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第13章貴族の男
腹を括る
しおりを挟む「だからです。幸いあそこは全寮制ですから自動的に世間とは縁が切れます。もちろん仲間とも。問題はそこからですね」
「士官学校に行っている間に過去のネタを吹聴されるって事は……?」
「その心配は分かります。でもそれは大丈夫でしょう。それは共犯者が自らの罪を告白するようなもんですからね。そもそもあなたに歯向かう根性がある奴がいるかどうかですね?」
「というと?」
「『クラウス・フォン・ノイマン』という男は悪党から見ても近寄りがたい鬼畜生ですよ。そんな奴がちょっと士官学校に行ったぐらいで改心するなんてこの世の人間は誰も思いませんよ。それも今までの悪事を知っている仲間ならそんな与太話は全く信じないでしょう。どちらかと言えば『これを機会に絶対に何か悪企みを考えるに違いない』と。それを利用するんですよ」
「なんとなく言わんとする事は分かります」
「理解力が高くて助かります。なので、悪党仲間には『俺に考える事があるからちょっと黙って見ていろ』とか言って時間稼ぎをしましょう。多分それだけで暫くは静観していると思いますよ。これは稀代の悪党の『クラウス・フォン・ノイマン』だからこそできる技かもしれませんがね」
とイツキは淡々と語った。
「本当にこの男はクズですね」
と吐き捨てるようにクラウスは言った。
「まあ、世の中表があれば裏もあるんですよねぇ……兎に角、悪党連中を裏で操れる程の影響力があるのは間違いないですからね。それはそれで案外利用価値があるかもですね」
イツキは何かに気が付いたようだった。
「え?」
「いえいえ。なんでもないです。この話はまた後でしましょう。それよりも暫くはつかず離れずに、その悪党どもとの関係を維持する事を心掛けておいてください」
「維持ですか……はあ。分かりました」
とクラウスは釈然としないような顔をして頷いた。
ただ、この場合彼がどう思うと、イツキのアドバイスを聞く以外にこの状況から逃れる術はないのは動かしがたい事実であった。
「後は私に任せてください。あなたは御父上に『士官学校に行きたい』と直談判しておいてください。多分士官学校からも御父上に連絡がいくと思います」
「分かりました。もう腹を括りました。全てイツキさんにお任せします」
クラウスはそう言うと立ち上がった。
「大丈夫です。私に任せてください。ところで、今から軽く飯でも食いに行きませんか?」
イツキはクラウスを出口まで案内すると扉を開けながら言った。
「今からですか?」
驚いたような顔でクラウスは聞いた。
「そう今から。まだ少し早いですが酒でも飲みに行きましょう、あなたはまだここにきて間がないから、あまりこの街の事が分らないでしょう? 良い店があるんですよ」
と笑顔で言った。
「確かに……多少はこの男の記憶があるのでなんとなくは分かるのですが……まだこの世界の事は知らない事だらけです」
クラウスは多少戸惑いもあったが、イツキの誘いを受け入れることにした。彼自身もまだまだ話したい事があったし、転移転生者の話も聞きたかった。
「では決まりだ。良い店があるんですよ。そこでこの国の状況とこれからのあなたのやってもらいたい事の話をしましょう……あっちの世界の話も聞きたいし……それと士官学校の件は二~三日で結果が出ると思います。来年からあなたは士官候補生ですよ」
と言ってイツキは笑って男と一緒に事務所を後にした。
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