神様の仰せのままに

幽零

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穢祓い編

83話

天守閣に登っていく谷透を、神社の面々は見送る。

「……手伝いてぇですがな」

「四方、言っても仕方がないですが」

「そうね。あの人しか…もう戦えそうに無いものね」

「んにぃ~、それよりやる事あるっしょー」

六武衆は花車の方を向くと、その手には片足を掴まれたまま逆さにされている燼人の姿があった。


「たにとーが憂いなく戦う為にね~」




ボロボロになった天守閣、もはや天井も瓦解し、空が見えている。


「………よぉ…」

「おうおぅ、あの時フヒトに逃がしてもらった雑魚が立派になったもんだなァ?」

白獅子フヒトの顔で、その声で。雑音を、不快な音を奏でる。


「……その人を穢すな」

「無理だろーがよォ?今はもう俺の身体だしなァ??」

身体を乗っ取ったゼシは、上半身は裸体、胸に瞳を縦にしたような楕円の傷跡がある。恐らく核を入れ替えた時についた傷跡だろう。

そして、あれほど美しかった銀に輝く髪は、どす黒く、短くなっていた。


「……にしてもなァ…はフヒトだってのに、認められねぇんだわ」

手に持っていたのは、白獅子フヒトの使っていた『神代遺物』、招雷刀だ。

「解放しようとしても電撃で抵抗してきやがる。でもよぉ…使えねぇもんはしょうがねぇよなぁ!?」

すると、ゼシは刀に手を添え……




バキィッ!!!と、叩き折った。



穢れを使って、完膚無きまでに砕いた。

その破片を地面にばら撒くようにして、言葉も垂らす。


「……

「………ッッッ!!!」



それが、開戦の合図になった。



「クハッ!頭に血ぃ登って大丈夫かぁ!?おい!二代目ェ!?」

「黙れ。その首切り落として二度と囀れなくしてやる」


最初ハナから本気。


谷透は封神剣を解放し、ゼシは穢れを纏う。


フワリとゼシが空中に浮かぼうとするが…

「二度もさせるかよ」

「……チッ」


完全に浮き上がる前に、谷透は飛びながら兜割りの要領でゼシの頭に振り下ろす。


衝撃で天守閣から一気に突き落とされ、谷透も建物を使って下へ駆け下りた。


(おいおい一歩間違えりゃテメェが死ぬんだぞ…?)



「前と同じだと思うなよ…」

白い外套を翻し、谷透が迫る。

「ハッハー…」

手のひらでおおった顔、その隙間から。


「……雑魚が調子に乗るんじゃねぇよ」


見え隠れするおぞましい狂気を孕んだ目が、こちらを睨む。


ゼシが手のひらをかざすと、纏う穢れが硬質化しまるで巨大な槍のように何本も連なって谷透に向かっていく。


「……


谷透はそれを避けつつ、ゼシに一太刀入れる……が……


「調子に乗ってんじゃあねぇって言ったよな??」

「……ッッ…」


穢れを駆使して、谷透の封神剣を受け止め、別の穢れを触手のように操り谷透の腕や足を貫く。


受け止めた時に死角をつくられた。そしてギリギリまでそれを隠していた。

(封神剣の予測が見えても、俺が反応出来なければ意味が無い……ッ…)

「雑魚は雑魚らしく……」

「ッッ!!」

谷透が封神剣で受け止めようとするが、その隙をついて、穢れが谷透を再び貫く。


……だが。


「ぐ……ウォォオォッッッ!!」

「はァっ!?!?」


たかが致命傷で、獅子は止まらなかった。


谷透は腹部を貫かれたまま、ゼシに向かって封神剣を振り下ろす。


完全に不意を疲れたゼシは、防御反応が遅れた。


「………なぁんてな」

「!?」


予想していたのか、谷透の頭上に穢れを設置していた。それは断頭台のギロチンのように形を保っている。


「死ねよ」


ゼシが腕を振り下ろすと、ギロチンも勢い良く谷透を断頭すべく落下する。


………しかし。



「……フッ…」


貫かれた状態から、急に谷透は横にズレる。

まるで、



「………白獅子この名を背負ってるんだ。この程度な訳ねぇだろうがッッ!!」



谷透 修哉の元々所持していた能力……


『霊体化』


足元以外が物体をすり抜けるようになる異能。


ゼシの目の前で封神剣を構える谷透は言い放つ。


「俺は、元々異能力者なんだよ」

「こんの………クソがァァァァっっっ!!!」




ゾブリ…と




肩から腰の辺りにかけて。



ゼシが刻まれる。



半身がズレる。斜めに落ちる。






視界で捉えるのは、覚悟を宿した眼と、フヒトの着ていたものを身につけた雑魚。

斜めに斜めに、どんどんと視界がズレる。


(………こんな…こんな雑魚に……)





…………………………





いや。








死ねるかよ。俺は……俺がッ!!!





気がつくと、見覚えのない場所に立っていた。


有象無象が蠢く、朽ち果てた空間。


目の前には、炎のように揺らぐ何かが浮かんでいた。



「……んだよここ」

《我……穢れの意思》

「……あ?」

《我…神より産まれし……負の力。故に…地上の神。穢れるべきが道理で原理。穢れなき神など、虚より出でる幻影》

『穢れの意思』と名乗る炎は揺らぐ。

《我、元より体無き物。元来無きもの。祓われた穢れが集い形を成したもの》

「…………」


つまり、あの雑魚が祓ってきた穢れが密度をまして意志を持った……か。


「………ハッ!なんだ?穢れは本性だから穢れてねぇ神は偽物ってか!?」

《………如何にも》

「……で、テメェは何が言いてぇんだ」

すると、揺らぐ炎の中から一本の剣のようなものが突き出る。

槍のような剣、刀身の部分が長く、分厚い。そして、まるで土星の輪のように刀身に輪が2、3個ほど回っていた。




………見覚えがあった。



「………なんでテメェがこれを知ってる?」

《……容易》 

(……答える気はねぇってか………)


『神代遺物』のひとつ。最凶最悪で、フヒトが厳重に封じていた筈の代物。


禍津逆鉾マガツサカホコ


製作した奴は、神々に余程怨みの積もった神人達だったのだろう。


「………ハッ…で、こんなモンまで取り寄せて、俺に何をさせてぇんだ」

《我、理の真実……故、我、其方、身体支配。神、与するもの、殲滅》

「………」

《其方、じきに死す。故、合理的》

「……いいだろう」


炎から突き出る鉾に手を伸ばし引き抜くと、刀身を伝って炎が身体中に侵食して来た。


頭には、負の感情が濁流のように流れ込んでくる。

まともに思考がまとまらない。




「おぐぼぉぉぉっ!??ごぼぼぼっっ!」



皮膚から、目から、あらゆる穴から意思が流れ込んで来る。


《我、肉体を得る。この世、神、遍く、穢す》

「………ちげぇな……」

《……何?何故?》


ゼシは穢れの意思に侵食されながら、不敵に笑い叫ぶ。


「勘違いしてるようだが、テメェが俺を支配するんじゃあねぇよ」


手にした禍津逆鉾を強く強く、握り潰すように掴むと、声高々に叫ぶ。


!!!!」


《不能、不快、理解不可》


穢れの意思を一身に受け止めて尚、ゼシの渇望がまさった。


「ふ、ふハハッ……ハハハハハッッ!!…戦争を…あの闘争をッッ!!」






……ゼシは、英雄では無かった。




神人として非常に優れた能力を有していた。それは言うまでもない程に、書くほどでもない程に、誰がどう見ても明白。

「俺が何とかしてやるって!」

傲慢な神が、神人を奴隷扱いしてきた。なら、神を殺す。

だから、立ち上がった。




………しかし、神には勝てなかった。




「……ゼ…シ……俺は…もう……」

「おい!死ぬなッッ!」

「いや……もう…いい……だから……聞いてくれ……」

血に塗れた手を、震わせながら差し出す。

「いつ……か…俺たちの仇を……」

「わかった!わかったから!もう喋るな!!」

「………たの……むぞ……」

「おい!目を開けろ!おい!!」

「…………」


もう何人目かも分からない仲間を看取った。


「次は……」



1人……



「次こそは……」



また1人……



「今度こそ……」



そしてまた1人……



「………俺は……」




いつか気がついた。信じてついてきた仲間たちも、武器も、何もかも………


今や足元に転がっている。





「………俺は、英雄では無かった」



今はもう……ここに立つのはたった1人……


神の手が迫った。……すまん…約束守れなかったな……




命を諦めた……だが、



物事というものは、心の底から諦めた時に限って、救いの手が差し伸べられる。




「大丈夫ですか?」


神々しく、は降臨した。今の今まで、俺を殺そうとしていた神は、そこでただの物体に成り下がっている。


「……お前は?」

「……私はフヒト、最近はどうにも『反逆の神人』という大層な名前で呼ばれているようですが」


……話には聞いていた。最初に神に反逆したとかいう神人だ。


「……なぁ、俺を連れて行ってくれないか?」

「……危険ですよ?」

「知ってるさ」



それが、フヒトとの出会いだった………そして、否応にも自覚させられた。





との、その差を。





自分は持たざる者なのだと。


圧倒的な強さを誇るフヒトは、周囲から絶大な支持を受けた。その度に、自分の中に渦巻く劣等感は大きくなっていった。

長く共に戦った、背中を任せられる大した奴だと、心から思った。




………でも、





でも、心底妬ましかった。長く共にいればいる程、自分の弱さを突きつけられる日々。自分の弱さのせいで、仲間は何人死んだのだろう。


でも、目の前のこいつは、絵物語の英雄様そのものだった。


穢れを知らず、純白な輝きを放つ、英雄そのものだ。




ただ、この感情も戦いの中では忘れることができた。


戦いの中でしか、自分の価値はないのだろうと、察したのだ。



フヒトが全ての世界から神人を救うと言い出した時は、正直胸が躍った。

いつまでもいつまでも、この殺し合いが続くのだと思うと、自分の価値がまだ保たれる気がした。




………そして唐突に、思いもよらぬ決着がついた。




そこからは、寝ても覚めても、血みどろの戦いばかり。






「………なんだ…?」

谷透は斬ったはずのゼシから、異様な気配が満ちていくのを感じていた。


「………クフっ……キヒヒッ……クハハハハハッッ!!」

「……!?」



斜めにズレたゼシの体内から、穢れのようなものがとめどなく溢れ出る。

は、ゼシの体を包み込むと、どんどん濃縮され、姿を変える。



ついには繭のような姿になったそれは、2、3脈動すると、ベールが剥がれる。



「……生まれ変わったような気分だな」


つい先程までは持っていなかった槍(?)のようなものを携えている。


「俺は……我は…『アダマゼルス』……」

「……アダマゼルス……?」


雰囲気だけではない、先程までゼシだったものが発する言葉は、重複して聞こえる。


身体はぬめりのある光沢、紺や黒に近い色で光っている。まるで、穢れの装甲を纏っているような姿だ。

「……伊達に名前が変わっただけじゃないらしいな?イメチェンか?」

「ほざけ」


アダマゼルスと名乗り改めた者は、槍のようなものを掲げ叫ぶ。



「『穢れの意思』と融合した俺は……もはや『穢れの神』となった……ッッ!!」

両手を広げて、全能感に浸るゼシだったもの。重複して声が聞こえるあたり、何某かと融合したとかいうのは本当のようだ。




そして、今や『穢れの神』と化した。


………そう、では無く…







「穢れの意思すら支配した俺に、もはや敵などいない」


ぬめりある輝きを放つ指で、白き獅子を指差す。


純粋な悪意は、時に正義よりも強く輝く。






これより紡がれるは、最悪の神人ゼシの……


改め、『穢れの神』アダマゼルスの物語である。






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