アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

583 デーツからの手紙

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 コンコン‥

 「デーツ入るぞ!」

 アリサと2人デーツの部屋に行ったんだ。

 「「デーツ(お兄ちゃん)?!‥‥」」

 デーツは居なくて、部屋も綺麗さっぱり片付けられていた。

 「あっ、絵を描く道具もないじゃん!」

 デーツの部屋には俺が以前頼んでたクリスマスの絵が机の上にあったけど、絵の具や筆はすべて部屋の隅の箱に仕舞われてたんだ。

 「「‥‥」」


 「お兄ちゃん机!デーツお兄ちゃんからの手紙!」

 机の上にはアリサに宛てたものと、俺に宛てたもの、2通の手紙が置いてあったんだ。

 「お兄ちゃんと私宛てよ」

 「どういうことだよデーツ?!」

 デーツから俺に宛てた手紙を急いで開いてみる。

 字の線が細く、それでいて丁寧に書かれた字体。これはまさにデーツの性格そのものを表す手紙だった。




 アレクへ

 今から話す内容はオヤジにはもう告げてあるからな。急でごめんアレク。

――――――――――

 未成年者武闘祭の優勝おめでとう。やっぱりお前は強いよ。
 学園どころか帝国1、中原1なんだよな。

 手紙だから言えるのかもしれないけど、正直言うと俺はこのままお前の弟でもいいかなって思ってたんだ。

 だけど、春にはお前がいなくなるんだって思ったらこのままじゃいけないなって。
 でもお前も知ってるように俺は臆病だし、なかなか動き出せない性格だからさ。

 実は武闘祭の帰り。俺はお前が主役のパーティーに行きたくなくてマリーを誘って帰ったんだ。なんとなくお前を素直に祝福できない気がしてさ。

 そしたら帰りに悪い奴にいきなり襲われたんだ。獣人みたいだけど見たこともない凶悪なヤツだったよ。
 もうダメかもって思ったら、なぜかたまたま現れたオヤジが助けてくれて。
 でもオヤジはあいつの正体を教えてくれなかったんだ。

 もちろんわかってるよ。俺に教えても仕方のないことくらい。
 でもさ、これがアレク、お前ならオヤジは一緒に闘ったと思うし、相談もしたんだと思うんだ。
 
 だから悔しかった。なによりマリー1人も守れない俺自身が情けなくってさ。

 だから、俺はもう1度修行をつけてもらいにレベちゃん師匠のところへ行きます。
 今度こそがむしゃらに修行をつけてもらう。そしてもっと強くなって帰ってくるよ。

 アレクが王国に帰る3月末までには帰ります。 
 ではみんなのことをよろしくお願いします。
            アレク様へ






 同じようなことはアリサの手紙にも書いてあったみたいだ。
 クロエももう知ってるんだな。
 
 「そっか。デーツはやっと自分の意志で旅立つことを決めたんだな」

 「アレクお兄ちゃん‥‥」

 目にいっぱい涙をためたアリサが何か言いたそうにしていた。

 「前も言っただろアリサ。大丈夫だ。しかもデーツは春には帰ってくる。なんも心配しなくていいぞ」

 「だって‥‥だって‥‥」

 「俺もデーツもアリサもクロエも‥‥みんな旅してる途中なんだぜ。
 でもなアリサ。旅の言葉の意味って知ってるか?」

 「わかんないよ‥‥」

 「旅っていうのはな、帰るところがあるから旅に行くって言うんだぞ。帰るところがなかったら旅とは言わないんだ。だからな、デーツも必ず帰ってくる。
 マリアンヌ先輩と結婚してどこか遠くに行ったとしても、長期の休みには必ずこの家に帰ってくる。もちろん俺もそうだ」

 「うん‥‥」

 ダイニングに降りてきた俺たち2人にオヤジから声がかかったんだ。

 「アレク話がある。アリサ、先にクロエと風呂入っててくれ」

 「ほらアリサ行ってこい。今日は疲れただろ。風邪引くといけないからあとでクロエと2人、兄ちゃんが髪乾かしてあげるからな」

 「うん」













 「読んだか」

 「ああ。なぁオヤジ‥‥デーツが襲われたっていう奴は‥‥」

 「‥‥悪魔の眷属だ」

 「やっぱり‥‥」

 「明日、学校は休みだろ。お前に大事な話があるからな」

 「わかったよ」

 どんな話になるのか、薄々見当もついてたんだよね。

 夜寝る前にシルフィと話をしたんだ。

 「なぁシルフィ。ほとんどの人は悪魔に会うことはないって言ってたよね」

 「ええ。ほとんど、99.9%の人がね」

 シルフィの言う%と言う言葉が逆にリアリティを持って俺には感じられたんだ。

 「ほとんどの人が悪魔に会うことはないわ。逆に言えば、会えばそれは死を意味しているから」

 「うん‥‥」

 「0.1%の人にとってそれは必然よ。2度3度と会う運命なのよ。ちょうどアレクのようにね‥‥」

 「そっか‥‥」

 運命って言葉が俺の記憶に残ったんだ。なにも運命っていうのは人と人の巡り合わせのようないいことばかりじゃないんだなって。


 (いずれ‥‥‥‥アレクは必ず‥‥‥‥だって私を憑けたのは‥‥そうでしょ女神様‥‥)


――――――――――


 翌日オヤジに連れられて皇帝執務室とかいう部屋に来たんだ。

 この部屋、完璧に防音されてるな。

 中にはオヤジと現アーサー・ロイズ皇帝、ジンさんと俺の4人きりだった。

 「アレク君、これから話すことはこの国の歴代皇帝のみに伝わる秘密の話じゃよ。
 なぜそこに王国からの未成年者、留学生のアレク君が加わっているのかはわかっておろうの」

 コクコク

 「この後、この国の軍事、政務を司る代表者のみを集めた、これも秘密の会議をするからの。
 まずはアレク君、お主には契約魔法を結んでもらおうかの。もちろんわしら3人もお主に対して契約魔法を結ぶからの」

 「ジンさん、俺の?」

 「そうじゃよ。これまでロイズ帝国が国として情報を持っておるお主の出自についてだよ」

 「あははは。やっぱ知ってたんだ」

 「当たり前だろ馬鹿息子。中原全域に草を放っておるくらい当たり前だろ。お前の恥ずかしい変態癖までとっくに知ってるわ!」

 「あははは。やっぱりね‥‥」

 「これから話すことは帝国建国以来500年の秘中の秘、歴代の皇帝とわししか知らんことじゃよ」

 「それって‥‥」

 コクコク

 なんとなく。なんとなくだけどこれまでにない大きな渦の中に巻き込まれていくような気がしたんだ。
 そしてそれは、偶然じゃなく必然だってことも……。


――――――――――


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