神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

72話

人間の英雄は産まれるのか、その問いについては是である。


異能力者が集う学園にかつて存在した、史上最強と謳われ、妖との共存を望んだ異端児。

また、現代最強の祓い屋として活動するその息子達。



そして、今や神社を背負う白き獅子と成った、谷透 修哉。



人間にも、英雄は紛れもなく産まれる。




しかし、その逆も然り。


世界の修正力か、それとも世界の意思か。


穢れに対抗するものが武神であるように。



それは、悪役ヴィランや、闇の英雄ダークヒーローではない。




反英雄アンチヒーロー、それが世界が産み出した、英雄への対抗策。



それが、燼人という男なのだろう。




歩いてきた雨谷は、燼人と向き合う。手元に刀を出現させると、そのまま肩に乗せて、へらへら笑いながら燼人に近づいて行く。

「君、半妖…と言うよりはどっちつかずに近いのかな~?相当なイレギュラーがあったんだろうね~」

「まぁ、死に際だったもので、生き延びようと必死でしたねー」

燼人は対抗するように不可視の剣を顕現させて、三日月のように笑う。


(……予備動作なしで刀の出現…構築系の異能力?いや、妖と名乗ってたか。じゃあ妖術の類い?……なら俺も使える…是非とも欲しいな)


燼人が策をめぐらす中、ヒミコは血が滴る口で、言葉を紡ぐ。




「ゲホッ…ゴホッゴホッ……貴方は…」

 ヒミコの呼び掛けに、雨谷は答える。

「さっき言ったでしょ~?オイラは妖さ。

「なら……ゴホッ…ひとつ助言よ……あの男は殺した相手の異能を奪える……手札は5つ…それと…契約してる……シトドっていう妖精が1体…」


ヒミコは息も絶え絶えに、雨谷に燼人の手札を教える。


「……そっか~。ありがとう、もう寝てて良いよ~」

ろくに振り返らず、そのまま燼人に向かっていく雨谷を見届けると、ヒミコは体を引きずって仄の元へと移動する。




「さて、作戦会議は終わりました?俺はこう見えてやることがあるので、さっさと終わらせましょうよ」

「まぁ~それはオイラも同感なんだよね~。あんまり古巣に長居はしたくないしさ…」

一瞬雨谷の表情が曇る。そして何かに気が付いた雨谷が首を横に振ると、その真横を投げナイフが水平に飛んで行った。


「……浸ってる時に不意打ちってさ~…君、利斧とはまた違う感じで性格悪いね~」

雨谷がへらへら笑うと、燼人は再び三日月のように笑う。

「これで終わってくれたら良かったのに…って、思ってたけどねー」


燼人は笑みの仮面の裏で、思考を回す。


(…完全に視線から外れてた瞬間を狙って不意打ちした筈、それを避けられた。反射神経が人間じゃない……まぁ妖って言ってたか。だが…神達に感じるあの神通力の独特な圧を感じない……か?何がどう……なっ………て………)


燼人は自分の状態に気が付くのに、5秒かかった。

膝を着いて、立ち上がれない。


思考がまとまらない。立とうと


へらへら笑いながら、相手はその漆黒の目をこちらに向けている。自分の目を指差しながら雨谷は話し始める。


「いや~正直さ、オイラは妖力が全部にいってるから、強さとかあんまり関係無いんだよね~。昔は武神と妖のどっちつかずだったし、我ながらさ~……ま、昔の話だよ」





……………は?





雨谷を除く全員の思考が、一度止まった。

元々……武神と妖の……?


「この目も特別製でね~…ま、これのせいで色々大変な時期もあったけどさぁ」

「…………」

口が回らない。思考に直接干渉されているように、この男の目から逃れられない。思考が止まると言うよりは、思考が誘導されている感覚。


………それでも…

……それでも、『武神コイツ』を殺したいッ!!








ガリッ






「………ん?」

「……シトド…鳴け」

「おっとこれは~……」






途端、再びの衝撃波。だが、雨谷はその範囲から容易く距離を取っていた。

「うわぁ~、アレ当たったらたまったもんじゃ無いなぁ~。あんまり怪我すると雪華に心配かけちゃうよ~」


雨谷は起き上がる燼人を横目で見ながら、警戒する。

(……舌を噛んだのか~)

燼人というヤツの口元、血が滲んでいる。痛みで一時的に思考に横槍を挟んだ?いや、そんな事でこの眼から逃れられるのだろうか?


……いや、この際一度イレギュラーは置いておこう。なんせこの男自体、相当なイレギュラーが産み出したものなのだし。


(それにしても…妖精…「泣き女」か……人が死んだ際に現れて、邪気を払うために大声で泣くっていう感じのやつだった気がするんだけど……それを契約で従えてる……?)


怪訝な顔をしていると、燼人が自分の肩に乗っているシトドの頭を撫でているのを見て、雨谷は苦虫を噛み潰したような顔をして笑う。


「……え~……ちょっと有り得ないんだけどさ…もしかしてその妖精……?」


『泣き女は聖人である』


そんな話もある位には、清い存在の筈だ。そんな清き女性の妖精があんなに従順になっているのが、まず異常。




雨谷の言葉に、三日月のように笑いながら、燼人は答える。

「いやいや、。まぁ、あれだけ愛玩してやれば、そうもなると思うけどー」

「………うっわ」 


肩に乗るシトドの首を片手で絞めながら話す燼人、そして恍惚な表情を浮かべて喘ぐシトド。その様子を見て、雨谷はドン引きする。




『彼女は俺に惚れている』

燼人が何度も言っているが、重要な言葉が抜けている。







答えはは簡単だ、先ほど雨谷も言っていた。

。聖人とも呼ばれる清い女性の妖精を。力で持って捩じ伏せ、弄び、愛玩して、従順になるまで。



「………オイラ初めて利斧より嫌悪感抱く奴に会ったよ~。ある意味、記念日になりそうだなぁ~」



そうやってへらへら笑いながら構える雨谷に、燼人は向かっていく。

ジャックナイフをかわして、カウンターで斬撃を放つ。しかし縮地を発動させた燼人に避けられ、今度は不可視の剣を用いて向かっていく。


(……なるほど、シトドっていう妖精を使わないのはオイラを)


ヒミコというに聞いた、この男の異能。つまり、『自分で殺害しないといけない』のだろう。シトドという妖精がトドメを刺してしまうと、骨折り損という訳だ。


(まぁ、これ使


「良く動くなぁー、早く死んでよ」

燼人が不可視の剣で切りつけようとすると、雨谷は手に出した刀でそれを弾く。すると、それを読んでいたのか、もう片方の手に握ったナイフで切り上げる。

(……この軌道は当たるな…致命傷にはならないけど)

だが、そう考えていた燼人の思考は、


「……ッ!?」


蹴りが飛んできた。


………蹴りが飛んできた…???あの体勢から?どうやって?


口端が切れ、そこから垂れる血を舐め取りながら、燼人は鬱陶しそうに言葉を紡ぐ。

「……随分柔らかいなー」

「いや~、ブチ切れちゃうとオイラ以外止められない、とか相手にしてたからね~」

「へぇー、是非ともご紹介願いたい…ねっ!」

燼人がナイフを投げる。だが、その軌道は途中の木に当たる、手元が狂った?この男に限ってそんなミスは多分しない。恐らくは……



『透過』



文字の通りすり抜ける異能だろう。あれはブラフに見せかけた本命。

燼人が向かってくるが、ナイフの対処を優先する。


……しかし、ナイフはそのまま木に刺さった。


「……おっと予想外」

燼人の手に握られたジャックナイフが、雨谷の頬を掠める。雨谷は掌底でジャックナイフを突き落とすと、そのまま刀で致命傷を狙う。


「……ハハッ騙された?」

「………ッ…」


雨谷の目に映ったのは、先程木に刺さったナイフと、ついさっき叩き落としたジャックナイフを握る燼人の姿だった。


(『透過』はブラフ……本命は『引き寄せアポート』!)



燼人の言った『透過』は嘘。ヒミコとの戦いの際、過剰に警戒させる為のブラフでしか無かった。実際の5つ目は『引き寄せ』の異能だった。


(……ま、これも範囲10メートル以内の無機物しか引き寄せられないんだけどね。対象物が重すぎるとかなり大変だし)


だが、不意打ちの効果は上々。


致命傷を狙った雨谷の刀は、燼人の2本のナイフに受け流される。そして、肉薄した燼人は、そばにいる彼女に命令する。

「シトド、鳴け」

「いや~油断したな~」


雨谷の全身に、衝撃波が余すことなく命中する。





「あ~…痛った~」

「……痛いで済むのかよー」

効果はあるが、ヒミコの時より明らかにダメージが薄い。

燼人が渋い顔をする中、雨谷も同じような表情を浮かべていた。

身体の中から破壊されるような、気持ち悪い感覚。殺人音波って名前もあながち間違いじゃない。

雨谷はため息をつくと、続けた。

「……はぁ~…あんまり使いたく無いんだけど…出し惜しみもしてられないか~…」

雨谷は手を前に出すと、一振の刀を出す。

「いつ以来かな。行こうか……『熒惑ケイコク』」


抜き身では無く、鞘の着いた一振だった。


「知ってるかい?『熒惑星の大接近は、災いの前兆』なんだってさ。の本に書かれてたんだ」


それまでのへらへらした雰囲気は失われる。


懐かしむような、辛そうな、二度と戻れない過去を悔やむような、そんな感情が全て混ざったような表情を浮かべながら、雨谷は『熒惑』と呼んだ刀を構える。


雨谷はそのまま歩くと、燼人の間合いに入る。


「さて、燼人って言ったっけ?1番強い手札で来なよ~」

そういった雨谷は、居合の構えを取る。わかる、今までとは格も桁も違う一撃が来る。






「……








はったりじゃない。

「……へぇー…」




あの男は強い、もう不意打ちが出来る隙も無いだろう。ならば言われた通り最大威力の手札を切ろう。


「シトド……




一瞬だった。音も衝撃も、それすら感じない程に。




。右肩から、左腰の辺りにかけて、バッサリと。


シトドの放った衝撃波すら斬り裂いて、この世のものとは思えないほど美しい刀身が、俺の身体に軌跡を刻んだ。




「………やっぱりあんま使いたく無いかな~…どうやっても思い出しちゃうよ」







「……おや、近くに来ていたと思ったら、随分遠ざかっていたんですね、刀谷。貴方の全盛の力を感じたと思ったら……抜いたんですか、アレ」

利斧は穢神を両断しながら、呆れ顔で続ける。

「…あれだけ武神だった過去を嫌がっておきながら……いや、アレだけは思い入れがあって捨てられないとか言ってそうですね」





「……ん?いまの気配……全盛の……てか来てたのか。チクショー、利斧のヤロー絶対知ってて黙ってやがったな。あの方角…あぁ、刀谷様よっぽど利斧のヤロー嫌いなんだな。ハハッ笑える」

弓羅は相変わらず鳥居の上で寝そべりながら、続ける。

「にしても…アレだけ嫌がってた過去…でも世界の為に再び立ち上がったかつての最強。ハハッ良いねぇ刀谷様ッ!見せてくれるじゃん…これは随分……」





「『浪漫があるなァ!』とか言ってるんだろうなぁ~弓羅。……まさかこっちまで矢文飛ばしてこないよな~?」

雨谷は『熒惑』を腰に下げると、燼人の方を見る。

「……これが武神か…ハハッ」

ね、最初にオイラ妖って名乗ったじゃ~ん」

軽口を叩きながら、雨谷は頭の中で言葉を作る。


……いやいや、なんであんな威力の斬撃食らって立ってられるの?

え~…タケちんとかシズちん並の化け物だよコイツ~…



「………ゴボッ…久々にここまで深手になったな…」

燼人は、口から溢れる血を吐き出しながら続ける。

「ここは…引く……運が悪ければまた殺し合うかもな」

「逃がすッ…」

猿谷がクナイを投げようとすると、既にそこに燼人の姿は無かった。恐らく、『縮地』を連発して離脱したのだろう。






「……勝った…のね……」

ピキリ…ビキッと体の内側から、ヒビが入る音が響いてくる。

生き残った枯葉里の衆は、最早3人しかいなかった。


仄を抱えている眞雉に向かって、ヒミコは絶え絶えに指示を出す。

「……その子を……地面に寝させて…」

ヒミコの指示通り、猿谷が出した布に丁寧に仄を寝かせる。

(………核が損傷してるせいで…上手く神通力が扱えない……このままじゃあ…)

このままでは、仄が助からない。



………でも。




ひとつ、手段はある。



ヒミコは自分の体に腕を突っ込み、核を取り出すと、仄の傷口にそれを入れる。








………アレ、私は刺されてたような気がするのですー。

全てが灰色に映る場所で、仄は1人たっていた。

そこに、見覚えのある女性の影が現れる。


……久々ね

……えーっと誰でしたっけ……

思い出せない。女性は、寂しそうな顔をすると、仄の頭を撫でる。



……強いて言えば、神様みたいなものかしら。




すると、急に上に引っ張られる感覚に襲われる。


おわー!?

頑張って、生きなさい。貴方の大好きな人の為に。



仄が居なくなった空間には、一面に花が咲いた。そこへ1人の男が現れる。


………あら、待っててくれたのかしら?

……随分と早いですね。

……貴方と比べないで頂戴。

……ふふっ。では、言い方を変えましょう。

白い軍服を着た男は、手を伸ばすとヒミコを引っ張る。


………お疲れ様です。

……えぇ、疲れちゃったわ。










『先に大元叩こうと思ったけど、あんなのが他にもいるかもだから、オイラは別行動しておくよ~』と言い残して、あの怪しい男は去っていった。


それから少しして、仄が目を覚ました。

「仄様……気が付きましたか?」

「う……ん?アレ、忍者の……刺されてた気がするのですー」

「ヒミコという女性が……」


仄は、猿谷達から全ての顛末を聞いた。


「そのヒミコの身体が急に砂のようになって、仄様の身体へと溶けていったのです。身体になにかご不調は…?」

「……何も無いですねー…」

逆に、身体に知らない力が湧いてきている事を自覚していた。

「……そっか…あの声は…」




生きなさい、貴女の大好きな人の為に。





仄は、拳を握る。


命を賭して、救ってくれた。だから、精一杯応える。


「うん、

仄と、従者の3人は一ノ門へと向かっていく。


〈行ってらっしゃい〉



途端に、背後から声が聞こえてきた気がした。だけど、振り返らずに走る。



一番好きなあの人の所へ、仄は駆け出して行った。

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