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②夫はとても心配性です
しおりを挟むれっきとした王太子の妃であるのに、処女。
何とも言えない複雑な立場のまま、ソフィアはこの国に来て、二度目の春を迎えようとしていた。
応接室に友人が来たとの知らせを受け、ソフィアは足取りも軽くそこに向かう。
そして、友人の挨拶もそこそこに、切り出した。
「ユリア様。今日はお天気がいいから、サンドイッチを持って、湖に行ってみない?」
ユリアはこちらに来て出来たソフィアの親しい友人だ。アーノルド伯爵令嬢で、祖先を辿っていくと、セオドアともつながりがあるらしい。結婚披露のパーティでセオドアに紹介され、その後城のお茶会に招き、そのお礼にユリアの家での舞踏会に招待された時には、すっかり意気投合していた。
ソフィアが滅多に外出できない身分であるから、ご機嫌伺いと称して、ユリアの方から度々城に遊びに来てくれる。
「湖って…私は構わないけれど」
ソフィアの提案に、ユリアは少し顔を引きつらせながら答える。彼女の言葉の『私は』に、ソフィアは慮ることもなく、宮廷のコック長にサンドイッチとフルーツの盛り合わせを作らせる。
ピクニック用のバスケットが全部埋まる前に、ある人物が勢いよくソフィアの前に現れた。
「ソフィー! 湖に行くって本当なのか?」
公務はいいのだろうか。ソフィアは夫の立場の方が気になってしまうが、セオドアは構わず続ける。
「誰と誰を伴って行くんだ」
「ユリア様と…あとは御者のハンスくらいでしょうか。何か問題でも? 殿下」
「問題だらけですよ。湖なんてなぜそんな危ういところに…。途中で何者かに襲われたらどうするんですか、岸辺を歩いていて、湖に落ちでもしたら…」
「……」
また始まった、とユリアは両手を挙げて呆れかえったポーズを取り、ソフィアはぽかんとしたまま何も言えなくなってしまう。先程のユリアの「私は」という回答は、その後の「けれどあなたのご主人が許さないんじゃなくて?」という一文を潜ませていたものらしい。
そう、ソフィアの夫のセオドアは、過剰にソフィアを心配するのだ。
こういった外出がセオドアのこの言いがかりにも近い杞憂のせいで、何度ぽしゃったか知れない。
「…だ、大丈夫ですわ、殿下」
「君はいつもそう言う」
だって、もう子どもではないんだし。セオドアみたいに、最悪の想像ばかりをいつもいつもしていたのでは、ソフィアは何も出来ない。
「お言葉ですが、城内なら何も起こらない、というわけではないと思います。殿下のそれは、杞憂と言うんですよ。空が落ちてくるのを憂うようなものではないですか?」
今日はどうしてもユリアと湖に出かけたいのもあって、ソフィアは笑顔ながらも、はっきりキッパリ、セオドアに言った。
「君の言うことは勿論なんだけど…」
ゴニョゴニョと呟いてから、セオドアは「わかった」と頷いた。
「なら馬車の後ろには、宮廷の警護隊をつけさせよう。万が一湖に落ちたときのために、特に泳ぎの達者な者を選び、10名程…」
それから医者も同行させた方がいいだろうか…と真剣に悩んでいるセオドアに、(わかってないよ…)と、ソフィアとユリアはこっそりため息をつくのだった。
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