神様の仰せのままに

幽零

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御前試合編

16話

御影が会場から降りた後、次に上がってきたのはまぁ当然と言えば当然なのだが…

「……アンタか」

「え、えぇ…そうです」

白く無垢な雰囲気の女性、弟である御影と歪んだ関係の真陽である。

「………」

真陽はどこかおどおどした挙動で手を前に出す。

「アンタよ……弟に対して、罪悪感だのなんだのあると思うんだがよ」

谷透はビクリと震える真陽を無視して続ける。

「……多分、気にしすぎだと思うぜ?」

「………は…い?」

真陽は何か術を構築しようとしていようだが、それを中断して手を下ろしてしまった。

「アイツ…御影は、これっぽっちもアンタを恨んでないと思うって話だ」

「なっ……いや、あ、あなたに何がわかるんですかっ!」

「わかるさ」

谷透は封神剣を前に突き出して即答する。

「……昔な、恨み怨みに囚われて、道を踏み外した男がいたんだよ」

谷透はその場から動かなかったが、その言葉は刃物のように鋭く真陽の耳に届く。

「家族を殺され、だが何をするべきかわからず……ハッ、確かにな……のように手当たり次第人も妖も殺していった男がな」

真陽は今が御前試合という事を忘れて、聞き入っているようだった。

「………だが、御影の目はそんな奴の目じゃない。多分今でもアンタを守ろうとしてるんだろうぜ」

谷透は若干「喋りすぎたか」とバツの悪い顔をしながら、最後の言葉を真陽にぶつける。

「………変わるべきなのは、アンタの方じゃあないか?」

「………ッッ!!」


ストン……と、何か、何か無色で透明な何かが、体の中の芯に入った感覚だった。


「で、でも…私はあの子があんなことをした元凶で…」

「だからどうした……って言ってもまぁ効果はねぇだろうな。ま、安心しろよ」

谷透は自分を指差す。

「ここには妖刀使いと妖を何人も殺し回った男がいるんだぜ?」

谷透は獰猛に笑う。

「………ふふっ…そうですか……」

真陽はくるりと後を向き、谷透から離れる。

「ふふっ…ふふふっ……吹っ切れる原因って、案外こういう感じなのかも知れませんね?」

首だけで振り返った真陽は最初の真陽とは明らかに変わっていた。


……気配も、表情も。


「なんだか戦う気が失せてしまいました。私は負けたことにしますね?」

ピョンと会場から降りる真陽。その姿を見て一ノ門神主は険しい表情を、富太は声を荒げて叫んだ。

「おいっ!女ァァァッッ!!てめっテメェ六武衆だろうが!に泥を塗るんじゃねぇッッ!!」

富太が真陽を指差すと、側に控えていた神守が真陽へと向かう。しかし……

「ふふふっ……」

真陽は腕を前に出し、ものすごい速度で呪文を唱えると、地面から無数の穴が出現し人の腕のようなものが這い出て神守の一人を拘束する。神守は悲鳴をあげ、その様子を見た他の神守は歩みを止める。

「その方のようになりたくないのでしたら、素直に道を開けるのが賢明ですよ?ふふふっ……」

ズザザザアッッ!と我先に道を開ける神守達、その真ん中を堂々歩く真陽の姿を見て、谷透は冷や汗をかいていた。

(なんかやべー奴覚醒させちゃった感じか……?てかあれどんな術だよ…)



真陽は堂々歩いて富太の前を通り過ぎる。すれ違いざまに真陽は富太に言葉を落とす。

「六武衆を自分の組織だとお思いのようですが、それでしたら随分頭の弱い事ですね……ふふふっ」

真陽は片手を口元に当てて上品に笑っているが、氷のように冷たい殺気を放っている。富太は何も言えず、ただ目を逸らし続けていた。




途中で御影が木に寄っかかっていたので声をかけた。

「御影…私もう大丈夫だから。また、私のことを守ってくれる?」

「僕は最初からずっとそう言っているんですが?」

「ふふっ…そうだったね」

「………」

笑顔の真陽を見て、御影は問いかける。

「姉さん。ずっと笑っていますが。谷透って奴のことが気に入ったんですか?」

御影の言葉に振り向き、真陽は答える。

「……ふふふふっ……えぇ、とぉっても……ふふふっ……」

その眼は、悍ましいほど闇を含んでいるように感じた。

(これは……姉さんが元に戻ったんですが……なんか悪化しているように感じるんですが?)

御影は微笑む姉から漏れた言葉を聞いて…聞き間違いだと首を振った。









ぜぇったい逃しませんからね?ふふふっっ……








「……ッッ!?!?」

なんかゾワっとしたものを感じた谷透は周囲を観察する。しかし、それらしい原因はわからなかった。気を取り直して封神剣を構えると、谷透は思考を回す。

(なんだかんだ言って最後まで来ちまったなぁオイ。………正直、勝てる気がしねぇが…)

「おや?随分と考え込んでいますね?」

気がつくとそこには白く美しい軍服を纏った、一人の男が立っていた。

「やっぱ貴方が最後か、白獅子さん」

「えぇ……」

顔の下半分に鬼の面をつけていて、髪も片目を隠す程度に長いため表情がわかり辛いが、それでもその声はどこまでも慈悲を含んでいた。


「それじゃーそろそろ、最後の試合、始め………」


っと谷透が言いかけた時だった。




呆れるほど広い一ノ門神社が、揺れた。



「………ッッ!?」

連続してズドォォン……という鈍い音が鳴り響き、その都度地面が揺れる。


「襲撃です!神社周辺に6体の穢れた神の気配ですっ!」

一ノ門神主の近くにいた巫女が叫ぶ。すると一ノ門の神主は巫女の言葉に続くように喇叭のような声を上げた。

「『御前試合』は直ちに中止ッッ!!白獅子を中心に六武衆は格穢れた神に付けッッ!!二ヶ宮、三ツ谷の神守は富太の援護ッッ!一ノ門神守達を直ちにこの場に召集!序列上位の神守は六武衆に付け!神様方に穢れた神の指一本触れさせるなッッ!!」


怒涛の指示を受け、一斉に神守達が動き始める。



「六武衆ッ!」

白獅子がそう叫ぶと、富太以外が一斉に白獅子の近くに現れる。

「真陽、場所は?」

「取り囲むように6体います」

「ここまで統率が取れているのも不思議ですが」

「ま、あっしゃらはいつも通りやるって感じで」

「んにぃ~結構大規模だねぇい」

「では一人一体、富太様の邪魔はしないように」


白獅子の一言で六武衆は各方面に散った。白獅子は自分の相手に向かう最中、ふと心に違和感を覚える。

(なぜ6体?まるで我々六武衆全員が集まっていることを予測しているようだ……)




「なんか大変なことになっちゃったですねー」

「呑気な事言っている場合か仄ッ!」

「あ、あのッッ!」

「ん?貴方は確か二ヶ宮の……あれ、破狩さんは?」

「あぁ、富太様の護衛に呼ばれてしまったようで…破狩さんが居ませんのであなたもこちらへ来てください!」

「わかりました…!!」

風切は二ヶ宮の神守達と六武衆の補助をするべく穢れた神の方へと向かっていった。





谷透はどこに行けば良いかわからず、とりあえずここに居る事にした。

「………」

一ノ門神主に視線をやる。

(あの爺さんやっぱすげーんだな……一ノ門神主は伊達じゃないって事か…)

見渡すと、一ノ門、ニヶ宮の神と神主もいた。ってことは……

「あぁ、やっぱりか」

谷透は残っている結と仄、そして紅葉の方へと近づく。

「ってあれ、仄は神守じゃないのか?」

「あー私は戦闘の技術ではなく守る方が得意ですのでー、緊急時はこうやって前線ではなく後ろに控えるんですー」

「へぇ、そうなのか」

「まーでもここまで神様たちも来られないと思いますけどねー。なんてったって六武衆の方が全員いるんですからー」

「……それもそうか」



なんとなく残ってしまったが、まぁきっと暇になるんだろうな。穢れた神もちょうど6体って話だし……




…………待て、何かが引っ掛かる。今俺はなんて言った?




6?六武衆が全員出れる数、偶然?出来すぎて無いか?そもそも何故あんな知性の無い神が6体も同時にここを襲えた?なんだ……何かおかしい……




途端、ねばっこい女性の声が、背後から響いた。


「アラァン?結構残っちゃってるじゃないのぉ~。んもぅ、面倒ねぇ?」

振り返るとそこには豊満な肉体を最低限の布切れで隠したような女性が、槍を持って立っていた。

全身で感じ取った。





これは恐怖だ。





一拍置いて、集まっていた一ノ門の神守達が向かっていく……が……


瞬殺。


速すぎて殺害の過程が飛んでると感じるほどに、瞬殺だった。

「アラァン…ねぇ~、一ノ門て一番強いんじゃ無いのぉ~?よわっちぃの倒してもつまんないわよぉ~」

数人の神守の死体を作ってどこかゲーム感覚のこの女。今まで出会ってきた中で、格が…いや、



震える手を握り、封神剣を携えて一歩前に。

「あらぁ~?次は貴方なの~?」

粘っこい声が不快だが、構わず前へ。

「ふぅ~ん…」

女は谷透を舐めるように見ると、にまりと笑う。

「坊や強そうねぇ?ね、あたしと交わらない?」

「魅力的なお誘いだな。吐き気を催す」

封神剣を前に突き出し、否と答える谷透。

「あら~ざぁんねん」

「お前…他の穢れた神と違うな…ナニモンだ?」

谷透の言葉に女はニヤァっと笑って答える。

「う~ん、坊や可愛いから答えてあげるわぁ~。アタシはねぇ、『シキヨ』っていうのよ~」

どうやらこの神はシキヨというらしい。

「なんで穢れてんのに普通に会話できてんだ?他のはもっと理性がない感じだったぞ」

「そこがアタシと他の奴らとの違いよぉ~。アタシはね、穢れに飲まれたけどぉ~、こっちが飲み込んだのヨォ~」

「バカな…今までそんな奴はおらんかったぞ…」

シキヨの言葉に紅葉が反応する。それが嬉しかったのかシキヨは笑って続けた。

「可愛いお嬢さんに免じてもう一個教えてあげるぅ。穢れっていうのはねぇ?とぉってものよ~」

「ハッ…快感に負けた神ダァ?笑わせんな」

「そうねぇ…穢れることはトッッッッテモ気持ちいいから正気を保つのも難しいのよ~。それで壊れちゃったのが貴方達も知ってる穢れた神。でも私は違うわぁ~?この通り、穢れる快感にも負けずにぃ~、正気を保ててるのぉ~。普通の神だった頃がばかばかしいわぁ~」

「あーそうかよ。じゃあ悪いが祓うぞ。俺は『穢祓い』なんでね」

「アラァ~楽しいおしゃべりはもうおしまい?じゃ~あ~、楽しかったからお礼にぃ~…」

シキヨはここまで言うと、瞬間移動のように谷透の前に移動した。人差し指を弾くような動作でコツンと谷透の額に触れると、谷透は新幹線と激突したように猛烈に弾かれ壁に激突した。


「手加減してあげるわぁ~?」


壁にめり込んだ谷透は、すでに意識がないようだった。その様子を見たシキヨは妖艶に笑った。




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