いちばんになりたい

紗夏

文字の大きさ
30 / 63
第1話 夕希

30

しおりを挟む


「糸井さん」

夕希の哀しみに寄り添うように、琢朗の手が夕希の肩に掛けられる。

「せっかく来たんだからさ、どっか見てこうぜ?」

夕希の気持ちを浮上させるように琢朗が言う。
しみじみと琢朗のお節介に感謝して、またぎゅっと瞳を閉じた。こんな風にひと目も気にせず、泣きじゃくったのっていつ以来だったろう。
でも近くにあったのは、ヤマトミュージアムという戦艦ヤマトの史料館と、てつのくじら館という自衛隊の潜水艦を展示してあるもの。

「更に海の底深く沈めってこと?」
「そういうわけじゃ…」


んじゃ、お好み焼きでも食ってくか。そう言って、戻った広島駅の中のお店で、お好み焼きを食べて、帰ってきた。


夕希が願った通り、淳弥は店に来なくなった。朝の坂道。自転車で追い抜いて行くサラリーマンの集団の群れの中にも、淳弥はいない。

寂しいというより、ほっとした気持ちが大きい。淳弥の自宅からは、800キロも離れた距離。会ってしまえば、またどんな風に心が揺らいでしまうか自信がない。


淳弥の記憶なんて塗り替えてしまう勢いで、必死に法律の勉強をした。軌道が戻っただけだ。そう、思えばいい。

「糸井サンさあ。最近、また目が血走ってるよ?」
常に六法のどれかを手にしてる夕希を琢朗はそうやってからかう。
「…上條くんには関係ない」
「司法試験終わったら、デートくらい誘いたいんですけど」
「終わらないと考えられない、今、そんな余裕ない」


淳弥のつけた傷は、少しずつ、けれど、確実に小さくなっていく。広島から戻ってひとつきが経った頃、夕希の身体に異変が起き始めていた。

生理が3週間以上遅れてるのだ。精神的ダメージを受けたせい…と軽く考え、放置していたのだが、流石におかしい。


勇気を振り絞って薬局で検査薬を買って、トイレに駆け込む。夕希の手にしたスティックは、検査時間の5分を待つ間もなく、赤いラインが明瞭に刻まれた。


(…妊娠…?)


全身から汗が拭き出て、震えが止まらなくなる。くらっと目眩がして、夕希はその場に膝から崩折れた。


           いちばんになりたい 夕希side 完




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!

山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」 夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...