」
時間が限られているため、先生も子どもたちも真剣そのもだ。
それでも、ここは病院。
「タケちゃん、頭が痛い」
そう言ってマリナが頭を抱え込んでしまう。見ると鼻血も出ている。
「わかった、待っててね。すぐに緑川さん呼んでくるから」
タケちゃんが、慌ててナースセンターへ走った。こうなると授業は一端中止となる。他の子どもたちも心配そうに見ているところ、新庄医師と緑川看護師が駆けつけてきた。
「マリナちゃん、マリナちゃん。聞こえる?」
応答がない。顔色も青ざめてきて、一刻を争っているのは明らかだ。
「すぐに処置室へ運んで。お母さんにも連絡して。来てもらうように」
マリナがストレッチャーに乗せられで運ばれていく。そして処置中の赤ランプが付いた。
あすなろセブンに、動揺が走る。
「マリナっ」
マリナのまぶたが、かすかに動いた。
「先生、マリナ動いたよ」
新庄が脈を測ると、ホッとした表情に変わった。
「もう大丈夫だ」
ベッドを囲んでいたあすなろセブンは、喜びにあふれた。今まで泣いていた芳樹、美鈴、愛莉にも笑顔が戻っている。
でも安心はできない。なぜならここは病院だ。いつ再発するか、もっと言うと、いつ他の子どもにも出るかも分からないのが病院という所だ。
2日後にマリナはICUから病室に戻ったが、そこは無菌仕様の個室。急性小児白血病の病状が悪化したマリナは、当面みんなとの接触は禁止となる面会謝絶となった。
「聞いた?マリナ面謝だって。あすなろセブンはどうなるんだろう?」
子どもたちには、この話題でもちっきり。それでも彼らの結束は堅く、心はつながっている。
マリナ、早く戻っておいで
子どもたちは病院外に出ることができないので、外からたくさんのゲストティーチャーが訪れる。この日は毎月1回の講座があり、講師として天文台の職員が、夏の星について話すことになっている。
「夏の大三角形って知ってるかな?」
「知らなーい」
「じゃあ、七夕の話は?」
今日は7月2日。そう5日後には七夕だ。 みんなの目がキラキラしてきた。
「織姫さまと彦星が年に一回だけ会う話でしょ」
「そう、その七夕と関係あるのが夏の大三角形で・・・・・・」
お話会のあとは、七夕飾りに移る。大きな笹がプレイルームに立てかけられ、五色の短冊に、それぞれが願い事を書き込んでいく。
学校に行きたい 美鈴
彼氏がほしい 愛莉
受験がうまくいきますように 拓哉
いい子になるので病気をなおして 芳樹
みんな早く退院できますように 武田・塚本
そして
マリナ
そこに掛けられているマリナの短冊には、当然なことに文字は見当たらない。
すると拓哉が、もう一つ付け足したいと言い出した。むろん反対する者はいない。
あすなろセブンが早くそろいますように
6人は手を合わせ、心から祈った。
7月7日になった。タケちゃんとツカちゃんも七夕祭りに参加している。でも残念なことに外は雨で、このままでは天の川が見えず、これでは織姫と彦星は会うことができない。
さらにショックなことが、新庄からみんなに伝えられた。
「ICUのマリナちゃんが、東京の病院へ転院することになりました」
ときが止まった。誰一人として話すことない。いや、それどころか泣くことすらできない。
「そこの病院だと、ここよりも先進医療が受けられます。可能性にかけましょう」
「先生、マリナ治るよね。戻ってくるよね」
「私もそう願っています。いま一番戦っているのはマリナちゃんです。みんなで応援しましょう」
新庄が後にしたプレイルームには、現実を受け止められない6人が残されていた。
その悲しみを打ち破るように、ツカちゃんが切り出す。
「大丈夫大丈夫。先生がおっしゃった通り、私たちは、ただただ祈りましょう」
6人の視線の先には、あの七夕飾りがあった。
あすなろセブンが早くそろいますように
マリナが東京へ向かう朝を迎えた。そこには、あすなろセブンはもちろん、新庄、緑川、そしてマリナに関わったすべての人が、見送りにきている。
「何みんな。なんで元気ない顔してるの?私ならすぐ戻ってくるって」
マリナの言葉に、誰もが心を揺さぶられた。
寂しさを打ち破るように、拓哉が元気な声を縛り出す。
「そうだよ、心配ないさ。早く帰って来いよ、マリナ!」
みんなは、それが簡単なことでないことをよく知っている。だからこそ、語気を強めて盛り上げようとしている拓哉の気持ちが痛い。
「じゃあ行ってくるね。バイバイ」
車が音静かに動き出した。
数ヶ月後、あすなろ病院に1通の封書が届いた。その手紙を、新庄がみんなのところに持ってきた。それはあのマリナが転院した病院からのものだった。
拓哉がみんなを代表し震える手で封を開ける。
そこには・・・・・。
あすなろは、小さなヒノキ科の木。そしてヒノキよりも小さいため
明日はヒノキになろう
という成長の意思があるといわれている。そんな名をもつあすなろ病院は、子どもが元気で健やかにまっすぐ成長し、明日は今よりも少しでも成長してほしいと願っている。
7月7日は七夕。願い事を書き留めた短冊を笹につるし、夜空を見上げたい。
おほしさまきらきらきんぎんすなご
ごしきのたんざくわたしがかいた
おほしさまきらきらそらからみてる♫
あなたは七夕について、どれだけ知っているか? 話はこうだ。
天の神のひとり娘である織姫は、機織りが上手で神々の機を織る働き者の女性。そんな織り姫が年ごろになったので、天の神は婿として、牛を飼っている働き者の彦星と引き合わせた。
すぐに2人は恋に落ち結婚する。ところが結婚したとたん、2人は遊んでばかりで働かなくなってしまう。
怒った天の神は、二人を天の川の東と西の両岸に引き離しまうが、織女があまりにも嘆き悲しむので、1年に1度の7月7日の夜にだけ、会うことを許した。
それからというもの、2人はかつての働き者にもどり、その日が来るのを楽しみに毎日を過ごす。
いよいよ7月7日の夜。織姫は彦星に会いに行くが、雨で天の川の水かさが増え、川を渡ることができない。そんなとき、どこからかかわさぎが飛んできて、天の川に橋をかけ、織姫を渡してくれた。
この話から由来し、人々は、大事な七夕の日に2人が雨で会えなくなることがないよう、短冊に願いを書き出したといわれている。
県立あすなろ病院には、重度の病気の治療に専念するために学校へ通えない子どもたちの院内学級がある。1つは小学生対象の「すずらん学級」、いまひとつは中学生対象の「やまばと学級」。
すずらん学級には、芳樹(小1)、美鈴(小3)、マリナ(小6)の3名。やまばと学級には、愛莉(中1)、拓哉(中3)の2名の子どもたちがいる。
そこには小学校1年生から中学校3年生と幅広く通っていて、5人の病状は様々だ。心臓、呼吸器、血液等に疾患をもち、2年以上も入院している子どももいる。
通うというより、病気治療のため長期入院してる彼らのため、学習の遅れが出ないように支援し、心の空白を埋めることが院内学級の役割だ。
その院内学級には、男性の武田と女性の塚本の2名の教師が派遣されている。子どもたちは親しみを込め、〝タケちゃん、ツカちゃん〟と呼んでいる。タケちゃんは新採3年目のイケメンで、女子のあこがれの的。ツカちゃんはまさにお母さん的な存在で、何でも悩み事を打ち明けられる。
教師を含めみんな仲良しで、そこで生活する7人は、
あすなろセブン
と呼ばれている。
「タケちゃん会いたかった」
さっそく女子たちの歓迎だ。特にお年頃の愛莉は、タケちゃんが来る火曜日は、前日からウキウキ感が止まらない。
「ね~ね~、話聞いて」
「わかったよ、授業が終わってからね」
ツカちゃんもやって来て、タケちゃんは小学生、ツカちゃんは中学生の授業を始める。
「え~と、算数やるよ。1、3年生は計算問題、マリナは図形の問題だ」
「ではこっちは愛莉が正と負の計算で、拓哉は二次方程式のところね」
時間が限られているため、先生も子どもたちも真剣そのもだ。
それでも、ここは病院。
「タケちゃん、頭が痛い」
そう言ってマリナが頭を抱え込んでしまう。見ると鼻血も出ている。
「わかった、待っててね。すぐに緑川さん呼んでくるから」
タケちゃんが、慌ててナースセンターへ走った。こうなると授業は一端中止となる。他の子どもたちも心配そうに見ているところ、新庄医師と緑川看護師が駆けつけてきた。
「マリナちゃん、マリナちゃん。聞こえる?」
応答がない。顔色も青ざめてきて、一刻を争っているのは明らかだ。
「すぐに処置室へ運んで。お母さんにも連絡して。来てもらうように」
マリナがストレッチャーに乗せられで運ばれていく。そして処置中の赤ランプが付いた。
あすなろセブンに、動揺が走る。
「マリナっ」
マリナのまぶたが、かすかに動いた。
「先生、マリナ動いたよ」
新庄が脈を測ると、ホッとした表情に変わった。
「もう大丈夫だ」
ベッドを囲んでいたあすなろセブンは、喜びにあふれた。今まで泣いていた芳樹、美鈴、愛莉にも笑顔が戻っている。
でも安心はできない。なぜならここは病院だ。いつ再発するか、もっと言うと、いつ他の子どもにも出るかも分からないのが病院という所だ。
2日後にマリナはICUから病室に戻ったが、そこは無菌仕様の個室。急性小児白血病の病状が悪化したマリナは、当面みんなとの接触は禁止となる面会謝絶となった。
「聞いた?マリナ面謝だって。あすなろセブンはどうなるんだろう?」
子どもたちには、この話題でもちっきり。それでも彼らの結束は堅く、心はつながっている。
マリナ、早く戻っておいで
子どもたちは病院外に出ることができないので、外からたくさんのゲストティーチャーが訪れる。この日は毎月1回の講座があり、講師として天文台の職員が、夏の星について話すことになっている。
「夏の大三角形って知ってるかな?」
「知らなーい」
「じゃあ、七夕の話は?」
今日は7月2日。そう5日後には七夕だ。 みんなの目がキラキラしてきた。
「織姫さまと彦星が年に一回だけ会う話でしょ」
「そう、その七夕と関係あるのが夏の大三角形で・・・・・・」
お話会のあとは、七夕飾りに移る。大きな笹がプレイルームに立てかけられ、五色の短冊に、それぞれが願い事を書き込んでいく。
学校に行きたい 美鈴
彼氏がほしい 愛莉
受験がうまくいきますように 拓哉
いい子になるので病気をなおして 芳樹
みんな早く退院できますように 武田・塚本
そして
マリナ
そこに掛けられているマリナの短冊には、当然なことに文字は見当たらない。
すると拓哉が、もう一つ付け足したいと言い出した。むろん反対する者はいない。
あすなろセブンが早くそろいますように
6人は手を合わせ、心から祈った。
7月7日になった。タケちゃんとツカちゃんも七夕祭りに参加している。でも残念なことに外は雨で、このままでは天の川が見えず、これでは織姫と彦星は会うことができない。
さらにショックなことが、新庄からみんなに伝えられた。
「ICUのマリナちゃんが、東京の病院へ転院することになりました」
ときが止まった。誰一人として話すことない。いや、それどころか泣くことすらできない。
「そこの病院だと、ここよりも先進医療が受けられます。可能性にかけましょう」
「先生、マリナ治るよね。戻ってくるよね」
「私もそう願っています。いま一番戦っているのはマリナちゃんです。みんなで応援しましょう」
新庄が後にしたプレイルームには、現実を受け止められない6人が残されていた。
その悲しみを打ち破るように、ツカちゃんが切り出す。
「大丈夫大丈夫。先生がおっしゃった通り、私たちは、ただただ祈りましょう」
6人の視線の先には、あの七夕飾りがあった。
あすなろセブンが早くそろいますように
マリナが東京へ向かう朝を迎えた。そこには、あすなろセブンはもちろん、新庄、緑川、そしてマリナに関わったすべての人が、見送りにきている。
「何みんな。なんで元気ない顔してるの?私ならすぐ戻ってくるって」
マリナの言葉に、誰もが心を揺さぶられた。
寂しさを打ち破るように、拓哉が元気な声を縛り出す。
「そうだよ、心配ないさ。早く帰って来いよ、マリナ!」
みんなは、それが簡単なことでないことをよく知っている。だからこそ、語気を強めて盛り上げようとしている拓哉の気持ちが痛い。
「じゃあ行ってくるね。バイバイ」
車が音静かに動き出した。
数ヶ月後、あすなろ病院に1通の封書が届いた。その手紙を、新庄がみんなのところに持ってきた。それはあのマリナが転院した病院からのものだった。
拓哉がみんなを代表し震える手で封を開ける。
そこには・・・・・。
あすなろは、小さなヒノキ科の木。そしてヒノキよりも小さいため
明日はヒノキになろう
という成長の意思があるといわれている。そんな名をもつあすなろ病院は、子どもが元気で健やかにまっすぐ成長し、明日は今よりも少しでも成長してほしいと願っている。
7月7日は七夕。願い事を書き留めた短冊を笹につるし、夜空を見上げたい。
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