神様の仰せのままに

幽零

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御前試合編

5話

歩く事数日、道中何度か穢れた神に襲われながらも、全て返り討ちにしていった。そしてたどり着いた場所は、そこそこ大きな神社だった。

(……初詣とかにゃ、人がゴミのように来るんだろうな)

一瞬脳裏にかつての家族の姿がよぎるが、思考を振り切る。思い出したって何にもならない。もうこの世にはいないのだから。

そんな事を考えていると、紅葉は両手を腰に添えて「むふー」と鼻高々に喋り出す。

「どうじゃ人の子よ!ここが妾の元いた場所!そして穢れに飲まれた神々と戦う拠点じゃ!」

「……拠点ってわりには人がいねぇな」

「そうじゃな、今は出払っているのかもしれんのう」

そういうと紅葉はトコトコと歩いて、神社にズカズカと入って行った。仕方がないので後をついて行く。すると、社を通り過ぎた瞬間、突然ワッと人が溢れた。

「……あ?」

「ぬ?何を間抜けた顔をしておるのじゃ人の子よ」

「……コイツらどっから湧いて出やがった」

抜けない剣に手をかけるが、紅葉は「おぉそうか」とポンと手を打ち答える。

「そなたはここの仕組みを知らなんだな。先ほど通ったあの社、あれは結界になっておってのう。外から見たらあたかも誰も居ないように景色を写しておるのじゃ」

「……ガキ、お前今出払ってるって…」

「そうじゃな、人の?」

「あ?じゃあコイツらまさか…」

「左様、みな神じゃな。どうじゃ?神々しかろう?」

「……うじゃうじゃいて鬱陶しいな」

「……そなた…ホントに不敬じゃな…」


入口付近でそんな会話をしていると、通りかかった巫女のような女性がこちらに気がつく。瞬間その女性は血相を変えてこちらに走ってきた。

「く、紅葉様ッ!?いつお戻りに!?お身体は大丈夫なのですか!?」

その女性の声で、周りの神(?)たちも集まってきた。

「多少は力も戻った。して、神守カンモリのみなはどこへいった?人の数も少ないようじゃが…?」

紅葉がそう聞くと巫女は答える。

「穢れに飲まれた神を鎮めにいっております。じき帰還するかと。……あの紅葉様…」

「ぬ?なんじゃ?」

「先ほどからいらっしゃるあの方はどなたで?」

「あぁ、アヤツは谷透といってのう、逃げ延びていた時に偶然出会った。今では妾の護人で、ケガ…」

紅葉が言いかけた矢先、後ろからガチャガチャと複数人の足音が聞こえ、その先頭に立っていた若い男が紅葉を見るな否や、走りながら向かってきた。

「紅葉様ッ!?お戻りになられたのですね!?」

「おぉ、風切カザキリ、久々じゃのう」

風切と呼ばれた男は色が白く、腰に刀を携えていた。衣装もどことなく侍のような雰囲気だ。

(『神守』……恐らくは『穢祓い』じゃねぇ方の神たちの護衛役か……)

谷透が思考を回していると、集団の中からまだ中学生ぐらいの少女が飛び出してくる。

「紅葉様ご無事でしたかー?よかったですー」

どことなくのほほんとした雰囲気だ。霊媒師みたいな格好をしている。

「おう、ホノ。少し見ない間に大きくなりおって!」

昔を懐かしむように紅葉と人間の集団が話していると、先ほどの巫女姿の女性が紅葉に尋ねる。

「あの…それで紅葉様、あちらの方はどなたでしょうか?」

紅葉はあぁ、そうじゃったと思い出したように答える。

「アヤツは谷透、妾が弱っていた時に偶然居合わせてな。それからというもの、妾の護人じゃ、そして……」

紅葉は少し勿体つけて話だす。

「『穢祓い』じゃな!」


「「「………ッッッ!?!?」」」


ザワッと一斉に雰囲気が変わった。

「『穢祓い』……しかし、あの男どう見ても神に通用するような武器など……」

風切と呼ばれた男が谷透を見ると、その手に持っていた剣を見て目の色を変える。

「あ……あれは……」

風切は震える指で抜けない剣を指す。

「『封神剣フウジンケン』ッッ!?!?なぜあの男が持っているのですッッ!!あの剣は、我々の切り札であり!どこの馬の骨ともつかない男に渡す代物ではありません!」

風切の言葉に周りが一斉にざわつく。すると奥から大柄な男が出てきた。気配からして神だろうか。

「何事だ。風切……ぬ?紅葉か…戻っていたなら顔を見せよ」

「仕方ないじゃろうが、帰って早々囲まれてもうたのだから」

「……して、風切よ。騒がしいが、何事だ?」

大柄な男に問われ、風切は膝をつきながら答える。

「ハッ…あの黒いフードを被った男…谷透という者らしいのですが……紅葉様が…その…封神剣をその男に渡したと……」

「…なんだと?」

大柄な男は少し屈んで谷透を見下ろすと、その手に持っている剣を見つめる。


「………うぅむ」


少しの間沈黙すると、再び立ち上がり言葉を発した。

「……とにかくだ。紅葉がこうして帰還した。風切たちもご苦労であった。神主が食事の用意をしている。兎にも角にも休むが良い」

「ま、また神主自ら!?…おい、お前たちッ!急いで食事だ!神主をこれ以上働かせるなよッ!」

言われるや否や、風切を含む数名の集団は駆け足で奥へと入っていった。そんな中大柄な男は、神社の中に入っていく集団の一番後にいた少女に声をかけた。

「仄。ぬしはこの谷透とやらを神社内へ案内せよ。食事はこの者と共に取るが良い」

「あぁ、はいー。わかりましたー」

仄はゆったりと答え、谷透に近づいて来る。大柄な男は再び屈むと、谷透に話しかける。

「谷透とやら、兎にも角にも歓迎しよう。我は盾岩ジュンガン。ようこそ『三ツ谷ミツヤ神社へ』」

「……あぁ」

「それではーご案内いたしますー」

「………」

谷透は仄に連れられ、神社へと入っていった。

谷透と仄が見えなくなってから盾岩が紅葉に向けて言葉を発する。

「紅葉…話がある」

「奇遇じゃのう、妾もじゃ」







神社内にある盾岩の部屋で、紅葉と盾岩は向かい合っていた。

「相変わらずでっかい部屋じゃのうー掃除する巫女達も大変じゃな」

「……我は図体が大きい。致し方なかろう」

前座の軽口を終わらすと、盾岩は声色を変えて切り出した。

「それで……あの谷透とやらに『封神剣』を渡したと?………良かったのか?」

「……まぁ、しのごの言える状況じゃなかったからのう。あの男しかいなかったのじゃ」

「ぬぅ?まさか穢れた神にでも襲われたか?」

「そのまさかじゃよ。襲われたのじゃ、妾の気配でも追ってきたのかのう。ホントに厄介な連中じゃ」

「見たところ、逃げていた時の護衛はあの谷透という者一人のようだが、ぬしが生きているところを見るに、『封神剣』とは、とてつもない力を持つのだな……」

「おい盾岩、勘違いしているようじゃが、あの『穢祓い』は『封神剣』を抜けてないぞ?」

「………なんだと?しかし、一人で穢れた神を倒すことなど、『封神剣』の解放ぐらいのものしか……」

「違う」

紅葉は片方の口角を上げて答える。

「『封神剣』は抜けておらんよ。あの『穢祓い』は抜けなかった『封神剣』で神を撲殺したのじゃ。たった一人でな」

「なんと……」

「妾は以前から思っていたが、神代遺物シンダイイブツの『封神剣』。風切でもあれは抜けぬと思うのじゃ」

「無論、仄もじゃな」と続ける。

「だが、鞘に収まった状態の封神剣で神を殴り殺すなど、前代未聞じゃ」

「……ともかく、これは『三ツ谷神社』内だけで済ませられぬな……。突然現れた部外者が『封神剣』を手に『穢祓い』をしているなぞ、いつまでも隠し通せるものではない」

「そうじゃのう……風切も帰ってきたのじゃろう?なら行くとしたら今じゃろうの」

「『一ノ門イチノモン大社』か……妥当だろうが、風切たちは行きたく無いだろうな」

「ま、しょーがないじゃろ。さて、妾は食事でもして来るかの~」

そう言うと紅葉は盾岩の部屋を出て、食事の香りの方へと走っていった。




「………」

部屋に残された盾岩は一人呟く。

「お前の父であり、我が戦友、『刃紗羅バサラ様』の遺した物……それを軽々しく渡す訳も無い……か。紅葉はあの男に、何を感じたのだろうな……?」

盾岩は一人、考えを巡らしていた。





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