神様の仰せのままに

幽零

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穢れし過去編

58話

四方形に広がる地下では、おおよそ人類同士とは思えない激突が広がっていた。

黒銀の剣槍を振るう逢闇は、あらゆるを砕きながら進み。

七剣八刀を使う悠斬は、悉くを武器にしながら応える。



悠斬の『七剣八刀』にかかれば、投げる石も振るう枝も全てが武器になる。逢闇はそれらを全て砕く。



悠斬は腰に巻きつけた刀を抜き、逢闇に仕掛けた。



(俺の異能力を最大出力まで引き上げるッッ!)



ありとあらゆる物体を武器にすることができる『七剣八刀』だが、その対象が元々武器ならば、その性能はさらに引き上げられる。



「……成程。決死の一撃という訳か…」



悠斬は、手頃な石を投げつける。逢闇がそれを剣槍で弾いたと同時に仕掛けた。


「……この隙に仕掛けるとは、賢明とは言えないな」

「どうだかなッ!!」



悠斬は、抜刀術の姿勢で居合いを放つ。悠斬の狙いは初撃の刀ではなく、押さえた鞘の方だった。悠斬は両手で同時に異能力を使い、そのどちらもに異能を付与していた。


予想通り、刀による居合いは逢闇によって簡単に弾かれた。


(読み通り、だが、俺の狙いはその隙だッ!!)


腰につけた鞘を、逆手持ちの状態で振りかざす。そして……



















「………ッッ…」

「……残念だ。鳴神の天才よ」

ひゅんひゅんと音を立てて飛んでいた、が、地面に落ちる。


ブシッと、思い出したかのように、切断された左腕から血が吹き出す。


「……ッッッ!!!」


後から襲いかかってくる強烈な痛みに意識が飛びそうになるが、舌を噛んでなんとか繋ぎ止める。


(……有り得ねぇ反射速度……異能力か?そもそもこっちは異能力の出力を最大まであげてんだぞ!?あの剣槍どんだけ頑丈なんだ…ッ!!)


「……不思議そうな顔をしているな。苦痛に歪んではいるが。大方、この獲物の正体について察しあぐねていたのだろう」

逢闇は剣槍を肩に乗せ、語り始めた。


「『魔淵』とは、業だ。言葉に出来ぬ極悪非道など平然と行われる。そんな中だ……」


とある『魔淵』が考える。


さて殺し合いをさせて、強者を振るいにかけたが、掃いて捨てるほどあるこの死体遺体はどうしよう…と。


別の『魔淵』が思いつく。

ならば、人の身を最大限に利用しよう。武器に武具に、しからば幾らでもやりようはある。



そんな中産まれた突飛もない発想の1つ。人体を使って最も頑強な武器を造ってみよう。


人体を溶かし、重ね、鍛え、また溶かし、また重ね、また鍛える。


そうして産まれた、頑丈で頑強な武器。




「………ま、さか…」

「察したか鳴神。左様、これは『魔淵』であり、『魔淵』であろうとした者達の成れの果てだ」



『魔淵』の人間を使った、剣槍。



悍ましい程の狂気と、禁忌的な技術の結晶。


「……俺がこれを使っている理由は1つだ。別に大した理由ではない。本気を出しても壊れない武器。それがこれだった…と言う訳だ」


剣槍の矛先を鳴神に向け、逢闇は続ける。


「もう一振、刀があったようだが…それは別の『魔淵』の手に渡っている。まぁ、そんな話はどうでも良いが……」

「この外道がァァァァァッッッ!」

「……ッ!」

会話を遮るほどの勢いで猛進する悠斬。鞘も無く、刀も無い。残った右手で掴んでいたのは……



ここに来て、初めて逢闇に一撃らしい一撃が入る。


誰が思いつくだろうか?まさか、


逢闇は、密着した悠斬を剣槍の持ち手で殴打し引き剥がすと、胸元を掴んで何度も殴りつける。


悠斬は膝をつき、地べたを舐める。


「………ッッッ!!」

「……まさか自分の腕を武器にするとは…そんな事をすれば、二度と縫合は出来んぞ?」

「……構うか…クソッたれ…」


逢闇は突き刺さった悠斬の左腕を引き抜くと、剣槍を振り上げる。


「……今際の際だ。残す言葉は」

「尽く死ね」

「…………」



逢闇が振り上げた剣槍を悠斬に振り下ろそうとした直前、寸前でビタりとその矛先が止まる。


逢闇が振り返ると、そこには大勢の神守が隊列を組んで、こちらに飛び道具を構えていた。その一番奥に。



「なるほど、とか言うやつに聞いた通りだ!貴様が父上の切り札か!?ならば殺す!!そして、そこに寝転がっている鳴神の野郎も殺す!!一ノ門に逆らった事を地獄で後悔すると良い!!」



逢闇は、悠斬から目を逸らし、一ノ門次男の方へと向き直る。

自分でも分かる。これは怒りだと。


そして察する。常陰が自分を切り捨てたのだと


「………邪魔をするなと言った筈だぞ…ッ!?常陰ェェェェェッッ!!!!」


鬼の様な怒号は空間そのものを揺らすような猛々しさがあった。



髑髏面の兜の奥は、煮え滾るほどの殺意が溢れていた。



「お、おい…大丈夫だよな?」

「相手はだぞ?」

「それにこの人数だ、勝てっこねぇよ」



「…………」


逢闇は悠斬の方を見ると、言葉を紡ぐ。


「……休戦だ、鳴神。俺以外に殺されるなよ」

悠斬は無い左腕の断面を抑えながら頷く。



「撃てーッ!」


一斉射撃、普通ならば即死だ。




『魔淵』の中でも人殺しの天才と呼ばれる男がいた。


前述した通り、『魔淵』は様々な血が混ざっている為、異能力も様々なものがあった。

そんな中、何がどうしてこうなったのか全く分からない異能力を持った男が産まれる。


『魔淵』の混沌とした血が何らかの創発を起こしたのか、それとも彼個人の天賦の才か。



男……逢闇に授かった異能力。彼を「悪鬼」たらしめた、その根源たる由来。魔淵の者達はこう呼んだ。





「……異能力…『鏖殺オウサツ』……」







逢闇の身体は無数の弾丸に貫かれた。しかし、彼は立っている。傷を負って無い訳では無い。


再生しているのだ、負ったそばから。


「な、何だ!?ただの賊だろ!?」

「う、撃てッ!撃つんだ!」

「ヒィィィィッ!!」

全身に鉛の贈り物をされても、一歩ずつ着実に近付いて来る悪鬼。



「槍部隊ッ!貫けッ!」

号令で、逢闇は全身を貫かれる。


……だが、止まらない。その上、貫かれたままこちらに向かって来た。


最初の一撃で、前線は崩壊した。後は、彼の異能力の通りだ。



曰く、鏖殺みなごろし



異能力『鏖殺』


発動した瞬間、全身の痛覚が遮断され、擬似的な不死身状態となり、異能の対象と定めた個人もしくは集団が生命活動を停止するまで解除が不能になる。



………但し、無論リスクがある。



「………次男ヤツは…逃げた…か……」



『鏖殺』には有効範囲がある。一度異能対象になった人間でも、この有効範囲外に逃げてしまえば、異能力の対象から外れる事ができる。

『鏖殺』の有効範囲は決して狭くは無い。だが……


「……逃げ足の速い奴だ…」


『鏖殺』は対象者の生命活動が停止するまで効果が持続するが、対象者が有効範囲外に出てしまえば、その条件が解除される。

更には、異能力が解除された瞬間、異能力の発動中に受けた傷口が一斉に開く。この時、異能力は解除されている為、想像を絶する痛覚が全身を襲う。


「グガアァァァッ!!!」


故に、異能解除と同時に失血死してもおかしくないのである。



逢闇は全身から血が吹きでたのだろう、鎧の隙間などから血が垂れており、兜の口元からも溢れんばかりの血が吹き出ていた。


「……許さん……許さんぞ常陰……その首を切り落として脊椎を引きちぎってやる……」


致命傷を負い、更には致命的に失血しているにも関わらず、逢闇は全身を引きづりながら、三ツ谷の地下から外へと出ていく。


常陰を殺す為に。




「……俺も……早く……」



誰も居なくなった地下で、悠斬は今にも途切れそうな意識を繋ぎながら、懸命に立ち上がり、歩き始める。


逢闇の意識が逸れた今しか、逃げられるチャンスは無い。




「………ハッハハ…なぁ、破狩……お前は……今、何してるんだ……?」




その声は、地下の冷たい空気を僅かに揺らした。



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