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第2章 幼年編
642 ジェイル・フォン・ヴィヨルド
しおりを挟む1年ぶりにヴィヨルドに帰ってきた。
領都ヴィンランドはいつもと変わらない活気のある街だった。
「そんなヴィンランドに帰ってきた男。アレクは犯罪者だった‥‥」
「やめてくれよシルフィ。変なナレーションつけるのは!」
「アハハハハ」
「笑いごとじゃねーわ!でもさ‥‥なんで呼び出されたんだろ?」
「やっぱりアレクの変態がバレたんじゃない?」
「なにそれ変態がバレたって!」
「フフフ」
わけ知りのシルフィが知らないわけはない。笑顔を見せながらも、その答えは教えてくれないみたいだった。
「そして犯罪者のアレクは断頭台に上がるのだった……」
「やめてくれよホントに!」
「アハハハハ。そうねアレク、学園長についてきてもらったらいいわ」
「そうだよね。わかった」
▼
新興国サンダー王国
北の辺境と呼ばれる3領は、俺が生まれたヴィンサンダー領・興隆著しいヴィヨルド領・奴隷売買で名を馳せるアザリア領なんだよね。
3領で今のヴィヨルド領を辺境と蔑むのは一部の王侯貴族だけだ。
アザリアは例の件からまだまだやり直しに前途多難って噂。
俺の故郷ヴィンサンダー領は去年の干ばつで領全体が疲弊していると聞く。それにも関わらず、重税が多くの領民を苦しめているとも。なんとかしたいけど今の俺にはどうすることもできない。
「おおー!瓶麦酒にウイスキーかい。うれしいねえ。じゃあお土産分は弁明してあげようかなアレク君」
「マジですか学園長!恩に着ります!」
わはははは
あはははは
「シェフお久しぶりです!」
「帝国からお帰りですか!」
「帝国での噂も聞いておりますよ!」
「あはははは。ただいまー」
ロジャーのおっさんの結婚式披露宴以来だな。ご領主様のお屋敷に来るのは。
▼
「ご領主様、お呼びにより学園生アレクを引率して参上致しました」
「ああサミュエル、忙しいなか悪かったね」
そう言って執務室で顔を上げたのは、ご領主ジェイル・フォン・ヴィヨルド様だった。
部屋には前領主ヘンドリック・フォン・ヴィヨルド様もテンプル先生もいたんだ。
そういや前ご領主様も当代のご領主様も、ちゃんと話すのは初めてだよ。
「ヴィヨルド学園生アレク、まかり越しました」
「そういえばちゃんと挨拶をするのは初めてだったね。モーリスの父ジェイルだ」
「モーリスの爺ちゃんだ」
「よろしくお願いします」
握手を交わしたとき、先代のヘンドリック様がなぜだがとってもうれしそうに俺を見つめていたんだ。
「モーリスと仲良くしてくれてありがとう」
「いえこちらこそ、ご子息様には懇意にしていただき感謝しております」
「クックック。言葉遣いもしっかりとした農民の倅だなアレク君は」
「あはははは」
当然ご領主様は本当の俺の出自も知ってるんだろうな。
「アレク君お帰り。ジンと遊んでくれてありがとうな。あとサラを救ってくれてありがとう」
「いえテンプル先生、俺のほうこそです。ジンさんにはあそんでもらったし、サラさんには学校の面倒までぜんぶやってもらって‥‥」
「わはははは。そうかいそうかい」
「まずは座ってくれたまえアレク君」
「はい。失礼します」
和やかな雰囲気のまま、俺の1年間の帝国留学の報告をみなさんに聞いてもらったんだ。
「アレク君、帝国で君は爵位と名誉帝都民となったんだよね?」
「はい。畏れ多くもそのような名誉ある称号をいただきました。勝手にもらってすいません」
「「なんと!?」」
「君は義理がたいね」
「ワハハハハ。そうか、そうきたか」
ご領主様たちは嫌な顔1つせずに話を聞いてくれたよ。度量の大きなご領主様たちだな。
「アレク君。君がいただいた爵位とその名前は知ってるよね?」
「えっ‥‥えーっと爵位は準男爵?
名前は‥‥なんだっけ?なんとかロイズ?あははは‥‥」
「「君は‥‥」」
あーご領主様たちにも生暖かい目で見られたよ。
「アレク君、君の爵位は男爵だよ」
「えっ?たしか準男爵かと‥‥」
「君はロイズ帝国初の未成年武闘祭にて優勝した。そこで準男爵となり、その後の年度末帝都学園武闘祭で優勝してさらに昇格で帝国伝統の1代男爵位を得たんだよ」
「すいません。知りませんでした」
「「ガハハハハ」」
先代様とテンプル先生が腹を抱えて笑ってるよ。
「‥‥それと君の正式な名前はアレク・ヴィンロイズだよ。(まあそれすら仮だけどね)」
「はぁ‥‥」
「クックック。その調子ではヴィンロイズの意味は知らないね」
「はい。あははは」
「ヴィンは『繋がるもの』という古語。つまりはロイズ帝国皇帝に繋がるもの、ロイズ帝国の家族という意味だよ」
「えっ!?」
「わが領もお手本にしている中原最強のロイズ帝国皇帝の縁者という意味なんだよ。
だからよほどの馬鹿でない限り、君に喧嘩を売る者はいないよ」
「‥‥」
「まあ、爵位とその名の由来を知らん者は別だがね」
そっか。おやじや3男はそこまでしてくれてたんだ……。
「アレク君どう思った?」
「畏れ多いことです。
てかそれでも俺自身はこれまでとなにも変わりません。
ただのアレクです。
帝国も大好きですし、ここまで育ててくれてヴィヨルドに感謝の気持ちも大好きな気持ちもまったく変わりません」
「そうかい。では1つ質問をしていいかな」
「はい」
「もし。もしヴィヨルドと帝国が戦うことになれば君はどうする?」
「‥‥‥‥ありえません。ヴィヨルドが帝国と戦うことは絶対にありえません」
「それはどうしてだい?」
「中原最強の帝国と王国最強のヴィヨルドが戦えば、被害の数は計り知れません。
しかもそれは‥‥とくにヴィヨルド領の国力が大いに下がりることになります。
あっ。まさか‥‥?」
「フッ。仮の話だよアレク君。君が未成年者ということをついつい忘れてしまって放言を吐いたことを詫びよう」
「いえご領主様。俺は馬鹿ですから大人の話はわかりません。まして政治のことはさっぱり。
でもこのヴィヨルドは俺にとって第2の故郷です。大切な仲間もできました。モーリスは俺のかけがえのない親友ですし。
それか答えです」
「モーリスの父としてうれしく思うよ。
‥‥ではヴィンサンダーとヴィヨルドが戦うことになれば?」
「‥‥答えなければなりませんか?」
コクコク
「失礼を承知で申し上げる無礼をお許しください。
攻めてこられれば俺は俺の出身村は守ります。それがどこであっても」
「‥‥申し分ない答えだね。わかったよ」
「すいません」
「私も老師から教わった古い言葉『出る杭は打たれる』を君に贈ろう。それはわが領も同じことだがね」
「はい‥‥」
「君の人物についてはなんの疑念も抱かないよ。
わずか2年3年で成した君の実績と、さらに君の保証人からもね」
「保証人‥‥ですか?」
「ロイズ帝国に留学するにあたり、君の保証人となったのが、ヴィンサンダー領からはディル神父、モンデール神父、シスターナターシャ。
わがヴィヨルド領からはサミュエル学園長、テンプル老師の名前があるんだよ」
「知りませんでした‥‥」
「なぜだろうね。アレク君、君は若いころのサミュエルによく似た雰囲気があるんだよね。だから2人は仲がいいのかもしれないね」
一瞬。
びっくりして学園長と目が合ったんだ。
「さてアレク君。ここからは褒美の話をしよう」
「褒美‥‥ですか?」
「そうだよ。君はこの1年、離れた帝国の地からもわが領のためになることを成してくれた。戦闘靴、保険。もちろん食のあれこれもね。今後100年わが領に利をもたらすだようね」
「いえ‥‥」
「それとね、さっきの話だけど、わがヴィヨルド領がロイズ帝国とことを構えることは決してないよ。
もちろん他領にまで領土拡大をするつもりもない。
たとえ王国と決別したとしてもね。まぁそれは冗談だがね。ワハハハハ。私は頼りない存在だが、そこまで愚かではないつもりだ」
ご領主様が帝国と喧嘩をしないと言った言葉が記憶に残ったんだ。「帝国とは」って言った言葉がね。
「これからもわが子モーリスと仲良くしてやってくれたまえ」
「はい」
「さてと本題に入るかの」
テンプル先生が言ったんだ。
「悪魔について話をしてくれるかい?」
▼
サミュエル学園長と帰る帰途のこと。
「「学園長(アレク君)」」
「「びっくりしたー」」
「まさか‥‥バレました?」
「いや、さすがにそれはないよ」
「ですよねー」
「そうだ。学園長、俺こっちでも狂犬団やってもいいですか?」
「話題の狂犬団だね。もちろんいいよ。ああ、顧問もね」
「あざーす」
「さて‥‥戻ってもう1度ゆっくり土産話でも聞こうかな」
「はい学園長!」
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