神様の仰せのままに

幽零

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御前試合編

7話

翌朝、仄が起こしにきた。

「おはようございますー。そろそろ出立の時刻ですのでー、ご準備くださいー」

「………あぁ」

くしゃりと髪の毛をかき上げると、封神剣を持って立ち上がる。

「というかなんでお前が来たんだ?」

「あー、それはですねー。最初は紅葉様が起こしにいくと言っていたのですがー、盾岩様と話し込んでいましてー。誰か起こしにいくように頼まれたのですがー、他の神守の方々みんな谷透さんの事怖がってましてー、押し付けられちゃいましたー」

ナハハァと頭に手を置きながら話す仄。

「………お前は、俺が怖くないのか?」

フードの付いたいつもの服を着ながら、谷透は仄に問う。

「う~ん、私は別に怖くはないですねー。ちゃんと聞いたら答えてくれますしー。それにー……」

仄は谷透の目を見る。

「なんとなーく私の兄に似ているんですよー」

「……兄弟がいたのか」

「えぇー、まぁ家族は私以外死んじゃいましたけどねー」

「……は?」

谷透は珍しく驚く。

「……お前、なんでそんなに明るく振る舞ってられる……」

「ん~、私の家族はですねー、穢れに飲まれてしまった神様に殺されてしまったんですよねー。それでも私だけはなんとか生き残りましてー、私みたいな人を増やさないようにって感じましてねー。正直落ち込んでいる時間はなかったですねー」

「………」

のほほんと話す仄を見て、谷透は視線を落とす。



……こいつは、強いな。家族を殺されたにも関わらず、恨みも持たず、自分と同じ境遇の人間を少しでも減らすために行動していたのか。対して俺はどうだ?妖刀狩りと妖を憎み、全てを敵だと決めつけ、見境もなく殺して回っていた。そこに少しでも、何かを想う気持ちはあったか?



「………」

「あ、そうそう、一ノ門大社のご飯は美味しいらしいですよー」

「……そうか」

谷透はフードで表情を隠しながら答える。

(……こいつにとって俺は、こうなるかも知れなかった姿かもな……)

谷透はフッと軽く笑うと、話し始める。

「おい、出立の時間が近いんだろう?なら悠長に喋ってる時間はねぇはずだ。……とっとと行くぞ…

仄は名前を呼ばれ、ぴくんっと表情をこわばらせた後、にへへぇ…と顔を緩ました。

「はいー、谷透さんー」





「遅いぞ野蛮人」

「テメェは来なくても良いんだぜ?優等生」

仄に連れられて外に出ると、既に谷透以外のメンツは揃っていた。

盾岩が結と名乗った少女に向かって話す。

「我が同行できぬのは不安だが、一ノ門大社への遠征、宜しく頼む」

「えぇ、わかりました盾岩様」

「大丈夫じゃ盾岩!ここの神守の顔と妾が認めた穢祓いがおるのじゃ!それに妾もいる!」

「私もですねー」

影からヒョイッと顔を出す仄。

「そうじゃな!仄もおる!何を心配することがあろう!」

無い胸を張る紅葉を見て、盾岩はため息がてら答えた。

「紅葉、ぬしが全盛ならば心配は要らなかっただろう。だが、今はそうではない。くれぐれも、油断はするなよ」

「わかっておるわ!では皆の衆、出立じゃー!」









「………でっけぇ……」

大社というぐらいなのだから大きくて当然だろうが、それでもかなり大きい。三ツ谷神社の5倍はあるだろうか?

社をくぐると、やはり神たちがうじゃうじゃと見え始める。

「………鬱陶しいな」

「シューヤよ。いい加減慣れろ。それしか無いじゃろ」

「……わぁってるよガキ」


山1つを切り開いて作ったような広さを持つ一ノ門大社に到着した彼らは、結の指示にしたがって、御堂まで歩く。

「私と紅葉様はここで会議を行います。風切さん達は敷地内であれば移動してもらっていて構いませんので、しばらくご自由にお過ごし下さい」

「わかりました神主」

そう答えた風切は表情を暗くして続ける。

「……あの、

風切の言葉の意味を察したのか、結も苦い表情をして答えた。

「大丈夫よ」

「結、行くとするかの」

紅葉に連れられて結は御堂の中に入っていった。


残された風切に谷透は尋ねる。

「なぁ優等生。何に気をつけるんだよ。ここは神社内だぞ?穢れた神ってのは神社の中でも出るのか?」

谷透の質問にあからさまに嫌な顔をしながら、風切は答える。

「……貴様に説明するのは癪だが、1度だけ言ってやる。気を付けるのは

「はぁ?」


谷透が意味不明といった顔をしていると、後ろから穏やかな声が聞こえてくる。

「それについては私からご説明しましょう」

谷透達が振り返ると、そこには糸目で紺色の和服を来た柔和な表情の男性がいた。

「あ、破狩ハカリさん!」

風切はその男を破狩と呼んだ。

「どうも、お久しぶりです。風切くん。そして、仄さん」

礼儀正しくお辞儀をする破狩は、谷透の方を見て続ける。

「初めましての方ですね。私は二ヶ宮フタガミヤ神社の神守、破狩と言います。どうぞお見知り置きを」

「……あぁ」

谷透が答えたことに対し、何故か嬉しそうな仄。

「宜しければ、貴方のお名前をお聞きしたいのですが」

「………谷透だ」

「谷透さん。よろしくお願いします。そして、先程の事をご説明させて頂きます」

破狩は一礼して続ける。

「穢れに飲まれた神と戦う神社は3つあります。今私たちのいる『一ノ門大社』、私の仕えている『二ヶ宮神社』、そして風切くん達のいる『三ツ谷神社』です。この3つは長らく穢れた神との戦いに応じて来ました。この3つの神社を中心に各地で穢れた神と戦っています。そしてこの3つには序列があるのです。神社の指示などはこの序列が大いに関係しています」

破狩は続ける。

「一ノ門はほぼ全ての命令権を有しています。つまり重鎮のような扱いです。ついで私の仕える二ヶ宮がその後に存在し……風切くん達のいらっしゃる三ツ谷が……」

「……最下位……って訳か」

「……その通りです」

破狩は表情を渋くして答える。

「ですので、三ツ谷神社の現神主……結さんは…軽んじられる事が多いんです」

(………なるほどな)

谷透は一ノ門大社という単語が出てきた時、なぜ風切と結の表情が曇ったかを察した。

「……神主は、幼くしてご両親を亡くしている……まだ年端も行かないと言うのに、跡継ぎだ何だと神主の役目を全うしようとしている」

「……出来れば、私も三ツ谷神社に仕えたかった」

「……?破狩さんよ。そんなんこっちに移動すればいいんじゃねぇの?」

谷透の言葉に苦笑いしながら、破狩は答える。

「残念ですが、そう単純なものでは無いのです。神社への配属は生まれや家系、血筋などが強く影響します。その配属もこの一ノ門の一存で決まります。……その決定に逆らう事はできないのですよ」

(……だから少しだけ、貴方が羨ましい)

微笑みながら心の中で本音を吐く破狩。

「……なぁ、アンタはこの優等生サマとどんな関係なんだ?」

そんな破狩に谷透は尋ねた。

「バッ……!すみません破狩さん!何せまだろくに神社の事情も知らぬ野蛮人なものでして!」

「ハハッ構いませんよ。そうですね、私は風切くんの剣の師匠……と言うべきでしょうか?」

「……言い切って下さい、破狩さん。私の師匠は貴方だけです」

暗い表情をする風切を見て、谷透は近くでたんぽぽを鑑賞していた仄に話しかける。

「おい、仄。なんでアイツは暗い顔してんだ?」

「あぁ、はいー。実はですねー、三ツ谷の風切さんが二ヶ宮の破狩さんに教わってる事をよく思わない方々がいましてー。当時無理やり引き剥がされたと聞きましたー」

「……そういう事か…ありがとよ。仄」

谷透は目線から随分と下にある仄の頭に手を置く。

「いいえー」

仄は、にへぇと表情を緩ませた。そんな事は露知らず、谷透は思考を回す。


(『一ノ門』に『二ヶ宮』…んで、『三ツ谷』か……それに互いの軋轢と差別に近い上下関係……一ノ門の権力が大きくなりすぎてんのか?……何にせ、一枚岩って訳じゃあ無さそうだな)


谷透は無意識の内に、首元で揺れている石を触っていた。

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