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第十四章 死を願うより生きる痛みを
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しおりを挟む目が覚めると知らない天井だった。
.....いや、知ってるな。何度かここで寝起きしたことがある。忌々しい巣ごもり部屋だ。
確か昨日は――
シャワーに長い時間あたって浴室を出たけど、あまりにも疲れてたもんだから、身体拭くのもそこそこに備え付けのバスローブをまとってベッドで寝た....んだよね?
「うぅ、まだ頭がぼーっとする。身体も重い」
起き上がるのも億劫に感じる。でもいつまでもここで寝ているわけにはいかないから仕方なく身体を起こした。
身なりを整えてやるべき事をしなければ。
服は....あれ、僕の服が置いてある。あと、変装セットも。
「そういえばヒナちゃんが居ない.....服だけ置いてってくれたのかな?」
この場にいないヒナちゃんに感謝を述べて、重い身体でなんとか身支度する。いつもより何倍も時間をかけて軍服を纏い、洗面所で変装チェック。
「うわぁ、顔色わっる」
ウィッグの前髪を持ち上げると死人のように顔色の悪い自分の姿が映った。血の気を失っている。そして目もなんか暗鬱としていて、生気がない。
前髪を戻し眼鏡をかける。今日は人前で変装は絶対に解かない。ヒナちゃんの前でも。
よし、行こう。
「.....ん」
玄関に向かおうとして、だけど足元がふらついて咄嗟に壁に手をつく。顔を洗っても頭はまだボーッとしてるみたい。
....これくらいなら大丈夫、大丈夫。ちょっと不思議な感覚がするだけだし。気にせずさっさと風紀室へ行こう。
寮から校舎へ。時間はちょうど昼に差しかかる頃で、授業を終えた生徒達がぞろぞろと食堂に向かうところだった。
食堂....昨日の惨状からどうなっているのだろうか?血肉と血潮に床は赤く染まり、戦闘によってテーブルや椅子の多くが粉々になっていた気がする。
気づけば僕の足は食堂へと向かっていた。
「はぁしんど。なぁ、さっき返却されたテストどうだった?俺最後の応力求める問題完璧だと思ってたら計算間違えててさぁ。式合ってるのに計算違うのめっちゃ悔しくね?」
「昨日は快楽殺人鬼のせいで四川ソーメン食い損ねたから今日こそ....!!」
「そういやお前が騒いでた『シェフの気まぐれ しらす丼』のレシピ手に入れたぜ。次の昇級試験俺の有利になるように動くってんならあげてやらんこともないぞ?」
「そういや最近あのバカップル見ないよな」
「バカップルだから食堂に来ないんじゃねぇの?」
「2人とも自殺したんじゃなかったか?」
「今日は平和に最後まで昼飯食えますよーに」
「神谷先生まじ厳しい.....美形には優しいんだよなあの人」
「明日の卒業式を乗り切れば春休みだ....!早く実家に帰って友達に会いたいぜ」
「3年の先輩に知り合い居ないから欠席しちゃダメかなぁ卒業式」
「学年上がるってことは.....あ~部屋移動しなきゃなんねーじゃん。誰だよこんな面倒臭いルール決めたヤツ.....」
食堂へ向かう道中、耳に入ってくる会話は日常会話のようで、胸がザワつく。なんで、話題になっていないんだろう?
文ちゃんの死は、チビちゃんの死は.....彼らにとって日常に埋もれる程度の価値しかないのか?
「ギャハハハ!お前それっ、まじウケるww」
「昨日見たテレビでさぁ――」
「ねぇ!今日の緋賀様なんか、陰があって危ない色気出てなかった!?」
「はぁ~、最近そのゲームログインしかしてねぇわ」
「よし!俺は今日カレーにするぞ!!」
「もうすぐ新入生入ってくるじゃん?親父に聞いたんだけど五大家が揃うのって滅多にないらしいぜ。....え、中等部で既に揃ってた??俺高等部からの入学だから知らねー」
「あっ、俺のエビフライ取んなよ!!?」
「1個下のヤバい奴らとまた顔合わせることになるとかマジ勘弁....」
「なぁ!!昨日のヨラたんの配信見た!?はぅわ可愛すぎて死ぬかと思った!!」
食堂にたどり着くとそこには変わらぬ光景が広がっていた。血塗られ、破壊された戦闘痕はもとからなかったように消え失せ、生徒達が談笑する姿が目に入る。
ワイワイと騒々しく、うんざりするほど続く日常の一部。安息の時間。....彼らが浮かべるのは陰の顔ではなく、陽の表情。
喧騒の中にいるはずなのに、薄膜張った壁が目の前にあるみたいに音が遠く聞こえた。
頭がふわふわする。
胸に穴が空いているみたいだ。
感覚が鈍い。
彼らが眩しい。
今、この光景を見るのは辛い。
「副委員長!!お、おぉお身体はだっ大丈夫ですか!?」
「......あれ、赤鼠じゃないですか。珍しく食堂で昼食ですか?ちょうど僕は食べ終わって、今から風紀室へ行こうと思ってたんです」
「えっ??あ、ぁああの!ここが風紀室です!」
風紀室?
......あ、本当だ。見慣れたデスクと書類の山達、ここには陽の表情浮かべるものは居なくて、みんな疲れた顔をしている。
僕はいつ風紀室へ来たのだろう?
「きょっ今日はお休みになられたほうが.....」
「どうして?.....委員長はどこに居ますか?」
「い、ぃい委員長は今ご不在で.....」
─────ガシャーン!!
「......僕に何を隠しているのです?」
「な、なっ、なにも隠してません!!」
風紀委員長室から物を叩きつけるような音が聞こえたのに何も隠してませんは無理がある。
眼鏡越しにジーッと赤鼠を見つめる。すると赤鼠の挙動不審さが普段の5割増しになり、あわあわと風紀委員長室と僕の間を何度も視線が行き来した。
隠す気ないでしょそれ。
「もういいです。そこどいてくだ────」
「赤鼠、今日の湊都のお見舞いどうする、どうする?」
そこへ茶牛がやってきた。『湊都』の単語に口は自然と閉口し、足元がグラつく。平衡感覚を失ったみたいに天地がひっくり返り、バランスが崩れて.....あ、やばい倒れ――
「副委員長、大丈夫......大丈夫?」
優しい眼差しが僕を見下ろしていた。
バクバクと音を立てる心臓を悟られぬように、ソッと逞しい腕から逃げる。
「.....ありがとうございます茶牛。ちょっと目眩がしてしまいまして、助かりました」
「あぁああの!!やっぱり今日はっおおぉお帰りください!副委員長はご友人を亡くされたばかりです!ここに来るべきではありません!!」
「そういう訳にはいかないでしょう。僕は副委員長なんですから」
「副委員長はもう1人いる。もう1人いる....から一条副委員長は休んで。湊都も休んでる」
「......ですが」
「なっ、なら湊都のお見舞いに行ってください!部下のメンタルケアも仕事の内!ですよね.....?」
.......兎君に合わせる顔のない僕には到底無理な話だ。
だけど食堂での事件を詳しく知らない2人に察しろとは言えないから、僕は大人しく背を押されるがまま風紀室を後にした。
さて、どうしようか。
教室には瀧ちゃんとフー君が居るから行けないし、自室は余計なことを考えちゃうから居たくない。
「......」
兎君は学校を休んだのか.....。まぁ無理もないよね。彼は文ちゃんと仲が良かったから。
.....なんで今、僕は他人事のように考えているんだ?
僕だって当事者だろうに。悲しみだって、憎しみだって、怒りだって、自責の念だって感じる。
感じている――のに、
どれもこれもが遠い。
なんだか自分を俯瞰して見ているみたいだ。自分の感情のはずなのに、他人事のように思える。
───ブー
廊下に立ち尽くしていると、ポケットからメールを知らせるバイブ音が微かに聞こえた。
これ幸いと思考を振り払うようにスマホに飛びつく。
差出人は星菜の老公。
『斎良はどうかね?』
簡潔に訳せばそう書かれていた。
そういえば僕は星菜 斎良の性癖を歪めようとしていたんだっけ?色々ありすぎて忘れていた。
.....そうだ。ちょうどいい、やるべきこともないし今日それをやろう。今は面倒事で頭をいっぱいにして、余計なことを考えないようにしないと。
一度部屋に戻る。
実は星菜先輩についての情報を老公とやり取りしている内に、僕が考えていた方法では星菜先輩を矯正できないのではという疑念が湧いた。一応ヒナちゃんに録音してもらったレコーダーを持っていくが、もしかしたら使わないかもしれない。
ちょっとした不安を抱えながら再度部屋を出て、忘れ物はないかな....と少しドアの前で考える。そこでふと、近くに人の気配があることに気づき、のろのろと顔を向ける。
そこには1人の生徒が息を荒らげながら立っていた。乱れたグレーの髪を梳くようにかきあげながら左耳にかけ、顰めっ面でこちらを見る――
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