神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

63話

城門を突き破らん勢いで、白獅子率いる神社勢力は穢神の蠢く一ノ門の大地を踏んだ。その後、一直線に突っ込んできた隊列は一気に分散する。一ノ門にいまだ取り残された神守や巫女を救出するためだ。

「………さて…」


谷透は大きく息を吸い込むと、獅子の如く叫ぶ。


「神守総大将 白獅子ッ!!ここに居るぞォォッ!」


その叫びが合図だったのか、矢印の如く猛進してきた神社軍は、散開する。





『はァっ!?ちょっと待てっ!総大将のお前が囮になるっ!?論外だ!』

『いや…風切さん…恐らくそれが最適解ですが』

『う~ん…確かに、アタシら六武衆は穢神を1人で相手できるけど、一ノ門にはうじゃうじゃいるんでしょ?たぶんそれら1人で相手できるのはたにとーだけだと思うにぃ~』

『一ノ門に取り残された神守と巫女の救出が最優先ですわ。穢神の軍勢相手に誰かが誘き寄せんと全滅も有り得ますわな』

『無数の穢神を単体で討伐出来るのは、神代遺物の解放者である谷透様しかいらっしゃらないのも事実ですしね』

『ま、そういう訳だ。安心しろ。簡単には殺られねぇさ』





叫び声を撒き餌に、穢神は谷透へと向かっていく。


「いいか神守ッ!君達は救出が優先だっ!決して穢神と単独で戦うな!我々六武衆に任せるんだ!」

「ふふっ…」

「……?なんですか御影さん」

「いいえ、結局は貴方も谷透さんと同じお人好しだと思いましてね」

「………」

御影に弄られて、若干不機嫌になりつつ、風切はめぼしい場所へと移動していく。

「……流石は、鳴神家最後の跡継ぎです」

御影は、布で巻かれた棒のようなものを背負いながら、真陽に話しかける。

「さて、行きましょうか姉さん。僕らもやるべき事がありますが」

「えぇ。……御影?その布で巻かれた物は?」

真陽には見覚えが無いのか、不思議そうに御影の持つそれを指さす。

「あぁ…これですか…これは…」

御影は死神のような顔をいっそう暗く曇らせて続ける。


「…敢えて言うなら、過去の産物ですか」





天守閣から見下ろすゼシは谷透の行動を眺めていた。

「……ほぉ、総大将自らが囮…ねぇ?だがまぁ、アイツらの最高戦力が足止め喰らってるようなモンだしな。なるべく引き留めてやるか……」

天守閣の一番上、かつての神社の象徴白獅子の肉体で、ゼシは不敵に笑う。


「テメェに出来るか?俺の野望を止めることが?」








「おりゃーーー」

間の抜けた花車の声で、城壁がぶち破られる。体格もさる事ながら、それに負けない大斧でもって障害を粉砕しながら突き進んでいた。

「ん~、中々巫女も神守もいないなぁ~…ん?」

花車が目を凝らすと、幼女の影のようなものが見えた。

「お~い、ちっこいの。危ないぞ~……」

「んー?おわ、おっきい!?」

身長は1メートルもない程の幼さ。ぴょこぴょこ跳ねるその姿は一見可愛らしい。

「ん~?なんでこんな…所に…」

言って、花車は異常さに気がつく。ここは一ノ門大社だ。

己の直感に従い、バッと大斧を構える花車。対して幼女はポカンとした表情で首を傾げる。

「大きい人、何してるの?」

「……演技するな。それに良く見たら、

まるで虎のような目つきで殺気を放つ花車を、相変わらずポカンと眺める幼女。

「シクウの事です?シクウはシクウなの!」

ぴょんぴょん跳ねるシクウは、本当にただの幼女にしか見えない。

(……なんだろ…この変な感じ…ピリピリしてるのに…ふわふわしてる)

「うむー…中々仲良しになってくれないの。あ!はかりゅ…はくぁり……破狩が言ってたの!仲良くなるにはゴハン一緒に食べるのが良いって!」

シクウが短い両手を名一杯上げると、シクウの周りの空間に突如として穴が開き、そこから龍の首のようなものが複数飛び出してきた。龍の首は顔が獅子とも虎ともつかないような、獰猛な顔をしている。

「大きい人!一緒に食べるのー」

恐らくシクウが操っているであろうその首の一つが、花車の前にべちゃりと口にくわえた何かを落としていく……


(なんだろ………ッッ!?)


花車の目の前に落ちてきたそれは、まるで猛獣に貪られたような痕のある神守と巫女の死体だった。

「シクウね、どれだけ食べてもお腹いっぱいにならないのー」

目の前の幼女は、かくも無邪気に笑う。

「大きい人と一緒に食べたらお腹いっぱいになるかもなのー!」

シクウの側に控えていた龍の首が、突然シクウの後ろにある山に喰らい付いた。

「う~ん…ちょっと数も減ってきたのー」

「お…い……」

花車の並外れた動体視力で捉えたそれは…



喰い漁られた、人間の山だった。



「……ごめんにぃ…ちょっと本気出す」

花車が物凄い殺気を放ちながら大斧を構えると、シクウは悲しそうな顔をする。

「シクウと一緒に食べてくれないの………?じゃあ大きい人、あなたを食べてあげるの!」


四堕神シクウは、かくも無邪気に花車へと襲いかかる。









「姉さん…」

「えぇ、御影…」


「あぁ?あぁ、ようやくちょっとは骨のありそうな奴らが来たな……おん?おい男、良い刀持ってるな…俺によこせよ…俺にぃ…俺にぃぃぃぃッッ!!!」

(穢神……?だが、意思疎通ができている……まさかシキヨと同じ上位個体……)

御影は異能力である透明化を使い、背後から穢神を突き刺す。


「ふぅ…警戒しすぎたでしょうか?」

御影が刀を下ろそうとした瞬間、刺し殺した筈の穢神が御影の足を掴んでぶん投げた。

「……ッッ!?」

「御影ッ!」

真陽の召喚した腕によって御影はなんとか着地する。


「……姉さん。アイツ、ちょっと厄介なんですが」

「わかってるわ…でも、何とかしないと」


「ふぅ…ダメだな、中々に捨てきれねぇ…まだかよ…」

穢神が何かを呟くと、御影たちへと視線を飛ばす。

「あぁ…渇く…渇くなぁ……お前らから奪って、潤わねぇとなぁッッ!?」

穢神は両腕を振り下ろすと、衝撃で地面が割れる。

「……チッ」

御影は浮き上がった真陽を受け止め、距離を取った。


「俺は…ヨゴウ……俺が…俺の……の、ために……俺のぉぉぉぉっっ!」


(中途半端に理性が残っている?いや、それともシキヨのように『穢れ』を克服できていない?。まぁ、どっちにしろ厄介ですが)

(中途半端というよりは、克服しきれていないって感じでしょうか。いずれにせよ、一撃で倒せそうもありませんね……)


ヨゴウが荒ぶる様を見て、姉弟は目を合わせる。


きっと、大丈夫だと。








「やはり……貴方ですか」

「……破狩さん…」

一ノ門の蔵などが配置されている広場で、破狩と風切が対面する。


「……ふふ、随分格好が変わられましたね。実に六武衆に相応しい風格です」

言われた風切は慣れてないのか、上がった前髪を気にしつつ、刀へ手を置いた。

「六武衆ですからね。模範と成らねばいけないですから」

「……君は昔から真面目でしたね」

「………」


風切は心を落ち着かせるように一度目を閉じると、破狩に尋ねる。

「何故…白獅子様を殺したのですか」

「それが最適だと考えたからです」

「……何故、穢神に与したのですか」

「それが最速だと判断したまでです」

「………そうですか。分りました」


風切は刀を抜いて構える。


「貴方は、六武衆でも、二ヶ宮の神守でもない……ただの裏切り者だ!」

「えぇ、それで結構です。私はただ一人の為に、貴方たちを裏切ったのですから」

変わらず、優しい声で呟く破狩。反対に風切は静かに怒る。



「……貴方は、ここで処す…処さなくてはならない。神社の害となるなら、容赦はしない」

「えぇ、結構。ですが、貴方に私が倒せるでしょうか?この『神代遺物』の解放者である私に!」




かつて、肩を並べた鳴神 悠斬と彼島 破狩。


そして今、彼の前に立ち塞がるのは、鳴神 風切。



かつての師と弟子は、こうして刃を交えて向かい合う。








「や~れやれっと…全く本当に旦那も無茶しないで欲しいですわ。まぁでも反対意見が殆ど出なかったのは流石旦那って所ですかね?」

四方はそそくさと通路を抜けて、天守閣へ通ずる門の下へと来ていた。そこで……

「………うっわ、最悪ですわ」

「……戦う前から、彼我の力の差を測れるものはそう多くない。其方は強者だな」


黒い帯のようなもので目を隠した、戦神のような風貌の神が瓦礫に腰掛けていた。傍には、巨岩を削ったような刀が置いてある。

「……一応聞いてみたいってなもんですが、アンタ何者?」

「此方か?此方はフヌゥム、其方達で言えば……」


フヌゥムは目にも止まらぬ速さで巨岩を削った刀を手に取り肩に乗せる。


「『穢神』に当たる者だ」

(……は?これが…穢神?嘘だろ……あっしゃはこんな強さの穢神見た事ねぇんですが…)


「……どうした?怖気付いたか?ならば見逃そう」

「はい?」

フヌゥムは例の巨刀を地面に突き刺すと、再び瓦礫に腰掛ける。

「逃げるなら追わぬと言っている。此方を見て戦意を失ったのならば、此方は戦わぬ」

「……武人っぽいですわな」

「此方は何も虐殺がしたい訳では無い。蹂躙も同様だ。故に、弱者ならば見逃すのが道理だ」

「へぇ~……それはありがてぇ申し出なもんで。……けど、あっしゃあ逃げるわけにはいかねぇんですがな!」


四方は袖に隠していたナイフを奇襲同然で投げつける。


「そうか」

だが、フヌゥムはそれを手の甲で捌いた。


「ならば、此方も応えよう。恨むなよ」

「全く、貧乏くじ引いちまいましたがねぇ…それでも……」

四方は体に仕込んだ武器を確認していく。

「こんな奴の相手、他の誰にもやらせたくねぇんで!」










「………やれやれ、何かが始まったと思いきや、唐突にこんな穢れた神、いえ今は穢神でしたっけ?まぁどちらでも良いですが、こんなに押し寄せてくるとは…」

神社の支部と呼ばれる小規模な社の前では、武神が戦斧の調子を確かめていた。

その前には、穢神が何体も両断されていた。

利斧リフ様ッ!向こうの支部にも穢神がッ!救援要請が来ています!」

利斧と呼ばれた武神は、巫女の方へと向き直ると言葉を紡ぐ。

「えぇ、向かいましょうか」

利斧は眼鏡の位置を直しつつ続ける。



「暇でしたので」









「武神…ね。武器への畏怖と信仰によって産まれる戦闘特化の神…か……」

女神のような緩やかな布地に身を包まれた女性らしいシルエットは、支部の社の鳥居の上で寝そべるようにだらっとしている。

「やれやれ…何でこんなご大層なお役目に産まれちゃったのだろうねぇ」

麗しい肌はまるで透き通るよう。細くしなやかな指で前髪を攫う。

「大砲、弩、機関砲、対空兵器。これほどまで文明は発達したのだろうけど、兵器はそこに『使用者』が居ない。武器への畏怖も信仰も無い。ただ殺すだけの物体には空虚さしか無い……文明が発達するたびに、こうして武器への信仰が消えていくのは…少しだけ悲しいね」

「あ、あの……弓羅キュウラ様……穢神が他の支部にも」

神守が話しかけるが、弓羅と呼ばれた武神は意に介さず独り言を続ける。

「対して、弓というものには『使用者』がいる。この国でも古来より名人、達人と呼ばれる人間は存在したものな。それに使用者本人の技術によって、その命中率も威力も上昇していくものだからね。なるほど『弓の武神』が産まれるもの道理だろうな」

「あ、あの~…弓羅様ぁ……」

「確かに文明が発達した今、わざわざ弓に拘らなくても高い攻撃力は得られるだろうね」

弓羅が滔々と語っていると、社の前に穢神が再び進撃してきた。

「ひ、ヒィッ!?き、弓羅様ァァッ!!」

「だが、『弓一つで船を何艘も沈めた』なんて伝説もあるぐらいだ……やっぱり無粋な現代兵器よりは……」


言いかけて、弓羅は目にも止まらぬ速さで弓を構え、一度に三本の矢を放った。その矢は正確に穢神の眉間を貫き、三本の矢で三体の穢神を見事に仕留める。


「浪漫があるだろ?」

弓羅は鳥居の下にいる神守に向けて、ウィンクする。

「は、はひぃ…」

あまりにも完璧なウィンク、麗しき美顔に神守は見惚れる。








「………ん?あぁー」

とある工房で、一人の男が何かを感じ取って起き上がる。

「……まぁ世界の危機だもんねー……援護ぐらいはしてあげようかな」

ふらふらと気だるげに起き上がる男は、和服を正して、扉へと向かう。

「あの…このような時間に何方へ…?」

淑やかな女性に引き止められると、男はヘラヘラ笑って答える。

「んー、古巣…かな~?」





そして、伝説が動き始めた。






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