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第1話 夕希
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しおりを挟む「糸井さん」
夕希の哀しみに寄り添うように、琢朗の手が夕希の肩に掛けられる。
「せっかく来たんだからさ、どっか見てこうぜ?」
夕希の気持ちを浮上させるように琢朗が言う。
しみじみと琢朗のお節介に感謝して、またぎゅっと瞳を閉じた。こんな風にひと目も気にせず、泣きじゃくったのっていつ以来だったろう。
でも近くにあったのは、ヤマトミュージアムという戦艦ヤマトの史料館と、てつのくじら館という自衛隊の潜水艦を展示してあるもの。
「更に海の底深く沈めってこと?」
「そういうわけじゃ…」
んじゃ、お好み焼きでも食ってくか。そう言って、戻った広島駅の中のお店で、お好み焼きを食べて、帰ってきた。
夕希が願った通り、淳弥は店に来なくなった。朝の坂道。自転車で追い抜いて行くサラリーマンの集団の群れの中にも、淳弥はいない。
寂しいというより、ほっとした気持ちが大きい。淳弥の自宅からは、800キロも離れた距離。会ってしまえば、またどんな風に心が揺らいでしまうか自信がない。
淳弥の記憶なんて塗り替えてしまう勢いで、必死に法律の勉強をした。軌道が戻っただけだ。そう、思えばいい。
「糸井サンさあ。最近、また目が血走ってるよ?」
常に六法のどれかを手にしてる夕希を琢朗はそうやってからかう。
「…上條くんには関係ない」
「司法試験終わったら、デートくらい誘いたいんですけど」
「終わらないと考えられない、今、そんな余裕ない」
淳弥のつけた傷は、少しずつ、けれど、確実に小さくなっていく。広島から戻ってひとつきが経った頃、夕希の身体に異変が起き始めていた。
生理が3週間以上遅れてるのだ。精神的ダメージを受けたせい…と軽く考え、放置していたのだが、流石におかしい。
勇気を振り絞って薬局で検査薬を買って、トイレに駆け込む。夕希の手にしたスティックは、検査時間の5分を待つ間もなく、赤いラインが明瞭に刻まれた。
(…妊娠…?)
全身から汗が拭き出て、震えが止まらなくなる。くらっと目眩がして、夕希はその場に膝から崩折れた。
いちばんになりたい 夕希side 完
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