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第6話 アサシン
シュウ
しおりを挟むイツキはまだ覚めきらぬ頭で、昨晩の事を思い返していた。
――飲み過ぎだ……――
と後悔していた。
その時、ノックの音がした。
「どうぞ」
出来れば午前中から来客は勘弁してほしかったが、これだけはどうしようも無かった。
イツキは気合を入れ直すと、身体を起こしてデスクに肘を付けて姿勢を正した。
ゆっくりと扉が開いて、細身の男が入って来た。
背格好はイツキと変わらない。黒のハーフコートを纏い、両腰にはホルスターに収まった短剣がぶら下がっていた。
イツキより少し華奢な感じはするが、精悍な身体つきからは相当に鍛えられた身体であることはすぐに分かった。
そしてその視線は冷たく鋭かった。それがこの男のこれまでの人生が生半可なものでは無かっただろうと想像させた。
男は扉を静かに閉じて、そこに立ったままイツキを黙って見つめていた。
静かに漂う緊張感。
暫くイツキも黙ってその男を見つめていたが、うんざりした様な表情を浮かべると
「いつまでそこに突っ立っているつもりだ?」
と声を掛けた。
男の口元が緩んだ。
「美味しい珈琲でもご馳走してくれないか?」
と男は言って歩み出した。
男はデスクのを通り過ぎて応接セットのソファーに座った。
イツキは黙って立ち上がると、キャビネットに向かった。
――なんで二日酔いの朝にこんな奴に珈琲を淹れなきゃならんのだ――
とでも言いたそうな重い足取りだった。
そんな事にはお構いなく男はソファーに深々と腰を落とすと、部屋の中をぐるりと見まわして
「代り映えしない部屋だな」
とひとこと言った。
「ほっとけ」
イツキは軽い口調で応えた。
そしてドリッパーにお湯を注ぎながら
「で、シュウ、何の用だ?」
と聞いた。
シュウというのがその男の名前だった。
「なに、近くに寄ったから顔を見せただけだ」
「嘘をつくな。また変な悪だくみを考えているんじゃないのか?」
イツキはドリッパーに視線を落としたまま言った。
「人聞きの悪い事を言うな。本当に近くまで来たから寄っただけだ」
「じゃあ、何しにこの王都へやって来た」
「……それは言えんな」
とシュウは口元を緩めた。
「やっぱりな。そんな事だろうと思ったわ」
イツキはそう言いながら、シュウの座る応接セットのテーブルに片手で珈琲カップを置いて
「何も入れなくて良かったよな」
と確認するように聞いた。
「その通り。流石我が親友。よくご存じで」
とシュウは笑った。しかし目元は全く笑っているようには見えなかった。
イツキは
「何が我が親友だ」
と呆れたように言うと右手に自分の珈琲カップを持ったまま、シュウの向かいのソファーに座った。
「本当に今日は顔を見に来ただけだ」
と言うとシュウは口元に珈琲カップを運んだ。
「まだアサシンを続けているのか?」
とイツキは聞いた。
シュウの瞳が鋭く光った。
「続けていたら?」
「別に……聞いてみただけだ」
「俺に転職でも勧めているのか?」
「そんな無駄な事はしないが、もし転職を希望ならこの街の教会の牧師とかお勧めするがどうだ? 毎日、自己懺悔できるぞ」
と表情も変えずにイツキは言った。
「冗談はお前の人生だけにしてもらいたい」
とにべもなくシュウは断った。
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