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セークスバッコン国にて

いちわめ

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「おお、勇者様!よくおいでくださいました!」

 目を開いて第一声で浴びせられた言葉がこれである。
 ゆっくりと周囲を見回し、自分の状況を確認する。
 を取り囲む男達は日本人からは程遠い容姿をしているし、格好がコスプレである。
 そして足元では仄かに光っていた模様が役目を終えたとばかりに消えていった。

 本当に異世界来ちゃったよ。

 藤村泡姫ありえる、元腐女子歴10年超えプラスうん年の三十路1歩手前。
 現在藤村紫苑、10代後半の男でっす!

 さて、俺のこの状況を簡単に説明しよう。
 異世界転移である。
 ……簡単すぎた?

 でっかい腹をたぷたぷ揺らして脂ぎったテカテカな顔を小さなハンカチで拭うおっさんを目の前に、俺は今座っている。
 その横に立ったまま陰気臭い顔で滔々というか、淡々とこの世界の成り立ちや人間の国のあれそれを説明しているのはこの国の宰相だ。
 対面しているおっさんをがこの国の王様ということである。

 異世界転移後の説明を受けているという状況ね。
 はい、テンプレ!

 この世界を創った女神様の話は今特別必要でもないから、置いておこう。
 宰相曰く、この世界には人間の他に蛮族扱いの妖魔と魔族という大まかに分けて3種類程の知的生物が存在している。
 そして更に魔物という存在もいる。
 人間は常に魔族や魔物に脅かされている。
 そして今、こうして勇者──俺のことね──を召喚した理由は、魔王の存在が確認されたから。
 生半可な力では魔王に勝てない。
 人間の国は魔族や魔物に襲われ、多大な被害を被っている。
 国の騎士達も各地に派遣され、蛮族の統治や被災地を復興に全力を尽くしている所である。
 魔王を倒さねば明るい未来は訪れないであろう。
 そこで古の秘術を使って、心苦しくはあるがこの世界を救ってくれる存在である勇者を召喚したのだ。
 そのお力で魔王を打ち倒し世界を救って欲しい!

 はいテンプレぇ!

 神妙な顔で聞いてるけれど、内心は苦笑い中である。
 だって今聞いた話が本当かどうかわかんないもん。
 この話を聞いてほいほいと魔王倒す為に頑張ります!とは言えないぐらいには俺も慎重になったっていうか言葉の裏を考えるようになったっていうか……歳とったなぁ。
 実際には少しだけどとある筋から情報を得ていたのもあるんだけどね!

 宰相の話を聞いて、少しの逡巡を見せつつ、数日の滞在許可を得て、俺はすっごい目に優しくない部屋へと移動することになった。
 勿論お付きとして1人宛てがわれてね。

 はいテンプレ!!





 さて、テンプレテンプレ煩かったと思うが、今の俺の簡単な状況は把握出来たと思う。
 メタ発言じゃないよ?
 俺の回想だよ?

 まずこの世界、名前は『箱庭』である。
 人間の国の名前は……忘れた。
 セーなんちゃらだったかと思う。

 宰相が語っていたように、この世界には知的生物は大まかに分けて3種類だ。
 人間と妖魔と魔族。
 人間は現代日本……の、外国人と大差ない。
 ただ、魔法が使える。
 俺も使えるようになっていると思う。

 妖魔というのは魔族や獣の要素を持った存在であるらしい。
 人間はこの妖魔を見下していると聞いている。

 魔族は……魔族としか聞いていない。
 人間より寿命が長く、ステータスも高いらしい。

 ここら辺は実際に見て確認していきたいと思います、まる。

 そしてここで疑問に思った人もいるだろう。
『ステータスとか確認してないのに、何故王様も宰相も俺を勇者だと断定して話を進めたのか』
 メタってないよ?
 ただ、普通なら──あれ、異世界転移って普通だっけ?──何故ちゃんと調べないのか、と思うだろう?

 まず、召喚の魔法陣は光の女神と呼ばれる女神が、この国の国王に授けたものである。
 そしてこの国にはステータスを確認するすべがないのである。
 なので召喚の魔法陣から出てきた俺は疑われることなく勇者として認められたのである。

 ここで勇者のチートを1つ……てっててーん!
 鑑定能力ー!
 読んで字の如く、鑑定能力である。
 名前、性別、ステータス、技能等が見れるというスグレモノ!
 国王も宰相も、これで見ましたとも、ええ。
 国王で特記するならば……傲慢だとかショタコンだとか短小だとかかな?
 宰相だとドMとか鞭好きとか肉便器とか。
 ……早めに忘れたい。

 色んな話は追々として、大事なことが1つ……。

 この世界、男しかいません。
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