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After storys
三話
産まれ付き、右眼が見えなかった。
正確には「弱視」だった。視力がほぼ皆無で、光の入り具合が上手く調整出来ず、光源で照らされれば脳までチカチカと点滅するような衝撃に襲われる。
代わりに得たのが、この暴力。
「ば……かな……ワシは…この辺で一等強い……はず………」
欠けた墓石のような石に、鮮血が滴る。漸哉の右手には、裂かれた中妖怪の半身が握られていた。
それを捨て、握った拳で顔を潰す。
パァンッ!と人が出せるとは思えない音を出しながら、中妖怪の頭部は弾け飛んだ。
「お疲れ様です漸哉様~」
「……あぁ」
漸哉は手に着いた中妖怪の残骸を、本体だったもので拭う。
「……帰るぞ。小夜」
「……へへ……うへへ……あっ、あっ……」
目線の先にいる小夜は、漸哉が殺害した中妖怪の、その撒き散らした残骸を頭から被っており、目の標準が定まっておらず、口は開いて唾液がたれていた。体はガクガクと震えており、足元はふらついていた。
「………ふん」
毎回こうなっているが、立っているからこれでも意識はあると判断できる。絶頂したまま着いてくるだろう。
気に食わない。どこまで行っても何もかも。
「うっわ……おい見ろよ……」
「血だらけじゃねぇか……」
「なんか監視役の様子へんじゃないか?」
帰還するや、神守達はヒソヒソと声を抑えて話し出す。
「漸哉さま~、どうします?殺します?」
「……止めろ。どうせ六武衆が出張ってきてまた抑えられる」
惑香を止めた漸哉はそのまま報告に行く。
入口に控えている神守を退かし、白獅子の執務室に無理やり入る。すると、そこには父親の他に長い白髪の美女と見間違う男がいた。
……知っている。確か「三姫」の専属監督をしている男だ……名前は確か…
「神野だったか?『神野 時千穂』。あんたみたいな優男が何の用だ」
「……おい」
執務机の向こう側で父親が咎めるように声を出すが、神野は穏やかな笑みでまぁまぁと手を振ると、こちらに向き直る。
「これは漸哉殿。いやはや失礼。貴方の父君と少々お話がありまして。『巫女』の方針と『神守』の方針の確認と言いますか、何分神宮全体を見据えたお話でしたので少々込み入ってしまい……」
「興味無いな」
「それは失礼。用事は済みましたので、私はこれで」
右目の下にひび割れのような傷のある顔を穏やかに微笑ませ、白獅子に一礼すると執務室を出ていった。
神野が執務室を出たあと、空気は最悪になり殺伐とした。
「……で、テメェが押し付けた面倒事は終わったぜ。文句はねぇよな」
巨躯な身体で威圧するように報告する漸哉、しかしそれを鋭い目で見返す修哉。
「……神守達を半殺しにしたようだな」
「連中が気に食わねぇんだよ。雑魚は嫌いなんだ」
「……妖怪は何体殺した」
「知るか。いちいち数えるかよ」
「お前な…」
遮るように漸哉が言葉を合わせる。
「追い出してぇならそういえば良いだろうよ」
漸哉は足を机に乗せてズンッと修哉に詰め寄る。
「次期『墓守の長』候補になってる姉貴がいれば十分だろうよ。元六武衆『御影』様の後継。それでテメェの箔に泥塗るような俺が消えれば満足なんだろう?」
「そういう訳ではない。お前は少し自身の力を自覚……」
「貰いてぇなんて頼んでねぇよ」
片目から殺気のような気配が溢れる。実の父親に向けてだ。
「……話は終わりだ。俺は戻る」
ガチャガチャと鎧具足を揺らして執務室を出る。寸前、修哉に呼び止められた。
「あまり殺すな」
ピタッと歩みを止めると、漸哉は獰猛な殺気を込めた言葉を恨み節のように吐く。
「テメェは散々殺しておいてか?」
執務を終え、白獅子……谷透 修哉は足早でとある部屋へと向かう。
ガララっ!と勢いよく扉を開けるとそこには……
「あらあら~お帰りなさいアナタ~」
花が飛んでいるのが見てるぐらい穏やかな笑顔が飛んできた。
髪の毛はゆるーく結んで肩から正面に流すように置いてあり、ベージュの落ち着く色合いをした衣服に、同系色の肩掛けをつけた彼女は、穏やかな笑みで編み物をしていた。
「あぁ………」
白獅子の外套を丁寧にかけ、黒いインナー姿になると、近くに座る。
獅子を手懐けた聖女。谷透 仄である。
そして、いつも気が付くのは彼女の方なのだ。
「あら~?なにかあった~?」
ほわわ~としたトーンで話す仄に修哉は答える。
「いや、特に……」
途端にグイッと抱き寄せられ、無理やり膝枕をされる。柔らかな手で修哉の頭をなでなでする仄。
「こ~ら~、またそうやって抱え込む~。アナタと言えど怒っちゃいますよ~?ぷんすか」
「…………」
修哉は答えない。
「漸哉の事でしょう?」
何も言ってないのに、相変わらず見透かさせる。
「大丈夫よ~。なるようにしかならないわ~」
「………あぁ……」
修哉はゴロンと仄のお腹の方に向き直ると、ギュッと抱き寄せるように彼女の柔らかい体を掴む。
「…………」
獅子王と呼ばれる彼女を手懐けた女だ。流石、格が違う。
正確には「弱視」だった。視力がほぼ皆無で、光の入り具合が上手く調整出来ず、光源で照らされれば脳までチカチカと点滅するような衝撃に襲われる。
代わりに得たのが、この暴力。
「ば……かな……ワシは…この辺で一等強い……はず………」
欠けた墓石のような石に、鮮血が滴る。漸哉の右手には、裂かれた中妖怪の半身が握られていた。
それを捨て、握った拳で顔を潰す。
パァンッ!と人が出せるとは思えない音を出しながら、中妖怪の頭部は弾け飛んだ。
「お疲れ様です漸哉様~」
「……あぁ」
漸哉は手に着いた中妖怪の残骸を、本体だったもので拭う。
「……帰るぞ。小夜」
「……へへ……うへへ……あっ、あっ……」
目線の先にいる小夜は、漸哉が殺害した中妖怪の、その撒き散らした残骸を頭から被っており、目の標準が定まっておらず、口は開いて唾液がたれていた。体はガクガクと震えており、足元はふらついていた。
「………ふん」
毎回こうなっているが、立っているからこれでも意識はあると判断できる。絶頂したまま着いてくるだろう。
気に食わない。どこまで行っても何もかも。
「うっわ……おい見ろよ……」
「血だらけじゃねぇか……」
「なんか監視役の様子へんじゃないか?」
帰還するや、神守達はヒソヒソと声を抑えて話し出す。
「漸哉さま~、どうします?殺します?」
「……止めろ。どうせ六武衆が出張ってきてまた抑えられる」
惑香を止めた漸哉はそのまま報告に行く。
入口に控えている神守を退かし、白獅子の執務室に無理やり入る。すると、そこには父親の他に長い白髪の美女と見間違う男がいた。
……知っている。確か「三姫」の専属監督をしている男だ……名前は確か…
「神野だったか?『神野 時千穂』。あんたみたいな優男が何の用だ」
「……おい」
執務机の向こう側で父親が咎めるように声を出すが、神野は穏やかな笑みでまぁまぁと手を振ると、こちらに向き直る。
「これは漸哉殿。いやはや失礼。貴方の父君と少々お話がありまして。『巫女』の方針と『神守』の方針の確認と言いますか、何分神宮全体を見据えたお話でしたので少々込み入ってしまい……」
「興味無いな」
「それは失礼。用事は済みましたので、私はこれで」
右目の下にひび割れのような傷のある顔を穏やかに微笑ませ、白獅子に一礼すると執務室を出ていった。
神野が執務室を出たあと、空気は最悪になり殺伐とした。
「……で、テメェが押し付けた面倒事は終わったぜ。文句はねぇよな」
巨躯な身体で威圧するように報告する漸哉、しかしそれを鋭い目で見返す修哉。
「……神守達を半殺しにしたようだな」
「連中が気に食わねぇんだよ。雑魚は嫌いなんだ」
「……妖怪は何体殺した」
「知るか。いちいち数えるかよ」
「お前な…」
遮るように漸哉が言葉を合わせる。
「追い出してぇならそういえば良いだろうよ」
漸哉は足を机に乗せてズンッと修哉に詰め寄る。
「次期『墓守の長』候補になってる姉貴がいれば十分だろうよ。元六武衆『御影』様の後継。それでテメェの箔に泥塗るような俺が消えれば満足なんだろう?」
「そういう訳ではない。お前は少し自身の力を自覚……」
「貰いてぇなんて頼んでねぇよ」
片目から殺気のような気配が溢れる。実の父親に向けてだ。
「……話は終わりだ。俺は戻る」
ガチャガチャと鎧具足を揺らして執務室を出る。寸前、修哉に呼び止められた。
「あまり殺すな」
ピタッと歩みを止めると、漸哉は獰猛な殺気を込めた言葉を恨み節のように吐く。
「テメェは散々殺しておいてか?」
執務を終え、白獅子……谷透 修哉は足早でとある部屋へと向かう。
ガララっ!と勢いよく扉を開けるとそこには……
「あらあら~お帰りなさいアナタ~」
花が飛んでいるのが見てるぐらい穏やかな笑顔が飛んできた。
髪の毛はゆるーく結んで肩から正面に流すように置いてあり、ベージュの落ち着く色合いをした衣服に、同系色の肩掛けをつけた彼女は、穏やかな笑みで編み物をしていた。
「あぁ………」
白獅子の外套を丁寧にかけ、黒いインナー姿になると、近くに座る。
獅子を手懐けた聖女。谷透 仄である。
そして、いつも気が付くのは彼女の方なのだ。
「あら~?なにかあった~?」
ほわわ~としたトーンで話す仄に修哉は答える。
「いや、特に……」
途端にグイッと抱き寄せられ、無理やり膝枕をされる。柔らかな手で修哉の頭をなでなでする仄。
「こ~ら~、またそうやって抱え込む~。アナタと言えど怒っちゃいますよ~?ぷんすか」
「…………」
修哉は答えない。
「漸哉の事でしょう?」
何も言ってないのに、相変わらず見透かさせる。
「大丈夫よ~。なるようにしかならないわ~」
「………あぁ……」
修哉はゴロンと仄のお腹の方に向き直ると、ギュッと抱き寄せるように彼女の柔らかい体を掴む。
「…………」
獅子王と呼ばれる彼女を手懐けた女だ。流石、格が違う。
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