鮭とかえる

かえるまる

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旅立ち

最後の危機

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◎  第9話  最大の危機

カラスに襲われたり、にんげんの釣針に襲われたりと危険続きの旅。
いつのまにか鮭くんの身体中、背中もヒレも、鮭ちゃんの身体中もまた、背中にもヒレにも、あちこちに傷跡が。
かえるくんも片目を失くしてしまいました。
みんな傷だらけです。
それでも鮭くんとかえるくんと鮭ちゃんは、川の上流を目指します。

ゆったりとした川の流れはだんだんと早くなってきました。

危険はさらに続きます。
今度は川の流れが二手に分かれています。
大きい方と小さい方。
大きい方が流れもゆったりとして泳ぎやすそうです。
かえるくんたちより先に泳ぐ鮭たちの多くが、この大きな流れの方を上っていきます。

大きい流れの方と小さい流れの方。
網がある方と無い方なのですが、そんなことはかえるくんたちにはわかりません。
ただ大きい流れの方は泳ぎやすく、小さい流れの方は泳ぎにくい渓相です。

網がある、大きい流れの方。
これは遡上する鮭を集めて、人工的にそのたまごを採取するために人間が作ったものです。

「鮭くん、大きい流れはダメだよ。
小さい流れに行こう」

かえるくんは、直感的に大きい流れを避けました。
大きい流れを上っていったたくさんの鮭。
人間の設置した網にかかります。
このあと、二度と彼らに会うことはありませんでした。

流れの早い小さい方。
川を上っていく鮭くんとかえるくん。

しかし。
しばらくして。
「あれ?」
見えない網に鮭くんがからまってしまいました。
見えない網。
それは一部の人間が、鮭を捕まえるために、不法に仕掛けた漁網です。
その網は大きくて重く、もがけばもがくほど鮭くんの身体をからめていきます。

「くそー!」

大きくて力の強い鮭くんがどんなに動いても、網は解けません。
それどころか、さらに絡まる
網にからまった鮭くんの身体を助けようと、鮭ちゃんが前後左右から鮭くんを押しますが、びくともしません。
もちろん小さなかえるくんの力では、どうにもなりません。
くそー!
くそー!
鮭くんも鮭ちゃんも力いっぱい、何度も何度も網を解こうとします。
ですが、今度ばかりはどうにもなりません。
網はますます鮭くんの身体を絡めていきます。

ハァハァ
ハァハァ
ハァハァ

そしてとうとう。
鮭くんも、鮭ちゃんも、かえるくんも、力が尽きてしました。
ついには、ため息を吐くしかできなくなりました。

鮭くんがいいます。

「あと少しだったのに・・・残念だよ。
せめてかえるくんと鮭ちゃんだけでも故郷に帰ってくれよ」

「ううっ・・・」

鮭ちゃんが泣きます。

「ううっ・・・」

かえるくんも頭を下げて涙を流します。

夕陽があたりを照らします。

チリリン。

かえるくんの首からぶら下げた鈴が鳴りました。
鈴!
ねこのシロから預かったキナコの鈴です。

そう!

シロから預かった、あの鈴です。

「鮭くん、まだあきらめちゃダメだ」

「でもかえるくん、今度ばかりはもう・・・」

「あきらめちゃダメだ!まだだよ!」

鮭くんから飛び降りたかえるくんです。
そのまま川の中央にある中洲の大きな石の上に登ったかえるくん。
シロから預かったキナコの鈴を頭上に掲げます。

「お願い。キナコさん助けて!」

力いっぱい鈴を揺らすかえるくんです。

チリリーン!
チリリーン!

あたりに鈴の音が広がります。
しかし。
しばらく待っても、なにも起こりません。

「お願い。キナコさん助けて!」

チリリーン!
チリリーン!

ふたたび、あたりに鈴の音が広がります。

「お願い。キナコさん助けて~!」

それでも、なにも起こりません。

「かえるくん、ありがとう
もう充分だよ」

鮭くん、鮭ちゃん、そしてかえるくんでさえも。
みんながあきらめかけたそのときです。

にゃお~~ん!

遠くからねこの鳴き声が聞こえた気がするかえるくん。

鳴き声がする川の向こうを振り返ります。

しばらくして。

にゃお~~ん!!

今度ははっきりとその声が聞こえました。
河原を走ってくる、隻眼のねこ。
キナコです。
キナコが駆けつけてくれました。

「聞き覚えのある鈴の音にまさかと思ったが・・・やっぱり!」

「お帰り!よく帰ってきたな」

キナコが顔をくしゃくしゃにして笑います。

「キナコさん、来てくれたんだ」

ありがとう、ありがとう!

かえるくんは、うれしくてうれしくて何度も飛び上がります。

チリリン
チリリン

鈴も楽しそうに鳴ります。
網にからまった鮭くんを見て、すぐに状況がわかったキナコです。

「いろいろと旅の話を聞きたいが、まずはその網を外さなきゃな」

う~ん
そうは言いますが、どう見ても網は重くて大きくて。
キナコの力でもどうにかなるようには見えません。

「大丈夫。心配しなくていいよ。ちょっと待ってろよ」

来たときと同じような駆け足で、キナコが川の向こうに消えました。

家に帰ったキナコです。
キナコは部屋にいた女の子に訴えるように鳴きました。

ニャーニャー、ニャーニャー。

しきりに鳴くキナコ。
そして女の子の服の袖口を噛んで引っ張ります。

ニャーニャー、ニャーニャー。


ふだんと違うキナコに何かを感じた人間の女の子です。


家の外からその先へ
まるでついて来いと言わんばかり

「もう、キナコったらどこに行くの」

しばらくして。

キナコは人間の女の子を呼んできてくれました。

「おーい、待たせたな
助っ人を呼んできたぜ」

女の子がキナコと向かった先に。
網にかかった鮭と、もう1匹の鮭。

「あ~、違法の網に鮭が捕まってる!」

そしてよく見れば、その鮭の上にかえるがいます。
さらによく見ると、そのかえるは首から鈴をぶら下げています。

「鈴!
えっ!?
これってキナコの鈴?
シロが付けてるはずの鈴?」
なんでかえるが鈴を?」

そう、よく見るとその鈴は昔仔猫のキナコがつけていた鈴です。
そして今は町に住むシロが付けているはずの鈴です。

ニャーニャー、ニャーニャー。

女の子の足元で鳴き続けるキナコ。

「わかったわ!この鮭を助けろってことね」

女の子は靴を脱いで川の中へ。
網にからまった鮭くんを助けてあげました。

「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」

網から解放された鮭くん。
鮭くんの周りをうれしそうに泳ぐ鮭ちゃん。
いつしかキナコの背中に乗ったかえるくん。
みんなが嬉しそうです。
2尾の鮭は、女の子にお礼をするように、女の子の周りをぐるぐる泳ぎます。

かえるくんはキナコの背中の上で飛び跳ねています。

チリンチリン

嬉しそうに鈴が鳴っています。
この様子に女の子は、この鮭やかえる、そしてねこのみんなが仲良しなんだと理解しました。

「よかったね」

「キナコさん、そして人間さんもありがとう」

「ありがとう」

「ありがとう」

ニャーニャー、ゲロゲロ

言葉は通じませんが、みんなの気持ちが通じた瞬間です。

「キナコさん、町でシロさんに会ったよ!
シロさんは元気に暮らしてるって!
キナコさんによろしくって!」

そうだ!キナコさんに鈴を返さなきゃ!」

「いいよ。これはかえるくんが持ってろよ。
そして、何かあったらまたこれで呼んでくれよ。
そのときはすぐにかけつけるから」

「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」

「さぁ今度こそ帰ろう!」

さよなら
さよなら
さよなら

女の子は鮭の頭を撫でてかえるくんも撫でて
鈴がチリリンと鳴りました

キナコと女の子に別れを告げて。
ふたたび川を上ります。


あと少しです。

そして。
遠くに故郷のブナの木が見えてきました。

「鮭くん、見えたよ」
「ブナの木だよ。とうとう帰ってきたんだ」

鮭くんとかえるくん、鮭ちゃん。
ついにさんにんの旅が終わろうとしています。


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