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2.長男ディミトロフの場合

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エラルド侯爵家には、4人の子どもが居る。

 1人目は、長男ディミトロフ、27歳。
 2人目は、長女エリアナ、24歳。
 3人目は、次男ギリアン、21歳。
 4人目は、三男ヨシュア、18歳。

 長男のディミトロフは、兄弟の中でも一番身体が大きく、厳つい見た目をしている。黒髪を短く刈り込み、太い眉に眼光鋭い目、顎は2つに割れて、胸板厚く、筋骨隆々。
 代々、エラルド家は皇室の騎士を任命されており、ディミトロフは第一騎士団の団長を勤めている。
 辺境の地に領地を持つエラルド家は、蛮族の族長の娘と婚姻を結ぶ事になっているが、ディミトロフとは歳が合わず、次男のギリアンが結婚することになっている。
 ディミトロフの立場では、なるべくならエラルド家を強化できるような貴族と結婚するのが望ましいが、厳つい見た目は女性に好かれないようだ。両親には、皇室の騎士になる以外は、好きにしていいと言われている。団員始め、男同士の方が気が楽だ。仕事に明け暮れ、婚活も面倒になり、すっかり縁遠くなってしまった。
 
 そんな折、ディミトロフと同じ歳のリンデルと、妹のエリアナが結婚することになった。失礼ながらリンデルを結婚できない仲間だと、密かに思っていたディミトロフは、妹の婚姻はもちろんめでたいのだが、複雑な心境だ。
 可憐な容姿で断られるというコランタン公爵が結婚…!!容姿で断られるというところが似ていると思っていたのだが…結婚!!エリアナを選ぶとは見る目があるな!!と思えども、何故か焦る。
 部下にはそれなりに慕われていると思うし、友も居る。仕事もそれなりに忙しく、生活は充実はしているのだ。なのに、こういう事があると、何故か焦りを感じる。そして羨ましくもある。

 焦ったところで、ディミトロフに良縁が来るわけもなく、たまの非番なので飲みに行こうと街へ出た。

「あんな奴、ホント嫌い!」
「そーだそーだ!」
「勝手に婚約しといて勝手に破棄するとかある?!」
「ない!ないな!」
「しかも君は背が高すぎるから、小さくて可憐な妹の方にするって!了承する妹と両親もおかしいわよ!」
「おかしい!ひどい話だ!」
「私、もう25歳よ?!自分の立場が安定するまで待ってくれって言われて、待ってたのに!妹が成人した途端、君は女として見れないとか言い出して!気持ち悪いのよーー!!」
「なんて奴だ!!姉妹で二股か?!不誠実極まりない!!」
「お父様も、妹には甘いし!姉の婚約者と関係を持つとかありえないでしょ!!怒るべきでしょ?!」
「おかしい!親なら怒るべきだ!」
「そうよね?!!家のために外で働いてるってのに、もううんざり!!妹にそんなだからワガママになるのよ!」

 酒場で隣席になった女性と、ディミトロフは盛り上がっていた。「もう1杯ジョッキ追加!」カウンター越しに、マスターに酒の追加を頼む。
 茶色の髪をゆるく2つに分けて三つ編みに縛り、キリっとした瞳が印象的な落ち着いた風貌の女性。暗く飲んでいたのが気掛かりで話してみたら絡まれた。だが、それが嫌ではない。
 随分と悲惨な目に会っていることに同情しつつも、彼女の倫理観は正しく感じられ、好ましく思えた。

「俺からしたら、君ですら小さいんだから妹なんて豆粒みたいで見えないだろう」
「アハハッ!そうね…アハハハハ」
「ハハハッ今夜は飲もう!婚約破棄に乾杯だ!そんな奴とは結婚しなくてよかったんだ!新しい門出に!」
「そうね!カンパーイ!」

 最初は居た堪れなかったが、女性が思いの外、ノリがよいのでつい酒が進む。楽しい。
 彼女の身長は174cmらしい。首都に住む女性にしては大きい方だろう。エラルド家の領地の女性たちはもっと大きい。妹など190cmあるし、2mあるディミトロフからすると大して大きくもない。首都は小柄な令嬢ばかりで、話すのも気を使ってしまって疲れるから、このくらい身長がある方がまだいい。
 首都に居て、こんな風に、領地や家族以外の若い女性と気さくに話したのは初めてかもしれない。



「だいじょうぶよ!いける!」
「いやいやいや無理だ、やめよう!」
「お願い!だいじょうぶだから!」
「いやでもそんなイキナリ無理だろう!」
「ゼリーで濡らして、もう充分ほぐれたってば!!はやく!」
「いやいやいや…」

 己の愛路に指をグチュグチュ入れて、彼女が焦ったように言う。ぎゅっ!逸物を初めて女性に掴まれ、「あっ」と言う間に大きく反応してしまう己が憎い。酔った勢いで、いわゆるそういう事をする宿屋に2人は居た。男の性を娼館で晴らすのさえ躊躇うディミトロフなのに、まさかの展開である。売り言葉に買い言葉、どうせ私みたいなの女を抱きたいと思う男なんて居ないわよ!そんなことはない!俺は抱きたい!それならやってみてよ!とヤケクソの彼女に乗っかってしまった。
 彼女はしこたま酔っている。今は良くても正気になった時に後悔するかもしれない。少し正気を取り戻したディミトロフは、必死に声を絞り出す。理性との戦いだ。
 ディミトロフはロマンチストなので、初めては妻と、と思っているような人間だ。好ましいとディミトロフが思っていても、彼女の方はどうだかわからない。してみて、ガッカリされるのも辛い。

「だめだだめだ!」
「先っちょだけ!先っちょだけ入れてみて!」
「いやそれダメ男が言う台詞!や、やめ」

 ディミトロフの抵抗虚しく、勃ちあがりっぱなしのそれを掴み、ずぶっと己の愛路に埋めていく彼女。押し倒されているのはディミトロフで、彼女が股間の上に乗り、身体を埋めていく。

「い、いたぁい」
「ほら!やめよう…!うっ…」

 痛がる彼女とは裏腹に、ディミトロフは初めて包まれた快楽に必死に耐える。ズブッ…ズッ…彼女は止まらずにゆっくりと沈んでいく。苦痛に耐えてかわいそうだ。腰を掴み、持ち上げようとした。

「私に反応してくれて嬉しい…」
 
 涙目で苦痛に顔を歪めながらも健気な事を言う彼女に、ぶわっと感情が高まり………………ディミトロフは暴発した。盛大に中にぶちまけた。

「うわぁっ…!すまない…出てしまった…!」

 慌てて抜くと、膣から精液と血液がドロリと溢れ落ちる。ディミトロフは青褪めた。

「なによ…そんなに慌てて…やっぱり私なんか、私なんか……うわーん」
「いや、その!責任は取るつもりだが、君に痛みばかり与えてしまって」
「もうやだぁ~~」
「嫌だったよな!ごめんな!ごめんな!!!」

 号泣しだした彼女に、ディミトロフは必死に謝ることしかできない。泣きながら彼女が胸に飛び込んできて、よしよしと背中を優しく撫でた。「くすん、くすん…」そのうち彼女から、静かな寝息が聞こえてきた。
 胸に顔を擦り付け眠る彼女の顔を見る。「かわいい…かわいすぎる……」ディミトロフは感動に包まれていた。
 
 彼女が起きたら、正式にプロポーズしよう!

 翌朝、目を覚ますと、彼女は既に居なかった。それならば、手順を踏むまで。

 ディミトロフは早速、行動を開始した。

「ソフィア・ラドミール嬢、話しがあるのだが…」
「私にはありません」
「っ…お忙しいところ申し訳ないが、仕事の話しだ。お時間をいただけないだろうか?」

 冷ややかな視線に、ディミトロフは仕事モードに移る。ここは職場なのだ。他人の目もある。配慮に欠けていたと内心焦る。

「わかりました。30分後にそちらの執務室に伺います。それでよろしいでしょうか?」
「ああ、すまない…よろしく頼む」

 ディミトロフの所属する、第一騎士団の駐屯地は皇室の中にある。皇室所属の騎士団の事務を総括する部署に、彼女は居た。彼女が担当するのは第二騎士団のため、ディミトロフと直接の関わりは少ない。第一騎士団の担当者が不在の時に、たまに会話する程度の間柄だ。
 ディミトロフは、いつもなら飲みに行っても女性に声を掛けたりはしない。たまたま、カウンターに座り、暗い顔でどんどん酒をあおる姿が気になり、よく見るとソフィア嬢だった。
 仕事中の彼女は常に無表情、眼鏡の奥の眼差しは鋭く、茶色い髪をぎゅっときつく後ろでまとめあげ、話しかけてもニコリともしない。とても近寄りがたい印象なのだが、普段と随分と違う姿に心配になり、親切心から声を掛けたのである。
 決して下心は無かった。無かったはず………。仕事に対する、その高潔な姿に多少の憧れを持っていたとしても。だ。

「昨日のことは忘れてください!」
「結婚してくれ!!」

 二人は同時に叫んだ。「「え?」」そして同時に困惑する。

「な、なにを…」
「ああなった以上、責任を取りたい」
「ひ、避妊薬を飲みましたから、ご心配なく」
「そういう問題では」
「酔った勢いのことです。お忘れください。私、正直なところよくは覚えておらず…とにかく忘れたいのです!あんなこと、どうかしてました…」

 ディミトロフはしゅんと黙るしかない。女性に恥をかかせる訳にはいかない。その気が無いのなら、引くべきだろう。

「そうか、勝手に舞い上がってしまって申し訳なかった…忘れてくれ」
「舞い上が…?私とのこと、嫌じゃなかったのですか?」
「…嫌なわけがない。ソフィア嬢ほどの才媛と、酔った勢いとはいえ大それたことをしたものだ…君の名誉のためにも、俺なんかと関係を持ったなんて忘れた方がいいよな…嫌な思いをさせて悪かった!もう二度と近づかない!仕事は普通に接してくれるとありがたい!」

 相手が驚くほど引くのが早いディミトロフである。こうして、いつも令嬢方とは決別してきた。少しでも拒絶されると、何だか小さい者を虐めているようで、申し訳なくなってしまうのだ。
 恐怖心や侮蔑を感じず、まっすぐ目を見つめてくれたのはソフィア嬢が初めてだった。それだけでも嬉しかった。彼女の倫理観は好ましく、もっと話してみたかった。

「ま、待って!私みたいな可愛げのない女と嫌じゃなかったと…?」
「かわいかったぞ!」
「え?!」
「死ぬほどかわいかった!!普段から仕事に真摯に向き合う姿も崇高だが、昨日の姿はその時とは違って好ましく…なにより俺はあんな風に真っ直ぐご令嬢に見られたことは無く…君の考え方や倫理観は真っ当だという事がわかったしもっと話してみたかった…いやそれなのにソフィア嬢は、酔った勢いであんなことを俺なんかとした事は一生の汚点であろうに、不躾に訪れて申し訳なかった!!そうだ!!俺たちは何も無かった!そうだな!ソフィア嬢!」

 がしっ!と男にするように肩を掴んでしまう。一気にまくし立てたディミトロフは、びっくりした顔のソフィアと見つめ合う。
 ほら、やはりソフィア嬢の目には怯えも偏見の侮蔑も見当たらない。ふ…とディミトロフは微笑んだ。

「…あの、今夜、改めてお話ししましょう」
「あ、ああ?!」

 断られたのに何でだ?!そう思いつつも、夜に食事に行く約束をしたのだった。


「待たせたか?すまないっ!」
「いえ、私もさっき来たところです。お忙しい中、申し訳ありません」
「今夜も眼鏡じゃないんだな。随分と雰囲気が変わる」
「あれは、伊達眼鏡です。騎士の方たちに舐められないようにと」
「ああ、なるほど。ハハハッ、生意気な奴も居るからな。もし、絞めてほしい奴が居たら言ってくれ。力になるから…っと、こんな事を言われても困るか」
「フフ…ありがとうございます」

 微笑んだソフィアに、かわいい!好きだ!くそ!と思うディミトロフだ。単純な男だ。憧れからすっかり恋になってしまいそうなのだ。いや、もうなっている。普段は見せない笑顔を向けるなんて、反則だ!望みが無いのに好きにさせないでくれ!心の中が騒がしい。
 作り笑いに葛藤を仕舞い込み、ひとまず食べ物を注文し、水を飲んで心を落ち着かせる。

「改めて昼間はすまなかった。職場で不躾に…」
「いえ、私もあの後、よく考えてみたのですが…もし、まだ可能でしたら結婚の話をお受けしようかと…」
「えっ!!」
「私なんかで良ければですが…」
「いい!君がいい!!が、これは夢か?!それとも酔ってる?!」
「酔ってないし、夢でもないです」
「……………そうか…?」
「フフフッ。ディミトロフ団長と居ると、何だか…いえ、よろしくお願い致します」
「こちらここっ!!こそ!よろしく頼む!」

 目尻を赤く染めたソフィアがかわいくて、心がふわふわとして落ち着かない。ディミトロフは食事の味もよくわからなかった。




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