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魔法との遭遇編

第7話「ユイのこたえ」

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 シーちゃんからのお願い。
 それは、あたしに魔法使い『ルミナス・アクセリアン』になってスクラップと戦ってほしいというものだった。
 いやいや! それは、さすがに!?
「む、無理だよ! あたしに魔法使いだなんて!」
「あなたには、魔法使いとしての才能があるわ! さっきあなたにくっついていてわかったの! あなたに、潜在的な魔力を秘めてる! スクラップが目をつけるほどのね!」
「そ、そんなこと言われたって……! あたし戦い方なんてわからないし!」
「私がすぐそばでサポートするわ! あなたなら、すぐに戦えるようになる!」
「た、戦うって言っても……装飾魔法っていうのを使うんでしょ? それって、魔法のアイテムがないと使えないはずだよね? あたし持ってないよ?」
「それなら大丈夫よ! あなたにひろってきてもらったポーチに、ルミナス・アクセリアンが使う予備の魔法のアイテムが入ってるの! スクラップに一度は奪われたけれど、あなたが取り返してくれたのよ!」
「え? あのポーチの中に?」
 ベッドの上に、投げて置いた紺色のポーチに目をやる。
 あの中身は、ルミナス・アクセリアンの魔法のアイテムだったんだ。
「ね? 戦うための手段はあるの。あとは、ユイ……あなたが決心してくれさえすれば」
 シーちゃんのぬいぐるみのお目目が、ジッとあたしにすがるような視線を向けている。
 そ、そんな目で見られても……。
「あたしは、どこにでもいる普通の女の子だよ。運動神経には、けっこう自信があるけど、それでも魔法使いとして戦うなんて自信がないよ。そもそも、戦うなんてこわいしさ……」
「不安なのはわかる。私が無茶なお願いをしているということもわかってる。でも、もうあなたしか頼れないの! あなたが、最後の希望なのよ!」
「そ、そういう言い方は、ひきょうだよ……」
 あたししか頼れない、あたしが最後の希望。
 そんな風に言われたら断りづらくなるじゃん。
「……ごめんなさい。けれど、それが事実なの。スクラップに対抗するには、魔力の才能を秘めたあなたの力が必要なのよ。お願い……力を貸してちょうだい」
 ど、どうしよう。
 はっきり言って断ってしまいたい。
 スクラップに魔法のアイテムを使うようにおどされたときのことを思い出す。
 あんなにこわい思いをしてきたっていうのに、これから先、またあんな恐怖体験をするかもしれないと思うと、足がすくんでしまった。
 それでも、あたしの力を必要としてくれているシーちゃんの力になりたいという気持ちもたしかに、あたしの中にあるんだ。
 なにより、このままスクラップを野放しにしていたら、みんなが……。
 アヤちゃん、ユウくん、タクヤ、リンちゃん、ルリちゃん、保科先生、クラスのみんな、学校のみんな……みんなの姿が頭の中に浮かんできた。
 親しい友だちたちに、嫌らしい笑みを浮かべたスクラップの姿が、おおうように重なるイメージを想像してしまって、あたしは身ぶるいがして、首を横にふった。
 スクラップの魔の手が、みんなに迫ってる……。
「あたしが、戦うことでアヤちゃんたちを……タマ小のみんなを守れるんだよね?」
「ええ、”あなたが戦わないと”守ることができないの」
「また、ひきょうな言い方するんだね」
 シーちゃんは、それ以外の方法はないんだと、そう言っている。
 おどされているようにも思えて、なんだかもやもやしちゃうな。
「ごめんなさい……でも、私はユイならみんなを守り切れるって、そう信じられるの」
「あたしたち出会ったばかりで、お互いのこともよくわからないのに、どうして『信じられる』なんて言えるの? シーちゃんは、あたしのなにを知ってるの?」
 あたしをその気にさせるために「信じられる」なんて”聞こえの良い”言葉を言ってるとは思いたくないけど。
 シーちゃんが、どうしてそこまであたしのことを評価してくれているのか疑問だった。
「正直に言うとね、あなたを代理のルミナス・アクセリアンに選んだ理由は、高い魔法の才能だけじゃないの」
「え?」
「魔法の才能も理由のひとつではあるのだけど、それよりも私があなたをアクセリアンに推す理由は、あなたが強い心の持ち主だからよ」
「強い心の持ち主……?」
「だれしも欲望を持っている。その欲望を叶えることができる魔法のアイテムがあれば、多くの人は、その魅力に取りつかれてしまう。でも、あなたはちがった。私は見ていたの。ぬいぐるみの姿で、あのときスクラップから魔法の指輪を渡されたあなたと、その後を」
 そういえば、あのとき……学校に入ろうとしたとき、小さな声が聞こえたような気がしたけれど、それはもしかしたらシーちゃんの声だったのかな?
 残されたかすかな力で、あたしのことを見守ってくれていたのかもしれない。
「教室で魔法の指輪の力を使おうか迷っているあなたを見てハラハラした。この子も、魔法の力に取りつかれてしまうのではないかと。けど、あなたはそうはならなかった。一度は、魔法の力でテストの答えを解いたのに、自分でそれを消してしまった」
「だって……魔法の力でテストを解いちゃったら、みんなのことを裏切っちゃうもん」
「そう! それよ! あなたは友だちを裏切りたくないと魔法のアイテムの力を否定した! そして誰かを傷つける魔法なんて必要ないと所有者になることを拒否した! あなたは、自分以外のだれかのために何かを決断できる崇高な正しい心を持っている! 私は、そんなあなただから、私の代わりにルミナス・アクセリアンになってほしいの! だって、その強い心こそルミナス・アクセリアンとして一番必要なものだから!」
 シーちゃんは、一息ついてから、こう続けた。
「そして、それだけの強い心があれば、きっと私の代わりにスクラップの魔の手からみんなを守ることができるって信じられるの! あなたなら戦い抜けるって、そう思うのよ!」
 熱をもったシーちゃんの言葉。
 あたしには、なんだか、おおげさに聞こえた。
 それでも、きっとシーちゃんは心の底から、あたしにならできるって信じてくれているんだろう。
 ふぅ……ここまで言われちゃったら……ね。
「ごめんね。”すうこう”だとか”正しい心”だとか、あたしにはよくわかんないよ」
「……そう」
 シーちゃんの声は、すこしガッカリと気落ちしたようだった。
「でも、もしあたしが魔法使いになることで、みんなを守れるなら……。あたしは、なるよ。魔法使いに……ルミナス・アクセリアンに!」
 最初から、選択肢なんてなかったんだ。
 そうすることで、アヤちゃんたちを守れると知ったときに、こうなることは決まってた。
「ほ、ほんとうに!? ほんとうに、私の代わりにルミナス・アクセリアンになってくれるのね!?」
「ほんとうだよ。みんなのことを守りたいからね」
「ありがとう! ありがとうユイ! ルミナス・アクセリアン・ユイ!」
「ルミナス・アクセリアン・ユイ……か」
 なんだか、漫画やアニメの主人公になったみたいで、ちょっとだけ気持ちが上がってきたかも。
「あ、でも……あたし戦いのことなんて、さっぱりだから、ちゃんとサポートしてね?」
「ええ! もちろんよ! ふたりで一緒に、あなたの友だちを守りましょう!」
「うん! よろしく! シーちゃん!」
 あたしは、シーちゃんのぬいぐるみの小さな手と握手をした。
「がんばろう!」
「ええ!」
 こうして、あたしとシーちゃんは、ルミナス・アクセリアンのコンビとしてスクラップの魔の手からみんなを守るために活動することになった。
 不安や恐れがないとは言えるわけない。
 けど、やると決めた以上、逃げ出すことなんてできないよ。
 あたしが、アヤちゃんたちを……タマ小のみんなを守るんだ!


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