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さようならシュート

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「体力自慢の化け物です。後は火を噴きます。気を付けてください」

「火焔攻撃の対応をしておいて!」
誰かが叫ぶ声がした。

「炎のリング付けて!」

 その瞬間、怪獣という名のラスボスが火を噴いた。
炎のリングをつけていてもダメージはかなりあったが、即死は免れたようだ。
メンバーの全滅を目的で始めたクエストだが、俄然勝ちたくなった。このメンバーは強い。そして本当にゲームが好きな仲間だ。
このダンジョンで一緒に戦っている間に……ほんの数時間の間に僕達は仲間になった。

 アサシンのショーは飛び上がりラスボスの目を狙った。ラスボスの目にダガーが刺さったが、まだ目は空いている。どうやら一撃では無理の様だ。しかし彼は執拗に右目を狙い続けている。
ラスボスは完全に右側に気を取られている。シュートとジュリーは左側に回り後方からラスボスを攻撃していた。ローリーはその二人を中心に回復魔法を唱えまくっていた。

 ラスボスはアサシンのショーの攻撃に対してイラついているようだった。そう思った瞬間大きなしっぽが吹っ飛んできた。

避け損ねた2人が巻き込まれて消えた。

ダンジョンの広間はラスボスの咆哮と冒険者達の叫び声が響き渡っていた。

とうとう、ラスボスの右目が潰れた。アサシンのショーもひどくやられていた。僕は彼に近寄り回復系の魔法を唱えた。
「回復剤は持っているのか?」

「ああ、まだあるが、助かった。恩に着る」

彼は完全に今回のシナリオを忘れているようだ。実は僕も同じだった。今はこのラスボスを倒す事しか考えられなかった。

そしてその時は来た。

 最後の一太刀を浴びせたのはシュートだった。
アサシンのショーの渾身の一撃でひるんだラスボスの脳天にオリハルコンの剣をぶち込んだ。
そこに息も絶え絶えの魔道士達があらん限りの攻撃魔法を浴びせ倒していた。

 そしてラスボスは断末魔の咆哮と共に消えた。
多くの財宝とレアアイテムを残して……。

 僕達は勝ってしまった。モニター室でゆかり先輩が怒鳴り散らしている姿が目に浮かぶ。
残念ながら先輩の用意した『最強のラスボス』に我々は勝ってしまった。
先輩は悔しくて仕方ないだろう。ざまあ……おっと……口が滑りそうになった。

残ったメンバーは僕達5人を入れて13名だった。後は当初の目論見通り消えた。

 なんとか生き残こったゲーマー達は、欲しいレアアイテムを手にすると満足げにログアウトしていった。
そう、彼らは根っからのゲーマーたちだった。

そして、ダンジョンには僕達5人だけが残った。
やはりみなその手にはレアアイテムが握られていた。

「最後に本当に楽しい想い出が出来ました。ありがとうございます」
シュートが頭を下げた。
ローリーはもう泣いている。

「もう会えないの?」
ローリーがシュートに聞いた。

「会えるさ」
そう応えたのはアサシンのショーから開発者に戻った安達だった。
「今回の件で居残れないようにする方法も見つかった。だから居残り対策は可能だろ。ちょっと時間が掛かるかもしれないが、これが最後の別れになる事は無いと約束できるよ」

「え?本当ですか?」

「ああ、本当だ。これは国策案件だといっただろ?このままお蔵入りにはならない」
安達はローリーに無表情に言った。続けて向き直ると
「それにシュート。君の存在は面白い。これからも僕とは長い付き合いになると思う」
と言った。
「え?そうなんですか?」

「そうだ。君の存在は僕達とジュリーの姉しかしらん。もしかしたら君はこれからのネット社会で生きていくための指針になるかもしれない」

「そうなんですか?」

「うん。僕はそんな気がしてならない。だから、これからも長い付き合いになりそうな気がする」

「……という事は」

「そうだ。君たちはいつでも僕の研究室に遊びに来てくれて構わないという事だよ」
そう言うと安達はローリーに
「いつでも歓迎するよ。彼に会いに来たまえ」
と今度は笑って言った。一瞬だが安達の無表情が消えた。

「じゃあ、そろそろ行こうか」
僕がみんなに言葉をかけた。

「はい」

「じゃあ、シュート。また来るからな」
ジュリーがそう言うと
ローリーが涙を溜めたまま
「また来るからね」
とシュートに抱きついた。

やがてシュートはローリーの肩に両手を置き黙って身体を離した。

ローリーと僕達はログアウトした。

モニタールームから僕たちの戦いを眺めていたゆかり先輩が呟いていた。
「私も行けばよかった。ちっくしょう……」
と。

そりゃそうだろう……だって先輩もゲームオタクなんだから……。
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