吸血鬼が憩える保健室

坂餅

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いい匂いの人が多い

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 駅から少し歩くと人の数は少なくなっている。その代わりに車が継ぎ目無く走り続ける。私も行ったことあるけど、もっぱら車だ。歩いていくなんてしない。一人で行こうとも思わない距離だけど、今日は佳がいるから歩ける。

「結構歩くね」
「そうだねー」

 歩かせてしまうけど大丈夫かな、って思っていたけどそれは杞憂で、佳は楽しそうに歩いている。うん、眩しい。その楽しいオーラが私を蝕む……。

 いい天気だとか、車が多いだとか、誰がどこへ行っているなんて話をしながら歩いて、ようやく海が見える場所までやって来た。

 冷たい風が、上がった体温を下げてくれる。心地の良い潮風が頬を撫でる。

「人が少ない海ってけっこーいいね」
「来たことないの?」
「うん。基本的に夏しか来ないよ」
「そうなんだ」

 うん、佳のイメージに合う。夏の海、友達とみんなでワイワイと。ポイントは佳はワイワイというところだ。ウェイウェイではない。知らないけど。

「なっちゃんも行こーよ! 夏!」
「いや、多分無理かも」

 海なんて陽の養殖場じゃん。

「そっかー……」

 でも、しゅんとする佳を見ると胸が痛くなる。仕方ないよ……だって命の危険があるから。

「ごめん、嬉しいんだけどね。ほら、私身体強くないし」
「あっ、そうだよね……。ごめんね、今日も無理しないで」

 頼むからそれ以上凹まないでくれ……。

 よし、今一度考えよう。私が佳に吸血鬼のことを話さなければ、これからもこうして佳をしゅんとさせてしまう。対して、吸血鬼のことを話せば、傷つけしまうだろうけど、その時だけ。

 いつか耐えきれなくなって佳に吸血鬼のことを話すことになるのなら、早い方がいいんじゃないのか?

「大丈夫だって、楽しいし。人が多くなければしんどくならないだろうし……!」

 人が多い方がしんどくなるのは間違いない。超絶美人の私は普段から人の目を集めて、羨望の眼差しを向けられることが多い。だから、人の数は少ない方が良い。

 でも、今この瞬間。私と佳しかいなくても、佳の陽が強ければ、私は無事じゃない。まあこうして落ち着いた時間が続くのなら大丈夫だと思うんだけどね……。

 やっぱり言うのはやめよう、慣れる可能性もある。

 最近ずっとこうだ。どれだけ悩んでも結局この結論。悩むだけ無駄、だけど悩んでしまう。

「それなら良かったー」

 佳は笑ってくれているけど、多分私と遊園地とか行きたいと思ってるんだと思う。ゴールデンウィーク前、他の佳と仲の良い人達と話しているのが聞こえた。やっぱりみんなは万人共通のスタジオに行くらしい。……佳も行くのかな。

 こちらとしても、佳が私以外の友達と楽しんでくれるのならありがたい。

「よっし、人がいない海はなかなか気持ち良い」

 あんまり考えすぎても良くない。今、佳との時間を疎かにしないようにせねば。

「そうだね! でも、なにもすることなくない?」
「うん、無い」

 海の家も無いし、遊べる物も無い。ただ眺めるだけだ。

「ええー、なっちゃーん……」
「いやいや、こういうの落ち着いた時間が嬉しいんだよ。ほら、佳もリラックスして」

 砂浜に入る前のコンクリートの階段で座って空気を吸う。ああ、静かで良い……。

「うん、なんか良い感じ! ぜーたくだ」
「でしょ?」

 少し海を眺めていれば、細かいことなんてどうでも良くなる。佳もリラックスしてきたみたいで、思いっきり脚を伸ばしている

「今まで、海って泳いで食べて遊んでって、ずっと動く場所だったからさ、なんか落ち着いた海もいいなーって」
「佳にとってはそうなるのか」

 友達が多い、佳みたいな陽の者にとって海は遊ぶ場所だもんな。吸血鬼の血が悪さする前から、私にとって海は静かな場所だ。海水浴シーズンの海は見ていて疲れる。

 別にみんなで遊びたい、なんて気持ちにはならないけど、佳と遊べないのはちょっと悔しい。

 ……自分の成長に期待だね。

                 △

 ただ海を眺めていると、時間の流れが分からなくなる。早いのか遅いのか、太陽を見る限りそれ程進んでいない気もするけど。

「ちょっと歩こうよ」

 ずっとこのまま一日を過ごすのもいいけど、それは一人の時だ。いや、一人でもずっと座ってたことは無い。

「うん! はー、癒されるー」

 少し力の抜けた佳の顔に安心感を覚えつつ、私は立ち上がって体を伸ばす。

 今から波打ち際を歩くつもりだ。足跡が続く様子はなかなかに楽しい。

 思うように進まない砂浜の上を歩いていると、一人だけ、女の人がいた。でも別に一人だけなら気にしない。距離も離れているし。

 足は濡らしたくないから、波打ち際の少し手前で止まる。ここまで近づけば、波の音は大きく聞こえ、なんとも言えない心地良さがある。

「波の音凄いねー!」
「いいよね」

 水の掛け合いなんてしなくとも、海は楽しいんだ。眺めているだけでもいいし、貝殻を探すのもいい。なにか文字を書くのもいい。

 二人でなにかに夢中になっていれば大丈夫だ。いや大丈夫じゃない! 楽しいと笑顔を向けくれる佳からの陽が強い!

 なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼

 気がつけばくらっていた陽にやられ、ふらりと私はバランスを崩してしまう。普段なら転ぶことなんてない。でも足元が悪いのと、風が強いのとで、その場に尻もちをついてしまった。そしてその拍子に頭を冷たい風が駆け抜ける。

 帽子飛んじゃったな、これ……。

「だいじょーぶ⁉」

 人が多ければ、今頃騒ぎになっていたはず。白髪の超絶美人が現れたから。

「だ……大丈夫……」

 冗談考えられるから大丈夫だけど、頭がのぼせたみたいにふらふらふわふわ、ぐわんぐわんしている。

 でもそれを出してしまえば佳を心配させてしまう。だから私は無理に立とうとせず、その場に座ったまま海を眺める。

「あー……気持ちいい風」
「うん、確かに気持ちいいけど……。なっちゃん、帽子は」
「あっ、ほんとだ。海に落ちてなきゃいいけど――」

 首を伸ばして海を見るけど、それらしい物は無い。ということは海には落ちてないのか。

「帽子、飛んできた」

 探さないとだな、と立ち上がりかけた私の近くで声がした。

「えっ⁉ あっ、ありがとうございます」
「ん、立てる? 無理してい――」
「あーーーーーーーーーー‼」

 帽子を拾ってくれた人に驚いて、その発言に違和感を感じた途端、佳の叫び声が響いた。ここが山なら声が返ってくるレベル。

永海ながみ先輩⁉」

 ながみ先輩……?

 この驚き方、そして先輩、改めて私は、そのながみ先輩の姿を観察する。うん、私に匹敵する美人。間違いない、他学年の超絶美人だ。

「知ってるの?」

 テンションの高い佳とは正反対の様子の先輩が平坦な声音で返す。

「もちろんです! だって三年生の永海先輩っていえば、すっごく美人で頭も良くて、マジすっっごい先輩ですから!」

 要約すると、私みたいな超絶美人で運動も勉強もできる三年生ということだ。

「そっ。永海陽伽ひとぎ

 永海先輩から帽子を受け取った私は、先輩に手を引かれて立ち上がる。

 先輩の手を触った時、妙な感覚がしたけど、それを確かめる前に手は離された。あとめっちゃいい匂いする。

「あなたが高橋鳴月たかはしなつき。でもあなたは、知らない。いつも見るけど」

 先輩は私の名前を知っているようで、でも佳の名前は知らない。私が佳に運ばれている場面を度々見ていたのかな。そして私は超絶美人だがら名前も知られていると。

 やっぱり同じ立場だからか、先輩から陽を感じない。

 先輩に面と向かって知らないと言われても、佳は気を悪くした様子も無く自己紹介をした。佳の自己紹介を聞いても、特にリアクションを取らず、ただ「よろしく」とだけ返す。さっきから先輩は私の方ばかり見ている。いくら私が常に視界に入れておきたい程の超絶美人でも、先輩自身も同じレベルなんだ。ずっと見ていたいなんて思うかな?

 先輩と目が合った状態が続いている。なにか言いたそうに見えるけど、そうでもないような……難しい。佳も空気を読んでか、ずっと黙ったままでいてくれる。いや、先輩の顔をじっと見てるな。おい、私の顔を見慣れているはずだろ。今更見惚れるんじゃない!

 そんなことを考える余裕がある膠着状態を破ったのは先輩だった。砂浜を踏みしめる音がしたかと思えば、先輩の顔が私のすぐそばにあって、私の耳元で囁いた。

「私は人魚の血を引いてるの」

 それだけ言って、さっきまでの見つめ合いがなんだったのか不思議になる程あっさり先輩は歩いて行った。でも、先輩の行方よりももっと重大かつ、衝撃的な言葉を飲み込むのが先だ。この前、不知火先生が言っていたけど、でも、こうして知ることになるとは思わない。深く不覚のゴールデンウィークで一番深い不覚かもしれない。

 先輩の、海の宝石のような青い瞳と、波のような髪が頭から離れない。でもそれよりも強く残るのが先輩の匂い。私の周り、いい匂いの人多くない?
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