いちばんになりたい

紗夏

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第1話 夕希

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週末の日曜。法科院はお休みしてしまって、アルバイトも他の人と代わって貰った。今日は、フリー。一日、淳弥と過ごせる。

天気まで、夕希の気持ちを代弁するように、梅雨の晴れ間が広がっていた。


淳弥とは駅で待ち合わせだった。淳弥はもう待っていて、券売機の脇の壁にもたれて、スマホを弄ってる。夕希は素早く駆け寄った。


「おはようございます」
「おはよ、夕希ちゃん。昨日は仕事でしょ? 朝早いのに眠くない?」
「バッチリですよお」
「若いっていいなあ」
「淳さんだって、同じ20代じゃないですか」
「前半と後半には大きな隔たりがね…」

そんな話をしながら、自動改札を抜け、ホームに向かう。この駅はのぼりも下りも同じホームだ。


「で、何処行くんだっけ」

電光掲示板を見上げて、淳弥が呟く。上りの電車の方が、先に来るようだ。


「あ、映画が観たいな、って思ったんですけど」
「じゃ、シネコンのあるショッピングセンターでも行く? でも、そんなんでいいの? せっかくお天気もいいのに」
「いいんです」

乗り込んだ電車が発車する際に、夕希の身体がぐらっと揺れて、淳弥はすかさず、夕希の手を取って支えてくれた。安定走行になった後も、繋いだままの手。その温もりが夕希に何よりも自信を与えてくれる。


「あ、私これ観たいんです」

映画館入り口にポスターを見つけて、夕希がはしゃぐ。


「…え、これ?」

地味な想定のポスターに淳弥は驚いた声を出した。

夕希が観たい、と言ったのは、犯罪心理学を扱ったサイコミステリー。残虐なシーンもあるからR指定がついてる。


「あ、ダメですか?」
「しっぶいなあ。俺はいいけどさ」
「こういうの大好きなんです」
「女の子って、ラブストーリーばっかりかと思ったよ」

苦笑いしながら、淳弥は券売機で中央よりのシートを選んで買ってくれた。


「ポップコーン買ってきていいですか?」
「うん。あ、俺、コーラ欲しい」
「了解です」

3時間に渡る映画は、夕希には面白かったが、淳弥は途中少し中だるみしたのか、うとうとしてた。


「今度は淳さんの好きな映画にしますね」
「いや、面白かったんだけどさ…時々何故か意識不明に。あ、でも犯人もトリックもわかったよ?」

感想を言い合いながら、映画館の外に出る。ちょうどお昼時で、「ご飯にします?」なんていいながら、最上階のレストランフロアを歩いたが、何処も長蛇の列だった。


「混んでるなあ…」
「ですね」

レストランは諦めて、一階にあるカフェやフードコートの方を探すことにした。たまたまテラスに空席を見つけて、夕希と淳弥はそこでコーヒーとバケットサンドの軽めの昼食を摂ることにした。


「いただきま~す」

夕希が手を合わせて、食べようとした時だった。淳弥のスマホが着信を知らせた。


「誰だよ」

迷惑そうにいいながら、淳弥はスマホをハーフパンツのポケットから出して、ディスプレイを眺めて、淳弥の目は画面に釘付けになった。淳弥の顔つきから、それまでの柔和さが消える。


「…ごめん、夕希ちゃん。先に食べてて」

スマホを持ったまま、淳弥はオープンテラス席の隅っこの方に行ってしまった。



「先に…って」

食べられるわけがない。
夕希は落ち着かない気持ちで、席に座ったまんま、淳弥の方を見つめる。


「え? 結衣が?」

会話の中で、トーンが上がったその台詞だけ、夕希の耳ははっきりと拾った。


(ユイ…)

女性の名前だ。咄嗟に浮かんだのは、先日の手紙だ。――関係あるのかな? 

図ってか偶然か、淳弥は夕希に背を向けてしまっていて、その後の会話の内容は全く掴めない。


ざわざわと落ち着かない気持ちだけが、夕希の中で膨らむ。その時だった。



「何、してんの? 糸井さん」

淳弥しか目に入ってなかった夕希は、周囲に全く注意を払ってなかったから、気づかなかった。呼ばれて漸く振り返ると、琢朗が憮然と夕希を睨みつけてた。



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