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穢神戦争編
65話
荒ぶるヨゴウの猛攻から、御影と真陽は難なく逃れていた。
「……姉さん」
「えぇ、わかってるわ」
先程、背後から突き刺したにも関わらずピンピンしている。頑丈だ。
「俺…は……ヴォレワァァァァッ!!!」
「喧しいですが」
完璧な太刀筋で、振り上げた腕に刀を当てるが、斬れない。
「……随分頑丈なんですが…ッッ!」
「御影っ!」
真陽の生み出した腕に乗って、素早くヨゴウの腕から離脱する。
「姉さん…助かりました」
「良いのよ…それより…」
「グヌゥァァ……アアァアアァッ!!」
ヨゴウは地べたに拳を叩き付け、大地を割っている。
「あの怪力が理性を持っていたら、ちょっと怖いわね」
「……姉さん」
「大丈夫よ」
真陽は、病みも闇もない笑顔で続ける。
「御影が守ってくれるのでしょう?」
「………姉さん…」
御影は、かつて在りし日に見た懐かしい笑顔に、目を見開いた。
「グォオォォァッ!!」
ヨゴウがこちらに突進してくるが、刀が通らないので、避けるしか無い。
「俺ヴァ…俺はァ……ッ!!」
荒ぶるヨゴウに隙を見た御影は、刀を納刀し意識を研ぎ澄ます。
「姉さん…」
「わかったわ」
真陽の「死者の園」で召喚した腕によってヨゴウの両腕を掴みあげる。
御影は走り出す。
「ヌォォッ!?なんだこの腕はあぁぁぁっ!!」
御影は、死人のような瞳でヨゴウを見据える。頑丈でも、丁寧に、正確に、刃を通せば万物は斬れる。
……人間で、嫌という程試した。
息を吸い、太刀筋を整える。
「『魔淵暗殺剣』………」
抜刀された刀は、鋭く、正確に、一文字にヨゴウを凪ぐ。
御影は同じ行動を計三回繰り返した。
………失礼、言葉が足らなかった。
1秒もない時間の中で、計三回だ。
「『秘技・三途川』」
神社の暗部を司ったかつての組織『魔淵』
あらゆる血が混ざりきったその一族にて、標準装備として形成された、神を守る剣術では無く、人を殺す剣術。
それが、『魔淵暗殺剣』
「ぐふっ!?グフォォォっ!?」
ヨゴウは、腹部に三本の切り傷を作りながら、血を吹き出して倒れる。
「……これで両断出来ないとは……やはり随分頑丈ですが」
御影は、倒れたヨゴウを断頭するべく、ゆっくり近付いていく。
……………
………………………
……倒れているのか………倒れているのか?
渇く……渇くなぁ……俺は…まだ…捨てきれ……ねぇのか…
はるか昔、ひとつの村があった。貧しくも皆幸せそうに暮らす、極々平凡な村だ。
「ヨゴウ様!おはようございます!」
農作から帰ってきたのか、泥の着いた村人は軽やかに挨拶する。ヨゴウと呼ばれた神は、ゆったりと動きながら、穏やかに答えた。
「あぁ、せいが出るな。だが、俺がいるんだ。一生懸命は美徳だが、健康が1番だからな」
「わかってますって。ただ、この村ぁそこまで豊かでもねぇでしょ?オラァ頑張んねぇとなぁ。なんたってこの村のきちょーな若人だからな!」
そう言って笑う村人の前に手拭いを巻いた女性が現れ頭を引っぱたく。
「何言ってんだい!あんたももう30だろうに!早く相手見つけて結婚しなってんだよ!」
「おうおう、母ちゃんの言う通りだ。それにおめぇ見てぇなワケェモンにだってまだ負けるかってんだ」
「話すのは良いが、皆泥だらけじゃあないか。早く落としておいで」
ヨゴウに言われ、笑いが起こる。
この村の守護神として信仰され、永く見守ってきた。相変わらず豊かではないが、それでも良い村だったはずだ。
………そして、これからもそう在るべき村だった筈だ。
「……え…」
「何度も言わせるな。この村の住民は、今後我らの奴隷として働け」
「な、なんだってんだいきなり!!」
掴み掛かった若者は、腕を切られた。
「グアァァァッ!!」
「貧乏な田舎者が、逆らうな」
略奪者まがいの、都の者だった。
「まぁ、良い、見せしめに何人か殺せ。ジジィとババァはどうせ使い物にならんだろう」
鎧をつけた男がそういうと、手下が村人の腕を引きずって、地べたに転がす。そして、その眉間に火砲を突きつけた。
そこへ、ヨゴウが現れ村人の状況を見て全てを察した。
「貴様ら!こんなことをして許されると思っているのか!!」
鎧の男は、神で在る守護神に対し、不敵に言い放つ。
「確か…この村にいる守護神だったか。さて、そんな守護神殿に一つ問うが、貴方を信仰する者が皆殺しにされたら、存在は保てるので?」
男が手を挙げると、その場にいる村人の首に一斉に刀が向けられる。
「ひ、ひぃ…ッ!」
「よ、ヨゴウ様…お助けを…」
「ヨゴウ様ァッ!」
「ぐッ……ぐぅぅ……」
鎧の男は、ヨゴウの動きを止める為に村人を人質に取った。動けぬヨゴウを見て、男はニヤリと笑うと、あげた手を下ろして呟く。
「やれ」
途端、刀は下ろされたが、火砲が一斉に放たれた。
「あぁ……あぁぁァ……」
ヨゴウは膝から崩れ落ちる。両手で顔を覆う。
「ふん……守護神も大したこと無いな」
それから、数年が経った。村人は全員痩せ細り、搾取されるばかりで碌な食事も取れない。
「……ぐぅ……」
ヨゴウは、社で一人蹲っている。
何故だ。何故、連中はこんな事ができる?
あの装備を見るに、十分満足いく生活をしていた筈だ。何故、それ以上を求める……?
助けようとした。その都度、都の人間に村人を殺された。一人減るごとに、自らが弱くなるのを感じた。
何故だ?何故、心優しき彼らは搾取され、非道な奴らは肥えている?
「あぁ…渇く……渇いてしまう……村人達の…俺の村人達の為に……」
ー奴らから奪って来なくてはー
瞬間、ゴボっと謎の物体が口から溢れ出した。そのうち、両腕をつたって、全身から吹き出るようにそれが溢れる。
「グアァァァッッ!?あグアァァァッッッ!?」
渇く、渇く、奴らから奪う……俺の……守るべき俺の、信者達の為に…………ッッ!!
意識が途切れそうになるが、力が溢れてくる。
「なんだ……ッ!?守護神の様子が!?」
……あぁ、見張りか……手始めに、オマエカラダ……
異変に気がついた都の人間は、ヨゴウを囲むように火矢や、火砲を撃ち続ける。
無駄だった。
「グアァァッ!!」
「ぎゃああああッッ」
奴らが放った火のせいで、村が燃えている。
「チッ…おい!村人を人質に取れッッ!!」
いつぞやの鎧の男の号令で、手下は一斉に村人を連れてきて、首元に刀を向けてみせた。
「お、おい!いいのか!貴様の大事にしていた村人が!貴様のせいで死ぬんだぞ!」
「グォォォッ……渇く…ガワクンだァァッッ!!」
本能が囁く「捨てろ」と。理性が諭す「守るのだろう」と。
大事なもの…捨て切るわけにはいかないはずだ……守る為に…捨てる…捨て………
「ぐァァァァァァッッ!!」
頭を抑え疼くまるヨゴウを見て、鎧の男は口元を歪ませる。
「は、ハハハッッ!!所詮は信仰がなければ消えて無くなる連中よ!もういい、お前ら!この村のものを奪い尽くせ!!」
男がそうやって叫んだ直後だった。
炎に包まれる村の中に、低く澄んだ声が響く。
「ならば此方が其方達から奪っても、文句はあるまいな」
声の方向には、巨岩を削ったような大剣を肩に担ぐ、大柄な人間のようなものが立っていた。
「……だ、誰だ!!」
叫んだ男は、もう遅かった。顔を掴まれていたのだから。
「下衆に名乗る趣味は、此方には無い」
鎧の男は、頭部を地面に叩きつけられ潰される。突然現れた何某かは、村を少し見渡すと、イラついたように言葉を吐く。
「……不快だ。何もかも」
一刻もしないうちに、村にいた都の者は皆殺しにされていた。
「………もう、死んでしまったか」
突如現れた何者かは、村を見て回ったが、痩せ細った村人は、全員死んでいた。逃げ切る体力がなかったのだろう。
「……残ったのは、其方だけか」
「ぐぬぅぅぅ…ううぅぅぅ……」
未だに頭を抱えて唸っているヨゴウを見て、何某かは察したように呟いた。
「………成程、『穢れ』に飲まれかかっているが、ギリギリの所で耐えているな。『穢れ』を克服しているのか……此方と同じかも知れんな」
暴れ始めたヨゴウを見て、大剣を持った何某かは、ヨゴウを殴って気絶させる。
「……信者が居なくなっても消えぬか……あの外来種に会わせるべきだろうか…」
この時の出会いを、ヨゴウは覚えていない。そしてこれがヨゴウと、フヌゥムとの出会いだった。
………そうだ……思い出した……俺が守ろうとした村人は、もう居ないのか。
……捨てよう、これまでの全て。
抱えてきた全てを捨てよう。そして受け入れよう。
……皆、見ていてくれ、これが……
これが、君たちの信仰した、村の守護神だ。
「……ッ!?」
断頭しようと近付いていた御影は、急に放たれる殺気に気が付き、跳んで距離をとる。
「ねぇさッ……」
跳躍していた御影の体が、くの字に折れ曲がり、吹き飛ばされる。
「御影ッ!」
壁に衝突した御影は、頭から血を流して項垂れた。
土煙の奥からは、先程とは変わって理性的な目付きになったヨゴウが現れる。
「……『穢れ」を受け入れる為には、切り捨てる覚悟が必要だったか」
ヨゴウは自らの両手を眺めた後に、握る。
「……今はまだ、待っていてくれ。いつか、必ず皆の弔いをするから」
空を見上げていたヨゴウは、視線を下ろして真陽を見る。
「……続けるぞ」
「………」
真陽は、下を向いていた。
「……フン、心が折れたか?」
「……………くも…」
「……あ?」
次の瞬間、真陽の影からは複数の目がこちらをギョロりと見つめ、上からは腕やら足やらがうじゃうじゃと湧き出る。
「……ッ!?」
「よくも、御影をやってくれましたね……」
真陽の目は、光を失っていた。それはそれは漆黒。星の見えない夜空のよう。
今は谷透に傾倒しているとはいえ、御影は彼女のたった1人の血縁者であり……
そして彼女もまた、『魔淵』なのだ。
「……殺す。四肢を引き裂いて五臓六腑を抉り出す」
巨大な腕と湧き出る足と、睨みつける眼球を従えて、魑魅魍魎の中心は歩みを進める。
たった1人の弟を守る為に。
「……姉さん」
「えぇ、わかってるわ」
先程、背後から突き刺したにも関わらずピンピンしている。頑丈だ。
「俺…は……ヴォレワァァァァッ!!!」
「喧しいですが」
完璧な太刀筋で、振り上げた腕に刀を当てるが、斬れない。
「……随分頑丈なんですが…ッッ!」
「御影っ!」
真陽の生み出した腕に乗って、素早くヨゴウの腕から離脱する。
「姉さん…助かりました」
「良いのよ…それより…」
「グヌゥァァ……アアァアアァッ!!」
ヨゴウは地べたに拳を叩き付け、大地を割っている。
「あの怪力が理性を持っていたら、ちょっと怖いわね」
「……姉さん」
「大丈夫よ」
真陽は、病みも闇もない笑顔で続ける。
「御影が守ってくれるのでしょう?」
「………姉さん…」
御影は、かつて在りし日に見た懐かしい笑顔に、目を見開いた。
「グォオォォァッ!!」
ヨゴウがこちらに突進してくるが、刀が通らないので、避けるしか無い。
「俺ヴァ…俺はァ……ッ!!」
荒ぶるヨゴウに隙を見た御影は、刀を納刀し意識を研ぎ澄ます。
「姉さん…」
「わかったわ」
真陽の「死者の園」で召喚した腕によってヨゴウの両腕を掴みあげる。
御影は走り出す。
「ヌォォッ!?なんだこの腕はあぁぁぁっ!!」
御影は、死人のような瞳でヨゴウを見据える。頑丈でも、丁寧に、正確に、刃を通せば万物は斬れる。
……人間で、嫌という程試した。
息を吸い、太刀筋を整える。
「『魔淵暗殺剣』………」
抜刀された刀は、鋭く、正確に、一文字にヨゴウを凪ぐ。
御影は同じ行動を計三回繰り返した。
………失礼、言葉が足らなかった。
1秒もない時間の中で、計三回だ。
「『秘技・三途川』」
神社の暗部を司ったかつての組織『魔淵』
あらゆる血が混ざりきったその一族にて、標準装備として形成された、神を守る剣術では無く、人を殺す剣術。
それが、『魔淵暗殺剣』
「ぐふっ!?グフォォォっ!?」
ヨゴウは、腹部に三本の切り傷を作りながら、血を吹き出して倒れる。
「……これで両断出来ないとは……やはり随分頑丈ですが」
御影は、倒れたヨゴウを断頭するべく、ゆっくり近付いていく。
……………
………………………
……倒れているのか………倒れているのか?
渇く……渇くなぁ……俺は…まだ…捨てきれ……ねぇのか…
はるか昔、ひとつの村があった。貧しくも皆幸せそうに暮らす、極々平凡な村だ。
「ヨゴウ様!おはようございます!」
農作から帰ってきたのか、泥の着いた村人は軽やかに挨拶する。ヨゴウと呼ばれた神は、ゆったりと動きながら、穏やかに答えた。
「あぁ、せいが出るな。だが、俺がいるんだ。一生懸命は美徳だが、健康が1番だからな」
「わかってますって。ただ、この村ぁそこまで豊かでもねぇでしょ?オラァ頑張んねぇとなぁ。なんたってこの村のきちょーな若人だからな!」
そう言って笑う村人の前に手拭いを巻いた女性が現れ頭を引っぱたく。
「何言ってんだい!あんたももう30だろうに!早く相手見つけて結婚しなってんだよ!」
「おうおう、母ちゃんの言う通りだ。それにおめぇ見てぇなワケェモンにだってまだ負けるかってんだ」
「話すのは良いが、皆泥だらけじゃあないか。早く落としておいで」
ヨゴウに言われ、笑いが起こる。
この村の守護神として信仰され、永く見守ってきた。相変わらず豊かではないが、それでも良い村だったはずだ。
………そして、これからもそう在るべき村だった筈だ。
「……え…」
「何度も言わせるな。この村の住民は、今後我らの奴隷として働け」
「な、なんだってんだいきなり!!」
掴み掛かった若者は、腕を切られた。
「グアァァァッ!!」
「貧乏な田舎者が、逆らうな」
略奪者まがいの、都の者だった。
「まぁ、良い、見せしめに何人か殺せ。ジジィとババァはどうせ使い物にならんだろう」
鎧をつけた男がそういうと、手下が村人の腕を引きずって、地べたに転がす。そして、その眉間に火砲を突きつけた。
そこへ、ヨゴウが現れ村人の状況を見て全てを察した。
「貴様ら!こんなことをして許されると思っているのか!!」
鎧の男は、神で在る守護神に対し、不敵に言い放つ。
「確か…この村にいる守護神だったか。さて、そんな守護神殿に一つ問うが、貴方を信仰する者が皆殺しにされたら、存在は保てるので?」
男が手を挙げると、その場にいる村人の首に一斉に刀が向けられる。
「ひ、ひぃ…ッ!」
「よ、ヨゴウ様…お助けを…」
「ヨゴウ様ァッ!」
「ぐッ……ぐぅぅ……」
鎧の男は、ヨゴウの動きを止める為に村人を人質に取った。動けぬヨゴウを見て、男はニヤリと笑うと、あげた手を下ろして呟く。
「やれ」
途端、刀は下ろされたが、火砲が一斉に放たれた。
「あぁ……あぁぁァ……」
ヨゴウは膝から崩れ落ちる。両手で顔を覆う。
「ふん……守護神も大したこと無いな」
それから、数年が経った。村人は全員痩せ細り、搾取されるばかりで碌な食事も取れない。
「……ぐぅ……」
ヨゴウは、社で一人蹲っている。
何故だ。何故、連中はこんな事ができる?
あの装備を見るに、十分満足いく生活をしていた筈だ。何故、それ以上を求める……?
助けようとした。その都度、都の人間に村人を殺された。一人減るごとに、自らが弱くなるのを感じた。
何故だ?何故、心優しき彼らは搾取され、非道な奴らは肥えている?
「あぁ…渇く……渇いてしまう……村人達の…俺の村人達の為に……」
ー奴らから奪って来なくてはー
瞬間、ゴボっと謎の物体が口から溢れ出した。そのうち、両腕をつたって、全身から吹き出るようにそれが溢れる。
「グアァァァッッ!?あグアァァァッッッ!?」
渇く、渇く、奴らから奪う……俺の……守るべき俺の、信者達の為に…………ッッ!!
意識が途切れそうになるが、力が溢れてくる。
「なんだ……ッ!?守護神の様子が!?」
……あぁ、見張りか……手始めに、オマエカラダ……
異変に気がついた都の人間は、ヨゴウを囲むように火矢や、火砲を撃ち続ける。
無駄だった。
「グアァァッ!!」
「ぎゃああああッッ」
奴らが放った火のせいで、村が燃えている。
「チッ…おい!村人を人質に取れッッ!!」
いつぞやの鎧の男の号令で、手下は一斉に村人を連れてきて、首元に刀を向けてみせた。
「お、おい!いいのか!貴様の大事にしていた村人が!貴様のせいで死ぬんだぞ!」
「グォォォッ……渇く…ガワクンだァァッッ!!」
本能が囁く「捨てろ」と。理性が諭す「守るのだろう」と。
大事なもの…捨て切るわけにはいかないはずだ……守る為に…捨てる…捨て………
「ぐァァァァァァッッ!!」
頭を抑え疼くまるヨゴウを見て、鎧の男は口元を歪ませる。
「は、ハハハッッ!!所詮は信仰がなければ消えて無くなる連中よ!もういい、お前ら!この村のものを奪い尽くせ!!」
男がそうやって叫んだ直後だった。
炎に包まれる村の中に、低く澄んだ声が響く。
「ならば此方が其方達から奪っても、文句はあるまいな」
声の方向には、巨岩を削ったような大剣を肩に担ぐ、大柄な人間のようなものが立っていた。
「……だ、誰だ!!」
叫んだ男は、もう遅かった。顔を掴まれていたのだから。
「下衆に名乗る趣味は、此方には無い」
鎧の男は、頭部を地面に叩きつけられ潰される。突然現れた何某かは、村を少し見渡すと、イラついたように言葉を吐く。
「……不快だ。何もかも」
一刻もしないうちに、村にいた都の者は皆殺しにされていた。
「………もう、死んでしまったか」
突如現れた何者かは、村を見て回ったが、痩せ細った村人は、全員死んでいた。逃げ切る体力がなかったのだろう。
「……残ったのは、其方だけか」
「ぐぬぅぅぅ…ううぅぅぅ……」
未だに頭を抱えて唸っているヨゴウを見て、何某かは察したように呟いた。
「………成程、『穢れ』に飲まれかかっているが、ギリギリの所で耐えているな。『穢れ』を克服しているのか……此方と同じかも知れんな」
暴れ始めたヨゴウを見て、大剣を持った何某かは、ヨゴウを殴って気絶させる。
「……信者が居なくなっても消えぬか……あの外来種に会わせるべきだろうか…」
この時の出会いを、ヨゴウは覚えていない。そしてこれがヨゴウと、フヌゥムとの出会いだった。
………そうだ……思い出した……俺が守ろうとした村人は、もう居ないのか。
……捨てよう、これまでの全て。
抱えてきた全てを捨てよう。そして受け入れよう。
……皆、見ていてくれ、これが……
これが、君たちの信仰した、村の守護神だ。
「……ッ!?」
断頭しようと近付いていた御影は、急に放たれる殺気に気が付き、跳んで距離をとる。
「ねぇさッ……」
跳躍していた御影の体が、くの字に折れ曲がり、吹き飛ばされる。
「御影ッ!」
壁に衝突した御影は、頭から血を流して項垂れた。
土煙の奥からは、先程とは変わって理性的な目付きになったヨゴウが現れる。
「……『穢れ」を受け入れる為には、切り捨てる覚悟が必要だったか」
ヨゴウは自らの両手を眺めた後に、握る。
「……今はまだ、待っていてくれ。いつか、必ず皆の弔いをするから」
空を見上げていたヨゴウは、視線を下ろして真陽を見る。
「……続けるぞ」
「………」
真陽は、下を向いていた。
「……フン、心が折れたか?」
「……………くも…」
「……あ?」
次の瞬間、真陽の影からは複数の目がこちらをギョロりと見つめ、上からは腕やら足やらがうじゃうじゃと湧き出る。
「……ッ!?」
「よくも、御影をやってくれましたね……」
真陽の目は、光を失っていた。それはそれは漆黒。星の見えない夜空のよう。
今は谷透に傾倒しているとはいえ、御影は彼女のたった1人の血縁者であり……
そして彼女もまた、『魔淵』なのだ。
「……殺す。四肢を引き裂いて五臓六腑を抉り出す」
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