ミモザの恋が実る時

天埜鳩愛

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番外編 エンゲージ(瑞貴視点)

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※※※

 ブレスレットを見ると思い出す。あの運命の日曜日の少し前にバレンタインがあった。
 男子校に通っている俺の周りでも彼女持ちはそれなりに盛り上がっていたが、俺は俺の目の届かない場所で八広が女子からアプローチされてくることが一番恐れていたから、気が気じゃないイベントだ。
 だけど神は勤勉に生きる俺に味方してくれて、ちょうどその頃、八広の通う県立高校は入試に重なるので在校生はお休みに入る。
 それはイコールバレンタイン当日が休みになるということだった。
 願ったり叶ったりだった。とはいえ、バレンタイン前後に八広に告白してくる女子がいないとも限らない。
 学校が離れてからも八広の時間が許せば毎日夜に通話して、それとなく八広の交友関係を探る。
 同じ中学から進学した人はもちろんの事、お陰で弁当を食べる仲間、癖のある先生までがっつり名前を憶えたほどだ。
 八広はお洒落で可愛くて会話も上手で気も利く。八広に言わせると俺はモテまくると言われてるけど、きっと俺は女子を退屈させる自信しかない。実際にモテるのは絶対、会話が楽しい八広の方だと思う。俺は毎日でも会って話したいけど夜に通話するので我慢してる。毎日会えている奴らが羨ましすぎる。
 俺の八広は魅力的だって、俺が一番良くわかってる。女子が見逃すはずがない。

「八広、……入試休みの機関からバレンタインはなんか予定はいってる?」
「あー、入試休みなあ。沢山バイトを入れられたから嬉しい」

 俺の気も知らず、八広は通話中って呑気なものだった。

「……バレンタイン当日は?」
「バレンタインに予定なんかあるわけないじゃん。瑞貴こそ中学の時みたいに、門の外で待ち伏せされるんじゃないか?」
「その日さ、会わないか? ちょうど予定が空いてるんだ」

 なんて無理やり開けた予定だけど、八広は何とも思わなかったのか「分かった」と頷いてくれたからほっとした。

 バレンタイン当日。
 俺はバイト帰りの八広を地元のカフェに呼び出した。八広は手作りのお菓子が入っているらしいお店のロゴはない可愛い紙袋を幾つも下げて帰ってきた。
 目に入った瞬間、胸が焼けるほどに焦れてたまらなくなった。

(八広、八広。その紙袋、きっとチョコだよな。バイト先で貰ったのか? 手紙が入っていなかったか? 
 バレンタイン、俺以外と会う約束をした? 呼び出されて告白とか、されてないよな?)

 俺は今すぐにでも詰問したい気持ちを抑えて微笑んで労う。

「バイトお疲れ」
「あんがと」

 八広もあっけらかんと笑って一緒にカフェに入った。
 意気地のない俺は八広にちゃんとしたチョコレートを渡す勇気はない。

「今日、俺が奢るよ。これはどう?」

 目の端に入っていたのは、バレンタイン限定のチョコレートの飲み物。それだって声をかけるとき、少しでも気取られないかって、いややっぱり俺の想いを少しでも気づいてくれたらいいなって、どちらも思えて胸が少しチリチリ痛む。

「ええ、いいよ。今日は俺が奢る」
 
 俺は自ら進んで、バレンタイン限定のラズベリーソースのかかったショコラのドリンクを選んだ。

「瑞貴甘いの苦手なのに、平気なのか?」

 なんてとびきり可愛い上目づかいで笑った。実際、俺は甘いものは得意ではない。
 だけどどうしても今日は八広からチョコレートを貰いたかった。それがショコラのドリンクでも。だからそんな姑息な作戦を決行してしまったんだ。

「なあ、じゃあ。八広のは俺に払わせて」

 八広はきょとんって大きな目を見張る。

(変なことをいったか? 駄目か? 俺もお前に、ショコラを奢りたいって……)

 大事過ぎて、壊せないこの関係。続けたい、でも先に進みたい。
 こんなぐらいのアプローチじゃ、好意を向けられることに鈍い八広には伝わらないって分かってる。これは俺の自己満足だって分かってるけど。

「じゃあ、俺はこっちにする」

 八広の細い指がチョコまでかかって一段と甘そうなドリンクを指さす。無邪気に微笑んで「やった。ありがと」って喜ぶ。俺は頬が緩まるのを何とか抑えた。
 ホワイトチョコが溶けた温かい飲み物を選んでた。上にはクリームまでどっさりのって、さらにパラパラと削ったピンク色のチョコが散らしてある。甘い、きっと甘すぎる。八広は嬉しそうに飲むから、見ていてこちらも楽しくなるけど。

 席に移動して、甘い香りが漂うカップに八広が口を付けた。白いクリームが唇につく。八広の唇はちょっと薄めで、良く笑う口はちょっぴりだけ大きめだ。
 傍に居たら触れたくて仕方なくなるから、無意識に手が動く。俺は八広の唇の端についたクリームを指でなぞろうとした。
 八広に触れる口実があるなら何だっていいんだ。
 いつもしていることだけど、八広は恥ずかしそうに頭を後ろに引いて、自分の手の甲でグイって口を拭う。 

「あいつ、今日シフト入ってる」

 ここのカフェは俺たちの中学の地元だから、働いている中に同級生がいるんだ。それが少し、忌々しく感じた。

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