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5話 探求のはてに
しおりを挟む「ええええぇぇぇぇぇっ、霊って殴れるのぉ~っ?!」
俺の行動に深咲が驚きの声を上げる。
らしいぞ、俺も初めて知ったけどな。って、驚いてる場合じゃない。今は早く、中に入らないと。
「深咲、ドアを開けといてくれ!中を調べてくるよ」
俺は倒れた奴の脇をすり抜け、家の中に入る。
「うっ……なんだこの臭い……ひどいな」
リビングの中に入った途端、部屋の状況に俺は思わず声を上げてしまった。
16畳くらいあろうリビングの大半が全て血で染まっていて、中には侵入者と思われる若い男女の遺体が至るところに転がっている。
しかも、驚くことにその大半が四肢のどこかが欠損している。部屋の飛び散った血の原因は多分これなのだろう。
ただ遺体の欠損部位の全部が刃物で斬られたような痕に見えるだが、奴は刃物なんて持っていなかったぞ。
どういうことだ?
俺は遺体を調べていると、その中の一人がスマホを手にしているのが見えた。
「電池はまだいけるか?」
俺は手からスマホを取り、ホームボタンを押す。
幸いにも電源はまだ生きていて、中を確認することが出来た。
どうやら誰かにアプリを使ってメッセージを送ろうとしていたらしく文面が残っていた。
矢崎部長、すいません。俺はここまでみたいです。
やっぱり部長の言うとおりこの家は入るべきじゃなかった。
だから、部長も絶対に来ないでください。
「……こいつが失踪した例の部員だったのか」
どうやらスマホの持ち主は失踪したオカルトサークルの部員だったらしい。
矢崎の言いつけを破って、この家に侵入して、何者かによって致命傷を負わされ、矢崎に遺言を残したのだろう。
俺は続く文を読んでみた。
ここには悪霊は居ません。
居るのはただの殺人鬼です。
だから、絶対にこの家に入らないでくだ_
書かれた文面はそこで途切れていた。最後まで文字を打てず、おそらくこの辺りで息絶えたのだろう。
当然このメッセージは矢崎に送られることなく、矢崎はこの部員の死を知ることもない。
それは不憫だと思い、俺は最後の文面を完成させ、矢崎へメッセージを送信する。
「……お兄さん、これは?!」
リビングに入ってきた深咲が中の惨状に驚きの声を上げる。
「ヒドい有様だろ……」
「これをあの化け物が?」
「いや、実はこのスマホに被害者からのメッセージが残されていてな、犯人はどうやら人間らしいんだよ」
「……こ、これって人間の仕業なんですか?」
「らしいな……信じられないけど」
そう言って、俺は立ち上がり、背後の深咲に視線を移した。
「それで、いつからやってたんだ?」
「やってたって、なんのことです?」
「……お前なんだろ、こいつらを殺った殺人鬼ってのは」
「……なんでそう思うんです?」
「待機しとけって言ったのに入ってきてるからだよ」
俺の答えに深咲は笑い出す。
「それだけ?たったそれだけのことで私が殺人鬼だって言うんですか?」
深咲の言い分は至極正しい。だが、それが致命的なんだ。
「じゃあ、聞くけどなんでお前はあの状況で家に入って来れた?目の前に化け物が倒れていたろ。何人も殺した化物がパンチ一発で倒せるわけがない。すぐに復活するって考えなかったのか?」
「そ、それはお兄さんが心配だったから……」
「いや、お前が心配したのは俺がこの犯行が人の手によるものだって気づくかもしれないって思ったからだろ?それにお前はここの幽霊が無害だって知ってるのだから、普通に入ってくるよな」
俺がそう言うと、呆れたと言わんばかりに深咲は大きなため息をついた。
「ほんとそうゆうとこってブレませんよね、お兄さんって!……うざっ」
その言葉を皮切りに深咲の目つきが変わった。
殺意を込めた鋭い視線が俺を刺す。
「残念だよ……俺は結構お前のこといいなって思ってたんだけどな」
「……私もです。愛してましたよ、お兄さん」
深咲は懐に隠し持っていたナイフを取り出す。
「止めとけ、深咲。お前に俺は殺せない」
「なんですか……なんですか?その勝ち確定の主人公みたいな台詞は?」
「判らないのか?お前はもう詰んでるんだよ」
「だったら、見せてくださいよっ!」
深咲が猛然とナイフを振りかざし、襲いかかってきた。
思ったよりも速いその速度に反応が遅れた俺は、右腕を斬られてしまう。
「くっ」
真っ白なシャツの袖が裂け、鮮血が舞う。
よくその様であんな大口吐けましたね!」
「吐けるさ。時間は稼げたからな」
「時間?」
深咲が首を傾げ、問い返してきた。
しかし、俺が答えを言う前に答えが姿を現す。
それは入口で全力で守備をしていた幽霊さんだ。
相変わず〇椰子を彷彿させる這いつくばるスタイルで姿を現すと、すぐさま俺たちの間に割って入ると、俺に襲いかかってきた深咲の行く手を遮り、その手に握ったナイフを吹き飛ばした。
無防備になった深咲の腹部に俺は渾身の拳を叩きつけた。
苦悶の表情を浮かべ、深咲が膝を折る。
「……幽霊味方に付けるとか……そんなの有り?」
「当然だろ、最初からこの人は俺を助けようとしてくれていたんだから」
「最初から?」
「まだ気づかないのか?この人は俺の部屋に居た藤香だよ」
「藤香……うそでしょ?!……ほんと最悪……」
深咲は苦笑してみせると、そのまま地面に倒れた。
急所に入って意識を失ったのだろう。
「助かったよ、ありがとな、藤香」
俺は援護してくれた幽霊――藤香に礼を言う。
「いつ私だって気づいたんですか?」
「オカルトサークルの部員のメッセージに幽霊は居ないって書いてあったの読んだときかな。色々と説明つかなかったからな」
幽霊は居ない。にも関わらず、アパートに居た幽霊がこの屋敷の中に居た。そうなると、俺に憑いてきたっ可能性が高いと思った。
だが、アパートの中で俺に取り憑きそうな霊が居るとすれば、それは籐香しか考えられない。仮にあの化け物が憑いてきたとしたら、真っ先に俺が殺されたはずだろうからな。
「最初は怖がらせて貴方をあの殺人鬼から遠ざけるつもりでした。けど、私を殴ったときに貴方の行動力と勇気にかけてみようと思いました」
「本当に助かったよ、籐香」
「いえ、お礼を言うのは私です。これで私も……」
そんな会話をしていると遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来た。
どうやら、部員のメッセージを読んだ矢崎が警察に通報したのだろう。
「捕まったら面倒なんで、行くわ」
「はい……いろいろありがとうございました」
「俺がこんなこと言えた義理じゃないけど、早く成仏しろよ……じゃあな」
俺はそれだけ言って、裏口から家を後にした。
◇
「まさかこんな結末を持ってくるとは……相変わず持ってますね、先輩」
警察と入れ違いに家を出ることに成功した俺は、その足で喫茶店に戻っていた。
そこで腕の治療と事の顛末をさくらちゃんに話した。
「持ってるて言うなよ」
「で、今度こそボクの出番ですよね?」
「ああ、死ぬと入る家の噂がデマだって拡散させてくれ。藤香が安らかに出来る環境を作ってやりたいんだ」
「了解、任せておいてください」
そう言って、さくらちゃんはテーブルの上に起動させたPCに向かう。
◇
どうして、こうなったんだろ?
私は何を間違えたんだろ?
教えてください……お兄さん。
どうして、私はあなたを殺せなかったのでしょうか……?
パトカーの後部座席に座り深咲は項垂れていた。
ただ、それは反省ではない。
それは深い悔恨だった。
「……ほんと、殺人鬼が恋とか笑える」
耳元でそう囁かれ、深咲は顔を上げる。
だが、顔を上げただけで周囲を見渡すことはなかった。
彼女は判っていた。
それが現れることに……。
「一つだけ教えてくんない?誰があの御札剥がしたの?こうならないようにわざわざ遠出までして手に入れてきたのに」
深咲の問いかけに隣に現れた籐香が静かに答える。
「……私の友達よ。あの札を剥がしてしまったせいで呪いを受けて、化け物みたいになってしまったけどね」
「ほんと余計なことしてくれたよね……ああ、もう最悪っ。てか、さっさと殺りなさいよ。そのために来たんでしょ?」
「……そうね」
静かに答える籐香の表情が穏やかな少女のものから、禍々しい化け物のような表情に変化する。
「あのコと私の仇、取らせてもらうわ」
化け物と化した籐香の手が深咲の首にかかる。
そんな状況の中で深咲は、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
お兄さん……あなたに出会わなければよかった。
あなたに出会わなければ、こんな苦しい思いを……こんなに悔しい思いをすることはなかったでしょうから。
だから、私は必ずあなたに会いに行きますよ。
だから、その時は抵抗しないでくださいね……愛してます、お兄さん。
◇
愛してます、お兄さん。
不意に深咲の声が聴こえたような気がした。
「どうかしたんですか、先輩?」
キーボードを叩きながら、不意にさくらちゃんがそんなことを訊いてきた。
「いや、多分気のせいだろ」
「もしかして、深咲さんの最後のメッセージでも来ました?」
さくらちゃんが見透かしたようなことを言ってくる。
「どうして、判った?」
実際、それが最後のメッセージかどうかは判らないが、あの声は間違えなく深咲だった。
「だって、深咲さんが籐香さんを殺した犯人だったとすれば、そろそろリベンジされてる頃じゃないですか」
「リベンジって、籐香はそんな奴じゃないよ」
仮に籐香が深咲に殺されたとしても、籐香が復讐するとは思えない……思えないが。
もし、あのとんでもない化け物になってた籐香の友達の死に深咲が絡んでたしたら……あるいは。
いや、止めよう。
籐香がそんなことをするはずがない。俺の考え過ぎだ。
いずれにしろこれが俺が関わった、後に呪いの家事件の言われることになる事件の顛末だ。
そんなことを考えてると、不意に店内の明かりが消えた。
ただ、それは一瞬の出来事で、再び店内の明かりが点る。
「今のなんだったんですかね、先輩?」
「俺に判るわけないだろ?」
そう何が起こったのかは判らない。
判らないが、明かりが消えた瞬間、俺の背後に誰かが立った。
そして、そいつは明かりが点いた今もなお、俺の真後ろに立ったまま椅子に座る俺を見下ろしている。
そして、それは俺の耳元でそっと囁く。
ただいま……お兄さん……と。
END
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