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迎撃
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さて、迎撃準備か。
タワーマンションの一室で、真葛は首元のコインを弾きながら目の前に正座している数人の男女を見据える。年齢もバラバラで、全員どこか怯えた様子をしているが、当然だ。
彼らは真葛にかつて何らかの依頼をしたにも関わらず、料金を未だに払えていない人達だからだ。
真葛は首元のコインを弾いて思考を巡らす。寧が失敗したのは良い、それに手元に100万もある。ま、妥当な金額だろう。つまり、あの寧に「二度と戦わせたくない」と思わせるほどの人物が、現在の依頼人である南雲文幸の敵、北河景字という訳だ。少なからず近いうちに攻めてくるだろう。恐らくは少数精鋭で。ならばこちらは彼らの本拠地である事務所を攻めてみようと真葛は考えていた。
……そのために彼らを用意したのである。
「さて、最初に言わせて頂こうかな。おめでとう、元依頼人の方々。君達は条件を満たせば、僕へ依頼した料金はタダにして差し上げるよ」
……え?っといった雰囲気の男女数名。中には喜びの感情を顔に出す人までいた。真葛は続ける。
「条件というのは、これ。これを食べて貰いたい」
澪がテーブルの上に人数分きっかりのクッキーのようなものを配置した。一気に怪訝な顔になる男女に向かって真葛は泥を垂らすように言葉を垂れ流す。
「大丈夫、これを食べても死んだりしないから。僕は見ての通り芸術品や良いモノが好きでね。このクッキーも一応イイモノなんだけど、何せ初めてだからね。僕は不味いものを口にしたくないから、代わりに試食して欲しいって事だよ」
あまりにも都合が良いような言葉だが、真葛ならやりかねないと男女数名の彼あるいは彼女たちは知っている。何せ、あの真葛に依頼をしていた人達だ。彼の性格は彼ら自身がよく知っているだろう。
「さぁ、どうぞお召し上がり下さい」
まるで人形のように美しい澪に催促され、少しずつクッキーを口にする男女。
「……お、美味しいな…」
「…これ、美味しいですよ!真葛さん!」
真葛は表情を和らげるとこう言った。
「そうですか、それは良かった。元依頼人の方々、これで条件は達成です。僕への依頼料は払わなくてよくなりました」
真葛の言葉に喜ぶ男女……っと思いきや、男女は真葛の言葉に反応せず、一心にクッキーを食べ続けている。
「お゛お゛いじィィィィィなぁ!?!?」
「ほんどッ!おいぢィわぁぁぁッッ!」
クッキーを食べるにつれて男女は異様な外見と変形していき、ついには元の形がわからなくなるような外見になっていた。
「………さて、元依頼人方」
真葛はコートの内側から写真を一枚出すと、異形と成り果てた男女にそれを見せる。
「ここは『怪奇専門探偵事務所』って言ってね。ここを襲いなさい」
「ぎゃあっぎゃがががッッ!!」
「フシーッ!フシュウぅぅぅッッ!」
異形な外見となった男女数名は、写真を見たのち、各々タワーマンションを出ていった。
テーブルの上を片付け、食い散らかった食べかすをパッパと掃除した後、澪は真葛に尋ねる。
「真葛様、私には覚えがありませんが、これらは?」
「うん?アレは『死んだ人外の肉片を混ぜたクッキー』だよ。口内摂取で人外に成り損なうようにデザインした。ゾンビみたいに噛まれたりしても感染とかはしないから、捨て駒製作に画期的だろう?」
真葛は首元のコインを弾きながら続ける。
「真葛様が彼らのような『料金未払い者』を一部泳がせているのはこういう事だったのですね」
「そうだね。その気になれば彼らを金に変えるなんて容易いからね」
澪はアンティークでモダンなテーブルを念入りに吹きながら、続けて尋ねる。
「真葛様、彼ら本当に死なないのですか?」
澪が聞くと、真葛はさも当然のように答える。
「知らないね。僕は『アレを食べても死なない』って言っただけで、事務所にいる誰かしらに殺されないとは言ってないからね」
「なるほど、立て続けに失礼いたしました」
「うん、それじゃあ僕は準備をしておくよ」
そういうと、真葛は部屋の奥へと消えていった。暗い暗い、淀んだ瞳を浮かべながら。
タワーマンションの一室で、真葛は首元のコインを弾きながら目の前に正座している数人の男女を見据える。年齢もバラバラで、全員どこか怯えた様子をしているが、当然だ。
彼らは真葛にかつて何らかの依頼をしたにも関わらず、料金を未だに払えていない人達だからだ。
真葛は首元のコインを弾いて思考を巡らす。寧が失敗したのは良い、それに手元に100万もある。ま、妥当な金額だろう。つまり、あの寧に「二度と戦わせたくない」と思わせるほどの人物が、現在の依頼人である南雲文幸の敵、北河景字という訳だ。少なからず近いうちに攻めてくるだろう。恐らくは少数精鋭で。ならばこちらは彼らの本拠地である事務所を攻めてみようと真葛は考えていた。
……そのために彼らを用意したのである。
「さて、最初に言わせて頂こうかな。おめでとう、元依頼人の方々。君達は条件を満たせば、僕へ依頼した料金はタダにして差し上げるよ」
……え?っといった雰囲気の男女数名。中には喜びの感情を顔に出す人までいた。真葛は続ける。
「条件というのは、これ。これを食べて貰いたい」
澪がテーブルの上に人数分きっかりのクッキーのようなものを配置した。一気に怪訝な顔になる男女に向かって真葛は泥を垂らすように言葉を垂れ流す。
「大丈夫、これを食べても死んだりしないから。僕は見ての通り芸術品や良いモノが好きでね。このクッキーも一応イイモノなんだけど、何せ初めてだからね。僕は不味いものを口にしたくないから、代わりに試食して欲しいって事だよ」
あまりにも都合が良いような言葉だが、真葛ならやりかねないと男女数名の彼あるいは彼女たちは知っている。何せ、あの真葛に依頼をしていた人達だ。彼の性格は彼ら自身がよく知っているだろう。
「さぁ、どうぞお召し上がり下さい」
まるで人形のように美しい澪に催促され、少しずつクッキーを口にする男女。
「……お、美味しいな…」
「…これ、美味しいですよ!真葛さん!」
真葛は表情を和らげるとこう言った。
「そうですか、それは良かった。元依頼人の方々、これで条件は達成です。僕への依頼料は払わなくてよくなりました」
真葛の言葉に喜ぶ男女……っと思いきや、男女は真葛の言葉に反応せず、一心にクッキーを食べ続けている。
「お゛お゛いじィィィィィなぁ!?!?」
「ほんどッ!おいぢィわぁぁぁッッ!」
クッキーを食べるにつれて男女は異様な外見と変形していき、ついには元の形がわからなくなるような外見になっていた。
「………さて、元依頼人方」
真葛はコートの内側から写真を一枚出すと、異形と成り果てた男女にそれを見せる。
「ここは『怪奇専門探偵事務所』って言ってね。ここを襲いなさい」
「ぎゃあっぎゃがががッッ!!」
「フシーッ!フシュウぅぅぅッッ!」
異形な外見となった男女数名は、写真を見たのち、各々タワーマンションを出ていった。
テーブルの上を片付け、食い散らかった食べかすをパッパと掃除した後、澪は真葛に尋ねる。
「真葛様、私には覚えがありませんが、これらは?」
「うん?アレは『死んだ人外の肉片を混ぜたクッキー』だよ。口内摂取で人外に成り損なうようにデザインした。ゾンビみたいに噛まれたりしても感染とかはしないから、捨て駒製作に画期的だろう?」
真葛は首元のコインを弾きながら続ける。
「真葛様が彼らのような『料金未払い者』を一部泳がせているのはこういう事だったのですね」
「そうだね。その気になれば彼らを金に変えるなんて容易いからね」
澪はアンティークでモダンなテーブルを念入りに吹きながら、続けて尋ねる。
「真葛様、彼ら本当に死なないのですか?」
澪が聞くと、真葛はさも当然のように答える。
「知らないね。僕は『アレを食べても死なない』って言っただけで、事務所にいる誰かしらに殺されないとは言ってないからね」
「なるほど、立て続けに失礼いたしました」
「うん、それじゃあ僕は準備をしておくよ」
そういうと、真葛は部屋の奥へと消えていった。暗い暗い、淀んだ瞳を浮かべながら。
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