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番外編 内緒のバイトとやきもちと
10
「深森……」
どうしてここが分かったの? とか聞きたかった。でもなんだか胸がいっぱいで、ぎゅむっと抱きしめてくる腕に自分の腕も巻き込んでぎゅっとし返すことしか出来なかった。
深森がいつになく甘えたな仕草で、頭を卯乃の肩口に押し付けてくる。愛おしくて胸がいっぱいになる。
「聞きたいこと、沢山あるよ」
「俺もだ」
すぐに汗が首筋を伝う程の蒸し暑さだが、この腕を離したくない。
ちょうど五時を知らせる鐘がなった。シフトが終わるまであと30分もある。
「……戻んなきゃ」
無言で腕を解いてきた深森の袖を引っ張って、卯乃はわざと外階段を選んで登る。
店のあるビルの裏は駐車場になっていて人目に付きにくいと知っていたからだ。2階の踊り場まで来ると、卯乃は後ろから着いてきた深森に向き直った。
(さっきの話、聞こえたのかな)
深森も何か言いたげな顔だ。普段は猫らしくパッチリしつつも切れ長の瞳を睨みつけるように細め、むっつりと黙っている。
「あのね」
なにか喋ろうと口を開いたのに、熱風が吹き上がり邪魔をして卯乃の髪と耳を揺らした。
「ぷはっ」
耳が一瞬口に入ってしまいくしくしするような仕草になった卯乃に、深森はふっと表情を緩めながら耳や髪を優しく撫ぜてくれた。
「うっ」
何故だか分からないが、多分安堵の涙が溢れてきてしまう。
「なんで泣いてるんだよ」
「だって……、深森、怒ってるような気がしたから」
正面から抱き寄せられ、Tシャツの胸に顔を埋める。バイト中に、サボって、彼氏と抱き合ってなんて許されることじゃないと、頭では分かっている。だけど心は今すぐ深森を求めてたまらなくなる。
しがみついていた卯乃の顔を両手で包み込むと、深森は卯乃の涙を拭った後、はぁっ、と大きくため息をついた。
「怒ってねぇよ」
呟いて潤む瞳で見上げる卯乃の唇にキスをしてくれた。触れるだけで、リップ音だけは大きなキスだ。
「自分で勝手に色々思ってただけ」
「そっか。オレも」
暮れてきた太陽に照らされて、お互い顔が赤くなっているように見える。
1回だけじゃ足りない。自分からもキスしたいけど、小さな卯乃からは出来ないのだ。
だから目を瞑って懸命に唇をつきだす。
そっと触れてくる深森の柔らかな唇の感触に卯乃は満足して恋人の目を真っ直ぐに見つめた。
深森の瞳は一層輝いて、見惚れた卯乃は思わず「深森、大好き。来てくれてありがとう」と呟いた。
すると「はあーっ」と大仰な仕草で深森は息を吐くと、卯乃の両肩に手を置いてぐいっと身体を引き剥がしてきた。
「くそっ、そう来たか、ズルいな」
「なにが?」
なんだか悔しそうな仕草で口元に手をやる深森の顔は夕焼けのせいだけでなく照れているようにも見える。
「その一言だけでさ……」
深森が何を言うのか卯乃は瞳を揺らしながら固唾を呑んだ。
「お前にどんだけ惚れてるかって、思い知らされた」
正面切って言うのが少し照れたのか、少しだけ斜に構えて、とびきり色っぽい流し目を送られる。
卯乃の方こそメロメロになってしまいそうだ。
再び磁石のように引き寄せられかけた2人の前にぬーっと現れた大きな人影が現れる。
「おーい。深森、卯乃ちゃん。そろそろ戻ってこい。仕事しろってお兄さんが呼んでるぞ」
「わ、まずい。戻んないと」
慌てて店内に踵を返す卯乃と友人を見つめながら深森は口元に拳をやって目を見開いた。
「兄さんって言ったか?」
どうしてここが分かったの? とか聞きたかった。でもなんだか胸がいっぱいで、ぎゅむっと抱きしめてくる腕に自分の腕も巻き込んでぎゅっとし返すことしか出来なかった。
深森がいつになく甘えたな仕草で、頭を卯乃の肩口に押し付けてくる。愛おしくて胸がいっぱいになる。
「聞きたいこと、沢山あるよ」
「俺もだ」
すぐに汗が首筋を伝う程の蒸し暑さだが、この腕を離したくない。
ちょうど五時を知らせる鐘がなった。シフトが終わるまであと30分もある。
「……戻んなきゃ」
無言で腕を解いてきた深森の袖を引っ張って、卯乃はわざと外階段を選んで登る。
店のあるビルの裏は駐車場になっていて人目に付きにくいと知っていたからだ。2階の踊り場まで来ると、卯乃は後ろから着いてきた深森に向き直った。
(さっきの話、聞こえたのかな)
深森も何か言いたげな顔だ。普段は猫らしくパッチリしつつも切れ長の瞳を睨みつけるように細め、むっつりと黙っている。
「あのね」
なにか喋ろうと口を開いたのに、熱風が吹き上がり邪魔をして卯乃の髪と耳を揺らした。
「ぷはっ」
耳が一瞬口に入ってしまいくしくしするような仕草になった卯乃に、深森はふっと表情を緩めながら耳や髪を優しく撫ぜてくれた。
「うっ」
何故だか分からないが、多分安堵の涙が溢れてきてしまう。
「なんで泣いてるんだよ」
「だって……、深森、怒ってるような気がしたから」
正面から抱き寄せられ、Tシャツの胸に顔を埋める。バイト中に、サボって、彼氏と抱き合ってなんて許されることじゃないと、頭では分かっている。だけど心は今すぐ深森を求めてたまらなくなる。
しがみついていた卯乃の顔を両手で包み込むと、深森は卯乃の涙を拭った後、はぁっ、と大きくため息をついた。
「怒ってねぇよ」
呟いて潤む瞳で見上げる卯乃の唇にキスをしてくれた。触れるだけで、リップ音だけは大きなキスだ。
「自分で勝手に色々思ってただけ」
「そっか。オレも」
暮れてきた太陽に照らされて、お互い顔が赤くなっているように見える。
1回だけじゃ足りない。自分からもキスしたいけど、小さな卯乃からは出来ないのだ。
だから目を瞑って懸命に唇をつきだす。
そっと触れてくる深森の柔らかな唇の感触に卯乃は満足して恋人の目を真っ直ぐに見つめた。
深森の瞳は一層輝いて、見惚れた卯乃は思わず「深森、大好き。来てくれてありがとう」と呟いた。
すると「はあーっ」と大仰な仕草で深森は息を吐くと、卯乃の両肩に手を置いてぐいっと身体を引き剥がしてきた。
「くそっ、そう来たか、ズルいな」
「なにが?」
なんだか悔しそうな仕草で口元に手をやる深森の顔は夕焼けのせいだけでなく照れているようにも見える。
「その一言だけでさ……」
深森が何を言うのか卯乃は瞳を揺らしながら固唾を呑んだ。
「お前にどんだけ惚れてるかって、思い知らされた」
正面切って言うのが少し照れたのか、少しだけ斜に構えて、とびきり色っぽい流し目を送られる。
卯乃の方こそメロメロになってしまいそうだ。
再び磁石のように引き寄せられかけた2人の前にぬーっと現れた大きな人影が現れる。
「おーい。深森、卯乃ちゃん。そろそろ戻ってこい。仕事しろってお兄さんが呼んでるぞ」
「わ、まずい。戻んないと」
慌てて店内に踵を返す卯乃と友人を見つめながら深森は口元に拳をやって目を見開いた。
「兄さんって言ったか?」
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