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After storys
二話
「それで、お呼びなので?」
「あぁ、そうだ」
執務机を挟んで反対側。白獅子と名無子は向かい合っていた。血のつながった実の親子だが、神宮内での立ち位置は未だこの差。『墓守』の任につくと言った時、『巫女』になった同僚からは必死に引き止められたが、母は愉快に、父は見据えたように笑っていた。
そんな父は偉大である。偉大で偉大で見上げて首が痛くなってしまうぐらいには。
物心ついた時から、父はずっと何かを見据えている気がする。幼いながらにそれが何か聞かなかった。頬と胸元に浮かんだ「竜痕」が父の過去を物語っていたからだ。
きっと、憧れの人でもいたのだろう。今の私が父親に憧れているように。
全てを見透かすような瞳が、名無子に向く。
「……漸哉の様子はどうだ」
(あぁ、やっぱりなので)
名無子は棺桶を置いて、しっかり向き直ると答える。
「漸哉は相変わらずなので。女性二人を連れて、神守に何かを言われては半殺し。この繰り返しなので」
「……ハァ~」
谷透 漸哉
『白獅子』谷透 修哉の実の息子であり、名無子の弟。だが、無表情でユーモアのある名無子とは違い、皮肉屋で捻くれ者。おまけにぶっきらぼうで無愛想。授かった異能力の為、神守としてではなく『穢祓い』として活動している。
「……名無子、アイツに任務を言い渡す。伝えてくれるか?」
「父殿がお伝えしないので?」
「あぁ、私が出ればまた面倒事になりかねんからな……」
気苦労の色が浮かぶ顔を見て、名無子はピッと敬礼する。
「わかりました、徒歩でとっとと伝えてきますので。トホホ~……ん?どうしました。笑うところですよ?」
「あ、あぁ……お前は表情が全く動かないから冗談と真剣の見分けがつかないんだよ」
「ユーモアのわからない父殿なので。では行ってくるので」
「あぁ、頼んだ」
名無子が出て行った後、そばに控えていた四方が白獅子に話しかける。
「よろしいんですかい?」
「あぁ、俺はせがれに嫌われているからな……」
「お察ししますってなもんで」
「さてさてーっと……あ、いたいた」
その男は、砕けた木々の生い茂る森の中、腕を組んで大木に寄りかかっていた。
亜麻色の髪を後ろで団子状に纏めており、右目には眼帯をしている。腰には太刀が二本に背中には大きな鉄製の弓を背負っている。全身を鎧甲冑で固めており、まるで暴力が服を着て歩いているような雰囲気だった。
そして、何よりデカイ。とてもデカイ。
「お~い漸哉~。伝える事があるので~」
「………あ?」
不機嫌に目を開け、名無子を見下ろす。
名無子の背丈はギリギリ140センチあるかないか。比べて漸哉の身長は184センチある。
「……何の用だ」
重い刀のような言葉をぶっきらぼうに言い放つ。
「父殿が貴方に任務を言い渡すそうなので。まぁ修練場のアレの埋め合わせ的な感じだと思うので」
そういうと名無子は漸哉の言葉も待たずに手紙を開いてよみあげる。
「神宮の南支部付近に戦闘慣れした中妖怪が確認出来たようなので。その討伐に向かって欲しいんだそうで。一般人に被害が出ないように慎重に事に当たれとの事なのでー」
聞いた漸哉は苛立ちながら、名無子の持っていた手紙を取ってビリビリに破く。
「………チッ、追い出してぇならそう言えば良いだろうよ」
言いつつ、漸哉はそのまま任務へと向かう。
「……惑香、小夜。行くぞ」
漸哉の低い声に反応するように、木陰から2人の女性が出てくる。
1人はダラしなく浴衣を着崩している女性で、もう1人は穏やかな笑顔を浮かべている女性だった。
「はぁい漸哉様。はやくいきましょ~?」
屈強な漸哉の腕にくっつくダラしない格好の女性はデレデレとした表情から一変、名無子の方を見るとギロリと無表情で睨みつける。
「……あぁ~……居たんですねぇお義姉さん?」
「あなたの姉では無いのでー。惑香さん」
「……チッ」
背を向けて行こうとする漸哉と惑香、その後ろを行儀よくついて行こうとするもう1人の女性に名無子は話しかける。
「それじゃあお願いするので。小夜さん」
小夜と呼ばれた女性は穏やかに微笑むと、上品に言葉を紡ぐ。
「えぇ、あの方の狂気を収められるのはわたくしだけですもの。あぁ、とっても楽しみですわ。最早芸術的な暴力と技量の両立を完成させた漸哉様の武術。返り血を浴びるのが楽しみですの~」
ふふっと微笑むと、足早に漸哉を追いかけ始めた。
「……んー。濃いメンツなので。でも漸哉に心酔してる小夜さん以外を監視役に付けたらどうなるかも分からないので~」
ボソリボソリと呟きつつも、お使いは終わった!とドヤ顔(無表情)を浮かべる名無子はよっこいせと棺桶を背負うと歩き始める。
『穢祓い』
それは神宮の三組織と言われている『神社』『神守』『巫女』の、どの組織にも属さない稀有な立場である。
かつて白獅子がその立場に居たとされている階級で、『強力な故に固有名を着けられた異能力等を持つ人物』を、監視役をつけて管理する立ち位置でもある。また、例外的に自由行動が許可されており、どの組織にも属さない地下管理者の『墓守』と似た立ち位置でもある。
つまり、谷透 漸哉は神宮から要注意人物として監視役が着いている状態である。
その監視役だが、鬼のような強さと獰猛性を持ち合わせている漸哉の監視役に着こうと思う人物は当然皆無。その為、かつて漸哉に助けられ心酔している小夜が監視役に選ばれた。
(まぁ~あの弟の事なので。神宮側も『監視役』ではなく、『足枷』として小夜さんの監視役を認めている節もあるので)
そんな事を考えながら、名無子はシャベルを取り出して墓地作りをしようと地下へと向かった。
「あぁ、そうだ」
執務机を挟んで反対側。白獅子と名無子は向かい合っていた。血のつながった実の親子だが、神宮内での立ち位置は未だこの差。『墓守』の任につくと言った時、『巫女』になった同僚からは必死に引き止められたが、母は愉快に、父は見据えたように笑っていた。
そんな父は偉大である。偉大で偉大で見上げて首が痛くなってしまうぐらいには。
物心ついた時から、父はずっと何かを見据えている気がする。幼いながらにそれが何か聞かなかった。頬と胸元に浮かんだ「竜痕」が父の過去を物語っていたからだ。
きっと、憧れの人でもいたのだろう。今の私が父親に憧れているように。
全てを見透かすような瞳が、名無子に向く。
「……漸哉の様子はどうだ」
(あぁ、やっぱりなので)
名無子は棺桶を置いて、しっかり向き直ると答える。
「漸哉は相変わらずなので。女性二人を連れて、神守に何かを言われては半殺し。この繰り返しなので」
「……ハァ~」
谷透 漸哉
『白獅子』谷透 修哉の実の息子であり、名無子の弟。だが、無表情でユーモアのある名無子とは違い、皮肉屋で捻くれ者。おまけにぶっきらぼうで無愛想。授かった異能力の為、神守としてではなく『穢祓い』として活動している。
「……名無子、アイツに任務を言い渡す。伝えてくれるか?」
「父殿がお伝えしないので?」
「あぁ、私が出ればまた面倒事になりかねんからな……」
気苦労の色が浮かぶ顔を見て、名無子はピッと敬礼する。
「わかりました、徒歩でとっとと伝えてきますので。トホホ~……ん?どうしました。笑うところですよ?」
「あ、あぁ……お前は表情が全く動かないから冗談と真剣の見分けがつかないんだよ」
「ユーモアのわからない父殿なので。では行ってくるので」
「あぁ、頼んだ」
名無子が出て行った後、そばに控えていた四方が白獅子に話しかける。
「よろしいんですかい?」
「あぁ、俺はせがれに嫌われているからな……」
「お察ししますってなもんで」
「さてさてーっと……あ、いたいた」
その男は、砕けた木々の生い茂る森の中、腕を組んで大木に寄りかかっていた。
亜麻色の髪を後ろで団子状に纏めており、右目には眼帯をしている。腰には太刀が二本に背中には大きな鉄製の弓を背負っている。全身を鎧甲冑で固めており、まるで暴力が服を着て歩いているような雰囲気だった。
そして、何よりデカイ。とてもデカイ。
「お~い漸哉~。伝える事があるので~」
「………あ?」
不機嫌に目を開け、名無子を見下ろす。
名無子の背丈はギリギリ140センチあるかないか。比べて漸哉の身長は184センチある。
「……何の用だ」
重い刀のような言葉をぶっきらぼうに言い放つ。
「父殿が貴方に任務を言い渡すそうなので。まぁ修練場のアレの埋め合わせ的な感じだと思うので」
そういうと名無子は漸哉の言葉も待たずに手紙を開いてよみあげる。
「神宮の南支部付近に戦闘慣れした中妖怪が確認出来たようなので。その討伐に向かって欲しいんだそうで。一般人に被害が出ないように慎重に事に当たれとの事なのでー」
聞いた漸哉は苛立ちながら、名無子の持っていた手紙を取ってビリビリに破く。
「………チッ、追い出してぇならそう言えば良いだろうよ」
言いつつ、漸哉はそのまま任務へと向かう。
「……惑香、小夜。行くぞ」
漸哉の低い声に反応するように、木陰から2人の女性が出てくる。
1人はダラしなく浴衣を着崩している女性で、もう1人は穏やかな笑顔を浮かべている女性だった。
「はぁい漸哉様。はやくいきましょ~?」
屈強な漸哉の腕にくっつくダラしない格好の女性はデレデレとした表情から一変、名無子の方を見るとギロリと無表情で睨みつける。
「……あぁ~……居たんですねぇお義姉さん?」
「あなたの姉では無いのでー。惑香さん」
「……チッ」
背を向けて行こうとする漸哉と惑香、その後ろを行儀よくついて行こうとするもう1人の女性に名無子は話しかける。
「それじゃあお願いするので。小夜さん」
小夜と呼ばれた女性は穏やかに微笑むと、上品に言葉を紡ぐ。
「えぇ、あの方の狂気を収められるのはわたくしだけですもの。あぁ、とっても楽しみですわ。最早芸術的な暴力と技量の両立を完成させた漸哉様の武術。返り血を浴びるのが楽しみですの~」
ふふっと微笑むと、足早に漸哉を追いかけ始めた。
「……んー。濃いメンツなので。でも漸哉に心酔してる小夜さん以外を監視役に付けたらどうなるかも分からないので~」
ボソリボソリと呟きつつも、お使いは終わった!とドヤ顔(無表情)を浮かべる名無子はよっこいせと棺桶を背負うと歩き始める。
『穢祓い』
それは神宮の三組織と言われている『神社』『神守』『巫女』の、どの組織にも属さない稀有な立場である。
かつて白獅子がその立場に居たとされている階級で、『強力な故に固有名を着けられた異能力等を持つ人物』を、監視役をつけて管理する立ち位置でもある。また、例外的に自由行動が許可されており、どの組織にも属さない地下管理者の『墓守』と似た立ち位置でもある。
つまり、谷透 漸哉は神宮から要注意人物として監視役が着いている状態である。
その監視役だが、鬼のような強さと獰猛性を持ち合わせている漸哉の監視役に着こうと思う人物は当然皆無。その為、かつて漸哉に助けられ心酔している小夜が監視役に選ばれた。
(まぁ~あの弟の事なので。神宮側も『監視役』ではなく、『足枷』として小夜さんの監視役を認めている節もあるので)
そんな事を考えながら、名無子はシャベルを取り出して墓地作りをしようと地下へと向かった。
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