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月の下で貴方とワルツを②
2
しおりを挟む鬼灯の間。
ドアにはそう書かれていた。
中に入ると.....なるほど。
永将が言った通り、部屋中央にポツンと大きな樽が直立していた。そしてその上には麻布に包まれた物体が乗っかっている。大きさはサッカーボールくらいだろうか?
「なに、あれ」
「的だ」
「的?」
「お前が会うのは腐っても犯罪者。もしもの時のためにお前が異能をどれくらい扱えるか知りたい。俺もお前の腕によって対応を変えにゃならんし」
「だから的か....撃てばいいの?」
「あぁ、撃て」
永将の腕からひょいと降りた永利は慣れたように小さな拳銃を顕現させ、構える。
狙うは樽に乗っかる麻布に包まれた物体。永将は樽と的を用意しろと言った。なら狙うのは的であるあの麻布のはずだ。
距離も近すぎず遠すぎずの丁度いいもの。
自身なら簡単に当てられる。
「......」
狙いは定めた。
あとは引き金を引くだけ。
「っ??」
汗がこめかみを伝う。
引き金を引くだけ。引くだけなのだ。
なのに引けない。指が、動かない。
「どうした」
「な、な、ながまさ」
心配するような声音で問われた。だが永利は目を ''的'' から逸らさず、そして問に答える訳でもなく永将の名を呼ぶ。
「どうした」
再度永将が問うた。
「あの的....動いてない?」
「動く的もあるだろ」
「でも、なんか....」
「この距離、あの的の震え。お前には楽勝だと思ったんだが....」
(震え?アレは震えているのか?)
錯覚かと思った。なぜなら普通、的は動かない。動くとしても『震え』という言葉を使うのはおかしいだろう。
「で、撃たないのか?撃つのか?無理はしなくていいぞ。でもそうだな....時間もない事だし5秒待ってやる」
「待って、あの的なに?」
「的は的だ。....5」
「待って」
「4」
突然始まったカウントに焦る。撃てなかったらどうなるんだろうか?帰される??
(嫌だ、嫌だ!!帰りたくない!俺様は永将のようになりたい。だから――)
嫌な予感を噛み殺した。
震える標準をそのままに的を睨みつけた。
「2.....」
─────パンッ
撃った。撃った。
終わった。
「やるな。じゃあ当初の目的通り彼岸の間に行くぞ」
未だに的から目を逸らせない永利の視線を遮るように永将は永利を抱き抱えた。
「ぁ」
じわじわ、じわじわと
鬼灯の間のドアが閉まる間際まで、永利は麻布に広がる赤いシミを呆然と眺め続けた。
「そういえばお前の質問に答えてなかったな。裁決は悪人を監獄行きかどうかを決めるものなのかって。まぁ間違っちゃいない。執行人の裁決はマニュアルに則って悪人の罪を測り、監獄での刑期を決める」
「だがあくまでそれは執行人のやり方だ」
「お前は緋賀だからな、参考にするなよ」
永将の言葉は右から左へ通り抜けていく。今の永利は先程の『的』のことで頭がいっぱいになっていた。
反応のない息子の様子に永将はクツクツと面白そうに笑うと彼岸の間に足を踏み入れる。
ガチャン
鍵の閉まる音に永利は夢から覚めたように身体を跳ねさせた。
ノロノロと部屋を見渡す。
白い。全てが白い空間だ。窓はなく、天井に通気口が1つあるだけの白い部屋。
部屋の中央に5人の男が椅子に座らされていた。全員手足を拘束され、猿轡をはめられている。
涙に濡れた瞳、怯えを宿す瞳、憎悪に揺らめく暗い瞳、後悔に溺れた瞳、空っぽの瞳。
視線が突き刺さる。
怯えるように永将の肩に顔を埋めた永利だが、それを咎めるように頭を小突かれ椅子に降ろされた。
「ひっ....」
引きつった声が喉奥からこぼれる。永利が座らされたのは5人と向かい合うように設置された椅子だった。ここからは5人の顔が良く見える。いや、見えすぎてしまう。
悪人とは傲岸不遜で、嫌な奴で、それはもう憎たらしいまでにふてぶてしい奴なんだと思っていた永利は彼らの顔を真正面から見れなかった。
なぜなら、この5人は全く悪人っぽくないのだ。
間違えて連れてこられたと言われても納得出来るほど、普通に見えた。
「んじゃ始めるか。まずお前からだ」
────パシュッ!
永将の手に持つ拳銃から放たれた1発は1番左に座っていた男の猿轡を掠め、猿轡は音を立て床に落ちた。
「6人の死傷者を出した理由を言え」
永利に数枚の資料を手渡しながら永将は目の前の男に冷めた視線を向ける。それは男を酷く萎縮させた。
「やっ、やってません!!....俺はっ、気づいたら死体だらけで.....!!だって、いつも通りだった!!周りも俺も!!そんな本当に知らない...知らないんだ....」
永利は手渡された資料に目を落とす。そこに書かれていたのは吐き気を催すほどの内容だった。
この男は自身の勤める会社で異能を始動。同僚・上司含め数名を壊した。
資料に添付された写真には壊された被害者達の姿が載っている。人形のように手足を折られた姿。捻れた上半身。
あまりの凄惨な姿に吐きそうだ。
「嘘を言うなよ。この写真が証拠、テメェが死体のそばで突っ立っていた写真もある。ひでーなァ。コイツらは弄ばれたように手足を折られている。知らないじゃ済まされねぇよ?楽しんだだろ」
「楽しんでなんて――」
「テメェ、口元ニヤけてんぞ」
─────パンッ
乾いた音。
男は動かなくなった。
永利は目の前で行われた命を奪う行為に言葉を失う。
その後も永将の裁決は続いた。
2人目は若い男で、怯えを貼り付けた顔で彼は懇願した。
「やらされたんだ!!俺はっ、アイツらに!!なぁ頼むよ緋賀様....俺は何も悪くないんだ。三輪が俺を脅して――」
「二戸の次は三輪か。多重人格を装いたいならもう少し上手くやるべきだな。....テメェ前回と言ってること全く同じだぞ」
銃声。
改心したと判断され監獄から出された男。彼は2人の子供を手にかけ、数ヶ月ともたずここに舞い戻り、そして死んだ。
3人目
男は支離滅裂なことを言い続け、最後は恨みの篭った目で永将を睨み、死んだ。
とある名家に忍び込み、一家を惨殺。ついぞその動機は明かされることがなかった。
4人目
5人目....
全てが終わった頃にはもう、永将と永利しか残っていなかった。
全員死んだ。監獄に送られることなく、この場で命を奪われた。
「感想は?」
感想.....?
「....死んで当然の奴らだとは思う。でも、死ななくても良かったんじゃないかとも思った。監獄に送れば....まだ....チャンスはあったはず。――え?」
たじろぐ。永将が目を見開き、驚いたように自身を見下ろしていたのだ。滅多に見ないその顔に足が下がる。
「お前、優しいな。本当に俺の子か?」
「?、?」
「まだこれだけじゃ足りねぇのか。.....よし、しばらくはこの裁決を続けんぞ。明日も連れてく。あ、今日のこと....というか、仕事内容は誰にも漏らすなよ。もちろん真奈斗にも」
「わ、かった」
「んじゃ送る」
永将に抱えられる。すると椅子に座った5人の男達の姿が自然と目に入った。
その中で1人、天を仰ぐように死んだ男に目が釘付けになる。男の額から、頬、顎、そして首筋へと赤い線路ができていた。
その様に既視感を覚える。
(......どこかで見た光景だ....どこ、だっけ)
永利の頭に『樽』と『的』が過ぎり、ぶるりと身体が震えた。
それを「まさか、そんなはずない」とかぶりを振り打ち消し、怯えるように永将の肩に顔をうずめた。
「ぅ''......っ」
だが、目を閉じても麻布から赤いシミが広がる光景が消えず、永利は静かに泣いた。
真実は分からない。ただ....どうしようもないほどの喪失感に涙が流れた。
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