神様の仰せのままに

幽零

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御前試合編

9話

三ツ谷の面々は、一ノ門大社に泊まる事になったのだが、ただでさえ広い一ノ門のその端にある離れを部屋としてあてがわれた。


……その部屋の一室で、紅葉は子供のようにジタバタしていた。

「全くアツルギとソウジョーの奴らめぇぇぇっ!!父上と盾岩がいないからって好き勝手言いおってぇぇぇ!!」

「く、紅葉様……はしたのうございます」

結がなだめるが、紅葉はムスーっと頬を膨らましたままだった。

「三ツ谷神社を舐めおってからにぃ、おいシューヤ!御前試合とやらは1週間後だったな!ボコボコにしてやれ!」

「……五月蝿ぇぞガキ」

「しかしー、また随分遠い所をあてがわれましたねー。ここに来るのも一苦労ですー」

「貴様また紅葉様をガキと……」


三ツ谷の面々はいつも通りのようだ。そこへ戸を叩く音が響いた。

「……?こんな時分に誰でしょうか?」

風切が不審がって扉越しに声を飛ばす。

「………何者ですか?」

すると扉の外からは何やら軽い調子の声が聞こえてきた。

「怪しいものじゃねぇんで。あっしゃ四方ヨモっつー六武衆なんでさァ。三ツ谷の谷透っつー男に用事があって来たんで。とりあえず開けてくれねぇですかね」

「は、はぁ…」

風切が扉を開けると、そこには栗色の髪をした男がたっていた。

「三ツ谷の神守の風切です。えっと、四方さん…でしたね。六武衆ともあろう方がなんの御用で?」

「あぁ、あっしゃが用がある訳じゃねぇんです。とりあえず上がってちまっていいですかね?」

「あ、あぁどうぞ」

居間の扉を開けると、四方がトットコ谷透達に近づいて行く。

「む?そなたは誰じゃ?」

「あっしゃ六武衆の四方っつーもんです。んでー谷透っつぅ男はどちらに?」

名前を出されて、フードを被りながら壁に寄っかかっていた谷透は答える。

「……俺だが」

「あぁ、アンタが谷透ですか」

含みを込めたような言葉に谷透は怪訝になる。

「……なんだ?あのブタを殴った仕返しにでも来たか?六武衆って名乗ってたが?」

谷透の言葉に、少しだけ頬を上げる四方。

「その事について話すんですわ。そんな遠いとこいないでこっちに来て欲しいんですがね。あぁ紅葉様以外は申し訳ねぇんですが、席を外してくれるとありがてぇですね」

「わ、わかりました」

結達は素直に部屋から出ていく。

「………」


谷透は四方の正面に座る。

「……で?何の用だ」

「あぁ、まず富太様を殴った件でさァ……」

そこまで言うと、四方は頭を下げた。

「いやぁ~お見事ッ!人づてに聞いただけでしたが、あっしゃスッキリしましたわ!谷透…いいや、旦那、よくまぁあのブタを殴り飛ばしてくれやしたね」

やたらうきうき話す四方。ポカンとする谷透。

「実の所、あっしゃらは六武衆として一ノ門大社に仕えてやすがね。あのブタは役にも立たねぇお荷物なんですわ、ただ親が親だけに誰も逆らえはしねぇんです。まぁ白獅子様は一ノ門にも意見できるんですが、そんな事はしねぇお人なんですわ」

四方は人差し指を立てながら続ける。

「あっしゃが殴っちまうと、白獅子様に迷惑かけちまうんですわ。つまり旦那。旦那ァやりたくても誰にも出来なった事やってのけたんですわ。ありがとうございます」

なんかお礼を言われて、若干アレ?となっている谷透に、四方は続ける。

「んで、旦那。悪ぃ知らせがあるんですわ」

四方は先程とは全く異なる低い声で話す。

「旦那は1週間後に『御前試合』があると思うんですが、その相手、今回の件であっしゃら六武衆になっちまったんですわ」

「……なるほどな」

大方、あのブタが親にでも言いつけたのだろう。それで一ノ門の最高戦力である六武衆をぶつけに来たと。

「……んで、ここからが本題なんですわ旦那。ちょいとばかしあっしゃに着いてきて貰いてぇんですわ」



四方について行くと、離れを出て少し歩いた場所に出る。一ノ門大社の敷地内だろうが、人気は無い。



………そこに



月光を浴びながら、1人の男が立っていた。白く輝く、将校のような格好の男、髪は銀色で、片目を隠すほど伸びていた。顔には下半分に鬼の面を付けており、わかるのは片目だけ。その目だけでも理解出来るのは、途方もなくこの男は強いと言う事だ。


「御方が六武衆真の筆頭にして最強の神守…」

四方は続ける。


「白獅子様でさぁ」

白獅子はゆったりと谷透に近づいて来る。そして目の前で止まると、透き通るような声が響いた。

「……貴方が、封神剣の使い手…ですか」

「……あぁ」

「なるほど………」

白獅子はじっと谷透を見つめると、ふっと表情を和らげ、言葉を紡いだ。

「『穢祓い』、私と一手手合わせして頂きたいのですが、宜しいですか?」

「あ?まぁ、構わねぇよ」

「おい、大丈夫かシューヤ。妾も直接見るのは初めてだが、コヤツは一ノ門の中でも最強なんじゃぞ」

「まぁ、一手だ。大丈夫だろうよ」

紅葉に適当に答えると、封神剣を手に白獅子へと向かう。




お互い、1歩で剣が届く位置に立つ。

「……合図は?」

「四方」

「へぇ」

四方は袖から丸石を取り出し、高く投げる。

「あれにしましょう」

「…はいよ」






……白獅子の刀は腰にある。俺は霊体化して刀を躱す。んで、反撃。まぁ寸止めでも良いだろ。


石が落ちて来るのを察し、谷透は封神剣を握る手に力を入れる。



カシャリ、と地面に石が落ちた音と同時に谷透が仕掛ける。




…………突風が吹いた。体が硬直した。



谷透の頬の横に、抜かれた刀があった。




「…………は?」



首を動かさず、目だけで頬の横に突き出た刀を見る。その後白獅子を見た。向こうは刀を持った手を、ただ突き出したような体勢だ。


谷透はその場から動けない。そして、頬から何かが垂れる感触が伝わる。生暖かい。


……血だ。



(待て、?)

谷透は合図が始まる直前に霊体化をしていた。にも関わらず、頬は斬られている。


答えは、1つだけだ。


(速すぎて、霊体化が間に合わなかった……ッ!?)


目の前の男、白獅子の刀が目で追えないほど速く、その上正確に頬を掠めた。恐らくわざとだろう。霊体化が間に合わないほどの剣速ならば、谷透の首を落とす事などきっと容易い。

白獅子は刀を下ろす。途端にフッと緊張が和らぎ、体に自由が戻ってきたように感じた。

白獅子は納刀すると、谷透に近寄り、白い無地のハンカチを手渡す。谷透はそれを受け取ると、頬の血を拭いながら問う。

「……なぁ、おま……いや、白獅子さんよ。あの技はなんだ?」

「……?あの技…とは?」

「いや、アンタ…貴方が俺に初手で放ったあの技だよ」

「………あぁ、あれですか」

白獅子は目を細めると話す。

「あれは技でもなんでもありませんよ。

「……はぁ~…完敗だ……」

谷透は空を仰いで額に手を添える。

「貴方は強い。ですが六武衆は少なくとも貴方よりは強い。あと1週間後には御前試合なのでしょう?」

「あぁ…俺があのブタ殴っちまってアンタら六武衆を相手にしなくちゃ行けなくなった見てぇだが」

「貴方は異能力者ですね。『霊体化』、やりようによってはとても強力な能力ですね」

谷透は固まる。彼の口からは白獅子にまだ一言も

白獅子から距離を取り、紅葉に尋ねる。

「おいガキ…お前、白獅子さんに言ったか?」

「いや、妾は何も言っとらんぞ?」

会話が聞こえたのか、白獅子が話す。

「あぁ、私は少し人と違いましてね。事で相手の事がわかるんですよ」

「……貴方にはどうやっても勝てそうにないな」

谷透は敬語で白獅子に話した。

「1つ、助言を致します。貴方はその異能力の高い有用性に頼りすぎている。純粋な剣技を磨くと良いでしょう」

「……言う通りにしてみますよ」

素直になりつつある谷透に微笑むような声で白獅子は答えた。


「それがよろしいかと」



月明かりは2人を照らす。それは何か特別な関係を浮かべているようにも見えた。





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