AIに意識を移植されたのでちょっと異世界に行ってきます

鉛風船

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異世界へ

#1 人類の新たなる夜明け

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 何時にも増して実験室の中は騒がしいものとなっていた。

 白衣を着た老若男女が、あっちへこっちへてきぱきと動き回っている。様々な数値とにらめっこをして、額に汗を浮かべた多くの研究員たちは、白衣でそれを拭う。

 俺はそれを俯瞰し、作業の邪魔にならないよう何も言わず、中央に置かれた金属製のカプセルに研究員に促されるまま横たわった。頭には幾つもの電極が繋がれ、少し頭を動かすだけでも一苦労だ。研究員たちが俺から離れた。

 すると、慌ただしかった実験室が溢れんばかりの喧騒に包まれた。聞こえてくるのは、数字、記号、単位、装置の名前と一般人が聞きなれない言葉の羅列だった。

 暫くその声が聞こえてきたかと思うと、今度は実験室内に赤いランプが灯ったのが見えた。俺は頭に付けられた電極を不快に感じながらも、ランプの明滅を眺めていた。

 アナウンスで、実験室からの退避が命じられ、残された俺は一人、身動ぎも出来ず、来るべき時を待っていた。

 カプセルに取り付けられた覗き窓から横を見ると、直径十センチメートル位の球体が俺のすぐ隣に置かれ、俺の頭と同様に様々な電極で繋がれていた。事前に受けた説明によると、俺はこれからあの球体に意識を移植するらしい。

 その下では、透明の桶に入った銀色のスライムのような謎の物体が蠢いていた。古典SF映画の傑作、ターミ○ーター2に出てくる敵みたいだ。あれはナノマシン。人の細胞よりも小さい幾億ものロボットたちだ。それがああも集まって一つに固まるとスライムに見える。

 人生百三十年と謳われるようになった現在、それを可能にしたのが俺の隣にいるナノマシンであり、人類の栄華の立役者だ。ガン、エイズ、白血病、ウイルス性感染症をことごとく撲滅させた英雄とも、第二次人口爆発の元凶だとも言われている。

 何故そのナノマシンが俺と並んで電極に繋がれているのかというと、実はそう難しい話じゃあない。ナノマシンが開発された当初、それは医療用だった。後に軍用、業務用、娯楽用、教育用と派生してくものの、ナノマシンは医者しか扱えないものだった。

 ナノマシンの登場は人類の進化を大きく促した。インターネットが世界を繋いだように、ナノマシンは命を繋いだのだ。まあ兎に角、人類はナノマシンの登場によって大きく発展したとわかればいい。例えば、壊死した四肢をナノマシンで代用したり、衰えた筋肉をナノマシンんで置き換えたり……。

 当初は良かった。みなサイボーグになりたがり、金持ちたちはサイボーグじゃない方が珍しかった。しかし、人体と機械の融合は、逆に人体と機械の釣り合いの悪さを助長した。

 ナノマシン製人工筋肉を足に埋め込んだ陸上選手は、あまりの速度に体が追い付かず背骨を骨折し、血液をナノマシンに置き換えようとした女性は、ナノマシンの暴発増殖により、原型を留めない姿で発見された。

 これはあくまでやり過ぎた事例だが、ナノマシンという麻薬を手に入れた人類は、それなしの生活に戻れなくなった。背骨が耐えられないなら背骨を置き換えればいい、増殖を押さえられなければそれを排出する器官を取り付ければいい、という理論で更にのめり込んだ。

 それが行き過ぎた結果として、今日の俺がここにいる。人間の意識そのものを機械に移植してしまえば、置き換える必要もなくなるじゃないかとのことらしい。

 そして、俺はそれを悪いとも思っていない。神だの倫理だのどうのこうのいう連中は、第四次世界大戦で皆死んだ。今ある国も昔のものとは大きく姿を変えている。西暦二千五百年を迎えて、人類は己の力で進化するときを迎えたのだ。

 この実験が成功すれば俺は人類史の一ページにその名を刻むだろう。それは大変名誉なことだと思うし、責任が伴うものでもある。もう元の生活に戻れないことも覚悟しなくてはならない。失敗した場合は……考える必要もないか。

 さて、そろそろ時間らしい。外の動きが変わった。赤いランプが消灯し代わりに黄色のランプが明滅し始めた。カプセルの覗き窓からは天井しか見えないが、研究員たちの緊張が俺の方まで伝播してきた。

 物言わず鎮座する球体が羨ましくなった。

 遂にカウントダウンが始まった。

 十、九、八……と続く数字を聞きながら、俺はふと成功した後のことを考えていた。無事意識を移植し終えたのなら、俺は――いや、俺だった体はどうなるのだろうか? 死ぬのだろうか? それとも意識が分裂してもう一人の俺として生き続けるのだろうか?

 よくわからない。この疑問の答えは死後の世界とか神の存在とかと同列な水準の疑問だと思う。誰も知らないし、答えを出しようもない。ただ、俺がもし生きていれば記憶のバックアップ方法は確立されるかもしれない。

 三、二、一、零――!
 
 俺の記憶はここで途絶えた。
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