神様の仰せのままに

幽零

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穢祓い編

最終話

あれから数年の月日が流れた。


崩壊した神社はほとんど再建が終わり、新たな神主である三ツ谷結が主導し、二代目白獅子や六武衆の尽力のもと、新たなる神社が再建された。


今までの上下関係の激しかった一ノ門、二ヶ宮、三ツ谷の序列を白獅子、および神主が撤廃。三つの神社は統合され、名前を改める。



その名も『七天神宮シチテンジングウ


神々や業界の大拠点として君臨し、大手の神社、また神々の脅威に対する要塞としての役割も担った。



「……神主、聞いても良いだろうか?」

「なんでしょうか?白獅子様」

「なぜ『七天』なんだ?」

「あぁ、一ノ門、二ヶ宮、三ツ谷の数字を足しまして…」

「それだと六では?」

「そこに白獅子様……谷透さん、あなたを足したんですよ」

「………そうだったか」




さて、数年と言う月日は人も立場も変えるのには十二分な時間のようで……



まず初めに七天神宮は権威・権力を三等分した。


執務やその他神宮の運営を決める行政的な部分を担う『神社』、支部の防衛や戦力の提供、各地妖や穢神、穢物の討伐を行う『神守』、そして、神守や神社の補助を主に行い、神守への情報提供及び備品の管理などを担う『巫女』


そして、神社の頭には『神主』、神守の総大将として『白獅子』、巫女の総括として『舞姫』と呼ばれる立場がそれぞれに与えられた。


『六武衆』はそのまま継続的に採用されたが、『神守』の暴走を防ぐため、また謀反などを抑制する為に、六武衆には例外的に単独行動権と神守総大将である白獅子の命令を無視できる権限が与えられる。立ち位置としては神守に近いが、所属は『神社』と言う立場になった。




神代の時代から現代にかけて戦争を企てていた神人ゼシとの戦いは、後に『穢神戦争ケシンセンソウ』と名付けられ、神人という種族と、肥大した一ノ門の権威が招いた悲劇として語り継がれる。


また、神々の脅威に対する神々の切り札である『武神』に対し、現神守総大将である白獅子は『御役御免』を宣言、『武神』の使命に囚われず、各々の道を行くようにと声明を出した。



『刃の武神』刃紗羅の娘である紅葉は以前の力を取り戻し、再び戦神『戦乙女』として、神宮に残った。刃の武神としての力を一部受け継いており、積極的に前線に赴くようになったようだ。

『剣の武神』阿剣は、変化したばかりの神宮が安定するまでしばし力を貸すとして駐屯。白獅子によると、以前よりも思考や態度が柔軟になったとのこと。

『槍の武神』槍丈は使命から解放されたことを寂しく思う反面、世界の強者と出会う為に旅に出た。また、鉈久と一戦交えた際に軽く一蹴された事で、前線から離れていた期間の長さを自覚したらしい。

『盾の武神』盾岩は先代三ツ谷神主とその妻である壊奈の忘形見、結を見守る為に神宮に残った。

『弓の武神』弓羅は、世界に未だ眠る浪漫を求めて神宮から出立した。またその際「悪友に会いに行く」とも言っていたという。だが、終ぞその悪友とやらの名前は口にしなかった。

『斧の武神』利斧は、自らの好奇心と探究心の為に宣言が出された後、すぐさま神宮を出た。その際、支部からはたくさんの貢物が届いたらしい。

『鉈の武神』鉈久は、「受けた恩を返す」と言い切り、神宮の本丸防衛の役を担った。また神守に稽古をつけている姿も確認されている。

『刀の武神』刀谷は、妖に落ちたという結末が確認された為、除名された。また住処などの情報は一部の者を除いて知られていない。

『刃の武神』刃紗羅は封神剣の中にいた事が確認されたが、谷透 修哉と融合した為完全に死亡扱いとされ、除名された。




「しかしまぁ……お前も思い切ったよなぁ……」

「白獅子…」

「わかってる。言葉使い、だろう?すぐには治せないさ」

「……まぁ、自覚があるなら良い」

六武衆に昇格した後、鳴神 風切は取り壊しになった自らの出自である鳴神家を再建。数多くの神守を育てる家たらんと奔走することになる。また後に神守たちの標準装備となる『七天流護神剣シチテンリュウゴシンケン』という剣術流派の開祖となり、神守の戦力向上に一役買う。

また、『式神の理論構築』と言う破格の異能を身につけた者として、『神宮』全体が学問に対する意識が向上。特に『巫女』たちにとっての影響力が凄まじく、『六武衆』を抜けて『巫女』の所属になってほしいという声もあるとかないとか。忙しく動いている為、未だ独り身ではあるが、その隣を狙う巫女は何人もいるだとか。

また、理論構築で保留にしていた調伏過程を行い、その過程で雷虎・焔鴉・潮龍の完全な調伏を完了すると同時に、焔鴉の契約過程で、「風切自身の寿命を膨大に引き伸ばす」と言う契約が交わされた。それにより、莫大な寿命を得た風切は、老いに対してほとんど影響されない若さと共に人生を歩む事となった。しかし、かくも本人は凡人と自称しており、神宮の人々からは「通りすがりの自称凡人」と密かに呼ばれているとかいないとか。




「ま、あっしゃはそろそろ穏やかに暮らしてぇんで」

きっかけはその一言だった。『六武衆』への続投を望まれていた四方桃源だが、本人が「穢神戦争」で受けた傷、特にフヌゥムとの戦闘の際に受けた傷が完全に癒える事が難しく、本人の意思で六武衆から離脱した。その代わり、まだ若く仲間内で一番経験の豊富だった猿谷を六武衆に推薦、それにより四方の後を猿谷が継ぐ形となった。

『六武衆』を抜けたとはいえ、神社から出て行った訳ではなく、「御隠居」として、谷透たちの付き人となる。また、情報収集の知識を用いて、神守達に対し講義を開いている様子も窺える。ただ、彼が一番嬉しそうな顔をするのは、二代目となった白獅子が成長した姿を見ている時だった。



「ん~、今回も異常なし!んにぃ~、刺激が足りないよにぃ~…」

『六武衆』花車は、そのまま六武衆として残った。ただ、六武衆の所属が神社に移ることに若干抵抗感を覚えていたようだが、結が神主であることをきっかけに快諾する。

実年齢は本人ですらよく覚えてなく、少なく見積もっても40は超えているようなのだが、未だ躍動する肉体でもって前線を駆け回っている。巫女達に一度身体をよく診て貰ったのだが、どうやら「老い」という過程がほぼない事が判明。

理由はよくわかっていないが、「老い」に関する化学的な根拠が未だにわからない現代で、一説には「老いたいから老いている」という話もあるようだ。結果として理由は不明だが、「花車は長く戦いたいと思い、老いなど望んでいないからほぼ不老である」というかなり強引な理由で決着をつけた。

……ただし、当の本人はそんな巫女達の苦悩など梅雨知らず、今も大斧を振り続けている。



「白獅子という立場が白獅子様にしか務まらないように、僕には僕にしか出来ないことを探すつもりですが」

『六武衆』御影は、現白獅子である谷透 修哉に影響され、「自分のやるべき、自分にしか出来ない事」をしばらく探していた。そして、以前より神社に存在した『地下』の存在に目を当て、法で裁けぬ罪人をここで裁くという役割を思いつく。地下牢を再利用し、強大な妖や犯罪に加担する異能者などを拘束する地下牢の管理者である『墓守』の任につくと同時に、『六武衆』を離脱した。



「……入りなさい。貴方が記念すべきでもない1人目ですが」

「……まぁ、仕方ないかぁ~…これじゃあね」

力無く拘束された腕を見せる白濁色のコートの男、燼人。

「……で、ここに拘束されてどうなるのさ」

「それは僕も考えていたんですが。安心するといい、貴方の扱いは昔の『穢祓い』より酷い扱いになると保証しますが」

「……やれやれ…」


御影が異能力で姿を消した後、燼人は冷たい床に座り込み、背を壁に預ける。

なんせ、何人も殺してきたのだ。生きているだけ有難いと思っておかねば。

妖を喰らい、半分は人間、もう半分が妖という稀有な例となっている燼人は、四方と花車と御影と真陽から拷問まがいの行為を受け、「不可視の剣」以外の異能を破棄させられた。拷問で吐かせたというよりは、雨谷と名乗る妖の助力があったのが大きいだろう。

(……あ~あ、神になるつもりが、結局小悪党みたいな最期だなぁ)

実の妹すら刺したのだ。こんな程度で許されているのが奇跡に近い。全てを失い生きるというのも、ある種の拷問のようなものだと思うが。

(……いや、全てでは無いか)

燼人が何も無い空間を撫でるような仕草をする。そこには、ふわりと抱きつくように泣き女であるシトドが浮かんでいた。

「……シトド、俺を憎んで無いのか?」

「………」

何も言わず……いや話す訳もないが、そのまま自分を抱き締めるシトド。

(………極悪人の俺でも……やり直せるのだろうか)

全てを失った四堕神唯一の生き残りは、最後に残った本当に大切なものを手に、心を改め始める。




「しばらくはこのままかしらね」

『六武衆』真陽は、一度『巫女』へ所属を変えようとしたが、各支部や併合する予定の神社などに赴き、話し合いをもって解決する役目を担うべく『六武衆』に留まった。

また、以前から凄まじい執着を見せていた谷透への想いは、谷透と仄との関係を祝福する事で自身の心にも決着をつけた。後で判明したことだが、谷透への異常な執着は、弟との間に生じた亀裂による孤独感だったようだ。弟である御影との関係が修復された今、孤独感が薄まると同時に谷透への執着も薄れていった。ただし、未だ白獅子として職務を全うする彼は尊敬の対象であり、弟と共に白獅子の職務を幅広く補助した。

また「穢神戦争」時に被害にあった神宮の所属以外の神社に赴き、併合を促す。その最中、孤軍奮闘していたとある神社にも赴き、併合を促すと同時に、この神社を守り散っていった英霊達を手厚く葬り、たった一人で神社を守っていた男も手厚く治療した。

後に、この男は『六武衆』の一人となる。




ゼシの手下であり、『無神機関』を私物化したシダマ。その彼を倒し、その奥に潜んでいたゼシも下した。そんな中、止水を筆頭とする彼らは、その一件後、谷透の私兵団という建前のもとお咎めを逃れる。

そして「穢神戦争」が終結したあと、谷透 修哉によって私兵団は解散、各々好きなように生きるようにと命を下す。


無神機関の戦闘兵だった彼らのほとんどは、穏やかで平和的な一般人へと帰依することを選び、兵隊であった人々は神社を去っていった。しかし止水や雹、有山や斑目といった幹部クラスの人物は神宮に残った。


止水は『無神機関』に出自を持つものが集まった私兵団が解散したことにより総括と名乗ることをやめ、神宮の新たな神守の一人として新しく人生を歩む意志を見せる。

ただ、「人造村正」による神経接続が体に多大な負担をかけていた事が判明し、この武器を破棄。体の所々に損傷が見られ、今までなぜ生きていたのかが不思議なくらいの重症であることが判明した。神守として活動する前にまずは療養しなければならないとして、巫女達の手により強制的に療養することに。出鼻をくじかれたと苦笑いをしていたようだ。



「あの人の隣が私のいる場所だ」

雹は冷気精製という異能を持ち、神守として活動を続けることを決めた。ちなみに隣というものは比喩で、実際に谷透の隣を狙うつもりはないらしい。

雹は片腕が青白く壊死している。その手を見せた時に、仄によって丁寧に包帯を巻き直してもらうというその優しさに心打たれ、彼らを陰ながら守ると心に決めたそうだ。新たな目標は『六武衆』になるため、御前試合に出ることを掲げている。



「研究といっても、もう無茶をできる歳ではないな」

パイナポーヘッドこと斑目は、神宮に残ったものの、研究をする機器もなく対象も特にない為、研究員という立場から身を引いた。ただし、今度は巫女達の使う通信用の礼装などに興味を示し、改良などを施した。

以前のような狂った探究心はすっかりなくなり、以前よりも穏やかにはなった。ただし研究に対する熱意が消えた訳ではなく、神宮の装備などの充実のために毎晩、間借りした研究室から音が響いてくるらしい。



「私はもともと医者だからね」

有山は「穢神戦争」が終結した後、医術の腕を活かすため、またこの界隈に足を踏み入れたものとして、神守達の治療を担当することにした。一応所属として『巫女』の分類に入り、医術など専門的な技術を巫女に教えた。本来の穏やかな性格も相まって、有山の医術教室は案外好評なようだ。

また、息子同然であった蒼糸が幸せそうにしている様子を見て、自分のことのように喜んでいる。



「まぁ?落ち着いたし、ちょっと本気出してみるって感じぃ?」

満と結婚した後、蒼糸は雹と同じく神守へと所属を変え、その後、先代白獅子、風切、現白獅子に並ぶスピードで『六武衆』へと昇格。所属を『神社』へと移した。鋼線による技術の汎用性が高く、悪地などでも立体的かつ縦横無尽に飛び回れるその力を存分に振るった。
また、『六武衆』となった後、『墓守』である御影とよく話す姿が見られたという。お互いの過去の話で盛り上がることもあったようだが、お互いにある話題になると真剣で不安そうな表情を浮かべることもあったという。

そんな蒼糸の態度から、過去に何らかの暗いものを抱えていることは神守の間でも噂になっていたが、「穢神戦争」の際に最前線で防衛していたこと、また六武衆としての立ち振る舞いをきっかけに特に追求されることはなかった。

蒼糸の過去については本人の立ち振る舞いの成果による部分もあるが、妻である満が献身的に立ち回っていたことも効いている。

満については蒼糸と一緒になってから、前線より身を引き後衛で支えることを決意、刀を置き神守としての役目を終えたと決着をつけた。現在は第一子を身ごもっており、巫女はもちろんの事、四方の計らいで眞雉と戌亥が彼女を支えるべく共にいるらしい。



「仄様……これは……どういう事でしょうか」

「あらあらー?何って、ちょっと子育てを手伝って貰っているのよ~?」

六武衆へと昇格した猿谷は、時折仄に呼び出されては、谷透修哉との間に出来た第一子である、名無子ナナコの子育てを手伝わされていた。

猿谷は六武衆になってからしばらくお面をとらなかったが、四方からいい加減に慣れろというお達しが来たために嫌々面を外すことになった。意外にも切長の目で凛とした顔つきであったことに誰もが驚いたのはいうまでもない。御隠居となった四方に呼び出され、白獅子の書類仕事を手伝うように促されたり、仄に呼び出され、名無子の子育てを手伝ったり、六武衆として各地に赴いたりと、現在の神宮で3本の指に入る程度には多忙な身となった彼であった。



「あらあら~、困ったのわ~」

「穢神戦争」の終結後、神宮が安定した頃合いを見計らって谷透修哉と仄は結婚した。その後数年で幼さが一気に消え、ベージュの肩掛けに淑やかな格好をする淑女へと成長した。「です~」や「なのです~」といった口調から「あらあら~」という口調に変わり、全てを包み込むような慈悲深い声も相まって、神宮の人々から「獅子を手懐けた聖母」と呼ばれている。

谷透仄は役職につかず、神宮の個室で第一子である名無子の子育てをしつつ、よく編み物をしている姿を見かけるという。彼女は編み物を完成させたら、とりあえず猿谷を呼び出し、誰かにプレゼントするようにと手渡す。猿谷がこの編み物をとある神守に手渡した所、「信じられないくらい良い匂いと、安らぎがもたらされた」という感想が飛び出し、猿谷が仄の編み物を持ってくるたびに神守や巫女の間で激しい争奪戦が起きることもあったという。

後に「聖母の編み物」と呼ばれ、これを求めに支部から神宮にくる神守や巫女が殺到。事態を収集するために白獅子が少し編み物を控えるように助言をするが、仄が少ししょんぼりした顔を見せた瞬間、白獅子は発言を撤回してしまう。どうしようもなくなってしまったので、猿谷と四方が何とか説得し、編み物をする回数は減ったのだが、今度はお菓子作りにハマってしまい、試食の為に呼び出された猿谷が、後日、胃がもたれた状態で任務に赴くこともあったという。後に「信じられないぐらいの程よい甘み」という感想が生まれ、「聖母のお菓子」として再びちょっとした騒動が起こるのであった。

「穢神戦争」の最中、神人のヒミコと融合した仄は、神人と同じ膨大な寿命を得た。風切も似たような状態である為、特に何も思っていなかったが、夫の修哉も似たような状態になっていることが判明し、誰よりも喜んでいたという。




「えぇ、大丈夫です。私がなんとかします」

三大神社の神主唯一の生き残りである結は「穢神戦争」の終結後、白獅子と共に「七天神宮」を設立し、被害にあった小規模な神社を併合すると同時に神宮の基礎を築き上げた。以前のようなオドオドとした雰囲気は消え去り、堂々とした立ち振る舞いを見せるようになる。また、「神社」の最大権力者である「神主」の地位につき、初代七天神宮神主となる。

また、しばらく後になり自らの出自と、神社の暗部である「魔淵」との関係を知り、そこで破狩と自身の繋がりにたどり着いた。亡き母と父の仇を取るべく奔走した一人の男の生涯を知り、彼女は誰にも見られない場所で一人涙を流した。

また、破狩と壊奈が当時交流していた人物に「鳴神悠斬」と呼ばれる男がいたことが判明する。後に現鳴神家当主である風切と共に調査をした所、「隻腕になった後に、二ヶ宮の穢祓いとして遠征したまま行方不明」であることが判明した。それ以上の情報は掴めずにいたが、各地の神社から「片腕の剣士が妖から守ってくれた」という報告が度々上がってくることが確認された。




「………これで終わりか」

黒い和装に身を包んだ男は、刀を納刀し厳かな顔つきで道なき道を歩む。その左腕はすでになく、その表情は壮絶な過去を連想させる。彼の足元には、今し方斬り殺した妖が数体地べたを舐めていた。

風で揺蕩う髪は無造作に結ばれており、その足取りは達人の域であった。一人放浪しているこの男は、神宮の所属でない神社を妖や穢神の魔の手から守りつつ一人流浪していた。

そんな中、ある一人の男の噂を耳にする。何でも、祓い屋で現代最強と言われているらしい。

「………まさか……いや、そんな訳がない」

もうだいぶ昔の話だ。あの父親がとある祓い屋を鳴神家に引き入れたかったとほざいていた時期があった。何でも大妖怪を暴力で大人しくさせた男らしい。

「……『山霧武』……はっ…馬鹿バカしい」

今生きていたら結構な年だ。それに、


……かつて神童と呼ばれていた自分でさえ、このザマだ。


「さて……次は何処に向かうかな。なぁ、春色」

片腕で刀を触ると、男は風の向くまま、足を進めた。






「………執務も大変だな」

「穢神戦争」にて巨悪を断ち、神々の英雄となった谷透修哉は、「神守」の総大将の地位を『白獅子』と名づけ、就任する。以前に比べ少し髪の毛が伸びた。ゼシとの決戦の際に装備していた和装は損壊してしまったので、再び神宮の全ての技術を結集して修繕、結果として下手な結界よりも強固な純白の外套が完成した。また、刃紗羅の神通力、フヒトの核、封神剣の力を得た彼は、霊体化の異能の他にかつて刃紗羅が得意とした『創刃』という神通力を完全に獲得し、自ら派生技を完成させる。

一方、「穢神戦争」の際に発症した「竜痕リュウコン」は今だに癒えずにいた。首元と頬に浮かんだ竜の鱗のような痣は、消すことができないらしい。有山や真陽などに診てもらっても、これを治すことは不能であるという結果だった。

また、「穢神戦争」が彼に残した傷跡は多く、神通力や異能力を持ち、そして神人の核や神代遺物と融合した彼は、もはや人類から最も遠ざかった存在となってしまった。故に老いる事がほとんど無く、また強大な刃紗羅の神通力を、まるで体内が血液を循環するように纏っている為、回復の異能や神通力、妖術がほぼ通用しなくなってしまった。これは致命傷を受けたら、かなり危険な状態になる事を示している。

また、竜痕の影響により、臨界した神通力や異能力を使用する時間に制限がかかった。谷透修哉が全力を持って戦闘を行える時間は、最大で60秒となり、それ以降は竜痕が疼き、発作を起こしたような状態になることが判明した。

とはいえ、それは全力を持って戦闘を行なった場合であり、軽い戦闘であればその限りではない。また、彼自身の有する力が一個人を超越した物であることは事実である。




また、『六武衆』の所属を神守から神社に変更したのも彼の提案であり、いつか自らが人ならざる者として暴走した時に止める役目が必要だと感じた為だとしている。


その圧倒的な強さから、『史上最強の神守』『絶対なる護神』『純白の獅子王』など、数多くの呼び名で呼称されているが、どうやら本人はそんな大層な呼び名よりも、『愛妻家の大将』という呼び名が一番気に入っているらしい。





「まぁさ~、『最強』ってのも疲れるよ。特に圧倒的な場合はね~」

ヘラヘラした怪しい着物の男、雨谷は「穢神戦争」の終結後、まだ不安定だった神宮に少しの期間残り、白獅子と基盤固めに勤しんでいた。

「しかしまぁ~、色々荒れてた君がこんな大物になるなんてねぇ~」

「……お前こそ、あの伝説的な武神である事を隠してただろ」

「えー?そうだっけ?」

かくもヘラつく雨谷を横目に、白獅子は書類仕事を進めていく。

「しかし、君も色々と人間離れしたねぇ~。オイラとか刃紗羅が終ぞ至らなかった『極神』に一時的とはいえなっちゃうなんてね~」

「感慨深いなぁ~」と言いつつ、羊羹を食べる雨谷。

「……失った物も多いがな」

しばらく筆の音が響いていたが、少しして遠慮がちに白獅子が雨谷に問う。

「……所で……はどうしてる……」

その言葉を待っていたのかいないのか、ニヤリとしながら雨谷は答える。

「いや~、相変わらずだよ~。『現代最強の祓い屋』~とか言われちゃってさ~。君も今は『史上最強の神守』~なんて言われてるだろ~?オイラも鼻が高いなぁ~」

「………そうか」

少し微笑みつつ筆を動かす白獅子を、雨谷は見守るような微笑みで眺めていた。

「しかしまぁ、喜んでばかりもいられないね」

急に声のトーンが落ちた雨谷は続ける。

「君、武神の『御役御免』の宣言したでしょ?あれ、どういう意味かわかってる?」

真剣な眼差しで続ける。

「オイラの家に利斧とか弓羅とか普通に来ちゃうじゃ~ん。なんて事してくれんの~」

「いや、知らんが」

「ま、冗談はさておき、どうせ何人か残るんでしょ?それに使命から解放されたって言っても、神々の脅威に対する神々の切り札っていう性質は変わらないだろうし~。それに……」

白獅子の目を覗き込むように見る雨谷。

「……君がいるしね~。

そんな事言った後、雨谷は立ち上がる。

「……じゃ、後のことは頼んだよ?『純白の獅子王』さん?」

「……それ、お前が言い出したんじゃあないだろうな…」

「いや~?別に~?」

部屋から出ていく寸前、その背中に白獅子が言葉を投げる。

「……『刀谷は、妖に堕ちたという結果が確認されたので除名する』」

その言葉を聞いた途端、雨谷はピタリと止まる。

「……『見届人は二代目白獅子。なお、その後の情報は一部の人物を除いて秘匿する』」

言い終わった後、顔を上げて続ける。

「後は好きにすると良い……もう神社に縛られる必要も無い。

「……ほんとさ、大成したね~…」

声が少し涙ぐんでいたのは、聞かない約束だ。


雨谷が神宮から去った後、時々手紙が届くようになったが、内容は大体利斧か弓羅がちょっかいをかけてくるからなんとかしてくれという内容だった。ただ、文章を見るにきっとまんざらでもないんだろう。









「戻った」

「あら~、お疲れ様~」

「………これは、どういう状況だ?」

「あら?あぁ~、猿谷さんに試食してもらったの~。お夕飯何が良いか迷っちゃって~」

ニコニコ微笑む仄の下には、腹を押さえてうつ伏せに倒れる猿谷の姿があった。名無子は猿谷の上にハイハイで乗っかってくつろいでいる。

「……とりあえず、胃薬…いや胃酸か?」

「……あ、あぁ……白獅子様……お邪魔しております……うぷ」

胃袋が限界値近い猿谷はなんとか押し留めているようだ。

「……ご苦労だったな猿谷……四方」

「へい」

「猿谷を介抱してやってくれ……」

「ははぁ、まぁ珍しいことでもねぇですか。ハハっ」

「御隠居……人ごとだと思って……」

四方に連れられ、猿谷が部屋を出て行った後、思い出したように仄が修哉に向き直る。

「あら、そういえば忘れてたわ~」














「お帰りなさい、

「………ただいま」











神様の仰せのままに  ~完~






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