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ウェルセスの街
009
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サンダルを買ってもらったあたしが次に連れて行かれたのは酒場だ。
ジョッキの描かれたお店に入ると、賑わっていた。
んですが、こっち見て一瞬止まった後にヒソヒソ話するのは物凄く感じ悪いですよ。
なんだこの人ら……。
ジルはお構いなしに店の中を進み、空いていた4人掛けの円形のテーブルにさっさと腰を下ろした。
あたしもちょっと眉間に皺は寄ってるかもしれないけれど、大人しくジルの正面に座る。
ウェイトレスさんがささーっと寄ってきて、お水を置いて行った。
こう言うと愛想のないウェイトレスか?と思われるかもしれないが、そんなことはない。
可愛い笑顔でいらっしゃいませー、って寄ってきて、注文決まったら呼んでくださいねー、って去ってっただけだ。
忙しいんだろう。
ウェイトレスさんが置いてったコップに注がれたお水で喉を潤せば……めっちゃ減る。
興味が惹かれるものが沢山あったせいで忘れてたけど、あたし喉乾いてたんだ。
「……ジル、お水のおかわり頼んでもいいかな?」
「ん? エール……ああ、いや、ミルクとかは?」
「お水がいいな」
「わかった。……ちょっと」
通りがかったさっきとは違うウェイトレスさんにお水を頼み、ジルは壁の方へと顔を向ける。
何見てんだろう、とあたしもそちらに顔を向けたら、壁には文字が並んでいた。
何々?
『オークのステーキ』『ワイルドボアの唐揚げ』『ウルフのすじ煮込み』『フィッシュボーンの骨揚げ』
……そうか、そういう系か。
魔物っぽい名前に、それを食べちゃう系か。
美味しいならいいんだけど……いや、見た目も大事か。
さて、ここでチートのお話です。
あたしも文字を読むことが出来ていますが、これは横にルビが振られているからです。
元々の文字はアルファベットっぽいけれど、アルファベットじゃない。
これ、もしあたしが日本語書いたりしたらどうなるのかな?
お水でーっす!とウェイトレスさんがピッチャーにお水を入れて来てくれた。
ありがとう、と声を掛けてコップにお水を入れて満足するまで飲む。
しかし、温い。
今はありがたいけど、氷とか使わないのかな?
「何食べたい?」
「ん? んー……何が美味しい?」
「さあ? 適当でいい?」
「うん、お任せします」
「わかった」
ジルに注文を任せ、あたしはお水を飲みながら目だけを動かす。
さっきからチラチラチラチラ鬱陶しいのですよ、視線が。
なんだホント、と思いながらコップを置いて正面を見れば、小さく苦笑いを浮かべたジルが目に入った。
「これ、ジル見てるの?」
「んー……君もかな。珍しいんでしょ」
「ああ、あたしの服か」
「それもあるけど……僕がこういう所に居るのも珍しいんだろうね」
「あれ、そうなの?」
「うん」
「なんでジルが居ると見るの?」
「これでも少しは有名なんだよ」
「へぇぇ、有名人はどこでも大変だなぁ」
視線の意味を理解して、ジルに少しだけ同情する。
あたしも見られてるけど、服を変えたら見られなくなるのがわかっているからだ。
あたしは一過性のもの。
でもジルはどこに行ってもこういう風に見られる可能性が高いのだろう。
落ち着かないだろうなぁ。
「食べ終わったらギルド行こうね」
「わかった。……入る時にも、この靴も、お金ありがとうね。いつかちゃんと返すからね」
「そこは気にしなくていいってば」
「ダメダメ、ちゃんと何かで返す」
他愛のない話をしていると注文したものが届けられ、テーブルに乗せられる。
見た目ただのステーキだとか、何かのサラダとか、食べにくく感じるものはなく、鼻をくすぐる匂いも美味しそうで、お腹がぐぐーっと鳴った。
慌てて腕で押さえるけれど、ジルには聞こえたみたいだ。
顔を横に向けて口元を手で隠してる。
「笑わないでよねっ」
「ふふ、ごめんごめん。さあ食べよう」
「ん、いただきます」
箸はないみたいで、ナイフとフォークを駆使してお腹を満たしていく。
いや、美味しいわ。
魔物とか動物を狩って卸す、食材ハンターとか、お金になるかな?
自分で料理……いや、そこは自信ないな……。
簡単なものならいいけど、手の込んだものは作れる気がしないし……。
あ、このソース美味しい。
「何ニヤニヤしてるの?」
「んむ? ……んぐ、いや、楽しいなーって思って」
「楽しい?」
「うん、色々夢が膨らむなってさ」
「……そっか」
食後にはデザートもありました。
果物を煮詰めた……なんだっけ、コンポート?とかそういうやつ。
甘くて疲れた体にじんわりと浸み込む美味しさでした。
そして合間の会話で知ったのだけど、この世界、飲み物の種類が少ない。
お酒がエールと呼ばれる、確かビールみたいなものと果実酒。
子供が飲むのが果実酒を薄めたものとミルク、お水と薄い麦茶みたいなお茶。
珈琲も紅茶もないという。
これはあれですね。
発展途上というやつですね。
ここで飲み物発見したり開発したりすればお金稼げるんじゃない!?
くふっ、それもいいな。
それに、この世界では、成人が男女共に16歳ということで、あたしもお酒が飲める年齢でした!
今度試してみよっと。
「またニヤニヤしてる」
「ぅえっ!? あ、ごめん」
「ふふ、いいよ。じゃあ行こうか」
「はーい! 御馳走様でした」
「ん」
ジルの後ろについてレジに向かう。
お金を持ってないあたしがナニするかって?
通貨の確認です。
リベルですって。
ここはやっぱり『リベラーレ・オンライン』の世界なのかなぁ?
ジョッキの描かれたお店に入ると、賑わっていた。
んですが、こっち見て一瞬止まった後にヒソヒソ話するのは物凄く感じ悪いですよ。
なんだこの人ら……。
ジルはお構いなしに店の中を進み、空いていた4人掛けの円形のテーブルにさっさと腰を下ろした。
あたしもちょっと眉間に皺は寄ってるかもしれないけれど、大人しくジルの正面に座る。
ウェイトレスさんがささーっと寄ってきて、お水を置いて行った。
こう言うと愛想のないウェイトレスか?と思われるかもしれないが、そんなことはない。
可愛い笑顔でいらっしゃいませー、って寄ってきて、注文決まったら呼んでくださいねー、って去ってっただけだ。
忙しいんだろう。
ウェイトレスさんが置いてったコップに注がれたお水で喉を潤せば……めっちゃ減る。
興味が惹かれるものが沢山あったせいで忘れてたけど、あたし喉乾いてたんだ。
「……ジル、お水のおかわり頼んでもいいかな?」
「ん? エール……ああ、いや、ミルクとかは?」
「お水がいいな」
「わかった。……ちょっと」
通りがかったさっきとは違うウェイトレスさんにお水を頼み、ジルは壁の方へと顔を向ける。
何見てんだろう、とあたしもそちらに顔を向けたら、壁には文字が並んでいた。
何々?
『オークのステーキ』『ワイルドボアの唐揚げ』『ウルフのすじ煮込み』『フィッシュボーンの骨揚げ』
……そうか、そういう系か。
魔物っぽい名前に、それを食べちゃう系か。
美味しいならいいんだけど……いや、見た目も大事か。
さて、ここでチートのお話です。
あたしも文字を読むことが出来ていますが、これは横にルビが振られているからです。
元々の文字はアルファベットっぽいけれど、アルファベットじゃない。
これ、もしあたしが日本語書いたりしたらどうなるのかな?
お水でーっす!とウェイトレスさんがピッチャーにお水を入れて来てくれた。
ありがとう、と声を掛けてコップにお水を入れて満足するまで飲む。
しかし、温い。
今はありがたいけど、氷とか使わないのかな?
「何食べたい?」
「ん? んー……何が美味しい?」
「さあ? 適当でいい?」
「うん、お任せします」
「わかった」
ジルに注文を任せ、あたしはお水を飲みながら目だけを動かす。
さっきからチラチラチラチラ鬱陶しいのですよ、視線が。
なんだホント、と思いながらコップを置いて正面を見れば、小さく苦笑いを浮かべたジルが目に入った。
「これ、ジル見てるの?」
「んー……君もかな。珍しいんでしょ」
「ああ、あたしの服か」
「それもあるけど……僕がこういう所に居るのも珍しいんだろうね」
「あれ、そうなの?」
「うん」
「なんでジルが居ると見るの?」
「これでも少しは有名なんだよ」
「へぇぇ、有名人はどこでも大変だなぁ」
視線の意味を理解して、ジルに少しだけ同情する。
あたしも見られてるけど、服を変えたら見られなくなるのがわかっているからだ。
あたしは一過性のもの。
でもジルはどこに行ってもこういう風に見られる可能性が高いのだろう。
落ち着かないだろうなぁ。
「食べ終わったらギルド行こうね」
「わかった。……入る時にも、この靴も、お金ありがとうね。いつかちゃんと返すからね」
「そこは気にしなくていいってば」
「ダメダメ、ちゃんと何かで返す」
他愛のない話をしていると注文したものが届けられ、テーブルに乗せられる。
見た目ただのステーキだとか、何かのサラダとか、食べにくく感じるものはなく、鼻をくすぐる匂いも美味しそうで、お腹がぐぐーっと鳴った。
慌てて腕で押さえるけれど、ジルには聞こえたみたいだ。
顔を横に向けて口元を手で隠してる。
「笑わないでよねっ」
「ふふ、ごめんごめん。さあ食べよう」
「ん、いただきます」
箸はないみたいで、ナイフとフォークを駆使してお腹を満たしていく。
いや、美味しいわ。
魔物とか動物を狩って卸す、食材ハンターとか、お金になるかな?
自分で料理……いや、そこは自信ないな……。
簡単なものならいいけど、手の込んだものは作れる気がしないし……。
あ、このソース美味しい。
「何ニヤニヤしてるの?」
「んむ? ……んぐ、いや、楽しいなーって思って」
「楽しい?」
「うん、色々夢が膨らむなってさ」
「……そっか」
食後にはデザートもありました。
果物を煮詰めた……なんだっけ、コンポート?とかそういうやつ。
甘くて疲れた体にじんわりと浸み込む美味しさでした。
そして合間の会話で知ったのだけど、この世界、飲み物の種類が少ない。
お酒がエールと呼ばれる、確かビールみたいなものと果実酒。
子供が飲むのが果実酒を薄めたものとミルク、お水と薄い麦茶みたいなお茶。
珈琲も紅茶もないという。
これはあれですね。
発展途上というやつですね。
ここで飲み物発見したり開発したりすればお金稼げるんじゃない!?
くふっ、それもいいな。
それに、この世界では、成人が男女共に16歳ということで、あたしもお酒が飲める年齢でした!
今度試してみよっと。
「またニヤニヤしてる」
「ぅえっ!? あ、ごめん」
「ふふ、いいよ。じゃあ行こうか」
「はーい! 御馳走様でした」
「ん」
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リベルですって。
ここはやっぱり『リベラーレ・オンライン』の世界なのかなぁ?
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