霊感少女の日常

冬生羚那

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河原での出会い

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「んぇぇ……なんかおっきくなった……」

 爽やかな風に暖かい日の光を浴びながら土手を散歩していたら、可愛らしい、けれど嫌そうな声が聞こえてきた。
 何だ、と思ってそちらを見てみれば川岸で何やら相対している『人達』が視えた。

 片や黒い靄っとしたモノ。
 片や黒尽くめの少女、である。

 見慣れたわけではないけれど、あたしにはそれなりに『良くある光景』だった。

「どっせぇぇ、いょいっしょお!」
『ォォォオオオォォォ』

 見た目小学生のツインテール美少女が、掛け声と共に、その身よりも大きな獲物を振り回す。
 少女の見た目は可愛いのに、掛け声が可愛くない。
 なんだか物凄く残念な気持ちになった。

 少女が振り回すのは、大きな黒い鎌だ。
 彼女の1.5倍はありそうな鎌である。
 その重さを感じさせないのは凄いと思うが、聞こえてくる掛け声が『おんどりゃああ!』とか『死に曝せぇぇ!』ではホント可愛くなくて、残念すぎる。

 彼女が鎌を振る度に黒い靄が切り取られ、空気に霧散していく。
 そうしてその大きさを縮小していくのだが、なんだか様子がおかしい。

 黒い靄とは、所謂『悪霊』と呼ばれるモノである。
 地縛霊なり浮遊霊なりが心を黒く染めてしまうとああなる。
 後悔や未練、怒りや悲しみ等の負の感情を持つモノがその感情を消化し切れず、その身を黒く染めるのだ。
 実体はないけどね。

 で、だ。
 眼下で繰り広げられる戦いはその悪霊と、それを退治する死神の図になる。
 鎌を振り回し悪霊を削る、一見すれば死神少女が優位に見える状態なのだが、悪霊がなんだか動きがおかしい。
 そこそこ死神少女に攻撃をしかけてはそれを切り取られているのだが、その動きがまるで何かを誘っているように見えたのだ。

 これはあたしが戦いの外から見ているからだろうか。

『おい、あそこ』

 ぼんやりと観戦していたあたしの背後から、高くも低くもない声が聞こえる。
 そうして顔の横から伸びた腕が一点を指し示す。
 そこは死神少女の背後、約三メートル。
 黒い点が大きくなり、盛り上がって来ている。
 どうやら少女は眼前の悪霊にしか目がいっていないようで、背後に気付く様子がない。
 悪霊が狙っていたのは『これ』か。

 慌ててポケットからスマホを取り出し、画面をタップする。
 するすると指を動かして、創った陣を起動させる。

 その間にも盛り上がった黒は更に盛り上がり、そうして勢い良く死神少女に向かってその手を何本も伸ばした。
 迫る黒い手に漸く気付いた少女が、後ろを振り返りその顔を驚愕に染める。

「お願い! 首狩り武者!」

 スマホを少女の背後に伸びる手に向かって振りかざす。
 その勢いのままに画面からは光の珠が飛び出し、黒い手へと飛ぶ。
 そうして、一閃。
 伸びていた黒い手が一瞬で切られ、空中に飛んだ手が霧散する。

『助太刀致す』

 光の珠が徐々にその光を失い、そこには一本の日本刀を携えた甲冑が存在していた。
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