姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛

文字の大きさ
3 / 22

3

しおりを挟む
「上花会に出る気満々の癖に、相手がいない人なんて聞いたことがない。通りで俺と衣装を揃えようなんて意味わかんないこというと思ったよ。姉さん色んな人からひっきりなしに遊びに誘われてたよな? あいつらの中から申し込む奴いなかったのか?」
「それは全部断ったわ。遊びに行くには愉快な人がいいかもしれないけど、シュファの相手に見た目で勝てるような人はそういないもの。だから、ユーディア。よく聞きなさい。エドゥアルドが私を上花会のパートナーに誘うようにしむけてちょうだい」
「はあ? なんで俺が」

 聞く耳すら持ちたくなくて踵を返そうとしたら、姉が爪を立ててぎりぎりと腕を掴んできた。

「待ちなさい」 

 いつかは彼の名前が出るとは思っていたが、いよいよ気乗りがしなくなった。ユーディアは姉の手を振り払って彼女を睨みつけた。

「……シュファに対抗するためだけに、エドと上花会に出たいのかよ」
「エドゥアルドったら未だに私にパートナーの申し込みをしないのよ。お祖父様が決めて下さった私の婚約者なのに」

 まるで親友が一方的に悪いような言われ方だ。ユーディアの頬はかっと熱くなり、姉とよく似た形の眉をぴくりと動かした。

「婚約者かもしれないけど、エドと姉さんが親しくしていたことなんて、この数年一度でもあったか?」
「エドゥアルドは難しい話しかしないから退屈だけど、見た目は誰が見たって素敵だって思うでしょ。褐色の肌も逞しい背丈も黒髪も凛々しくて美しいもの」
「はー。そうかよ」
(姉さんは全然分かってない。エドの逞しさはお飾りじゃない。どんな荒地の人々も飢えから救うって目標を持って、植物の品種改良魔法を実地に出向いて調査して鍛えられているんだ。それを見た目がどうこうとか、本当に馬鹿馬鹿しい)

 そう怒鳴りつけてやりたかったが、ぐっと堪えた。

「エドは質実剛健、武芸に優れた南部の一族出身で、今は植物学一直線だ。自分から女の子を誘うような性格じゃないだろ。そんなにいうならリリーが自分から誘えばいいのに」
「はあ? なんで第二百二十二期生で一番の美女である私が誘わないといけないのよ」
「リリーが遊び歩いて不誠実なことしてるから。エドはとっくに誰かべつの娘、誘ってるかもよ?」

 親友と疎遠になるほどに。他の誰かに夢中なのかもしれない。
 ずっと抱いていた疑念はユーディア自身、面白くない気持ちになって飲み込んだ。
 だがその当てこすりも厚顔な姉には効かないようだ。

「ふん。エドゥアルドはまだ誰も誘ってないわ。石付きの鍵持ちの美形が誰を選ぶかは皆が注目してるから分かるのよ。一応、あんたもその端っこにいるみたいだけど。そんなちっぽけな石でも一応は石づき鍵だものね」

 通常魔法使いの試験に受かったとして、初めは銀の鍵を手にするだけだが、上位の成績かつ、何かしら特殊な魔法を身に着けたものには魔石の付いた鍵が付与される。自分ではなく地味な弟が石付きの鍵を与えられてから、妬ましいのかリリールーのユーディアへの当たりは益々きつくなった。
 姉がいちいち誰かと張り合って自分の方が上だと見せつけようとするのは、心の底で自分に自信が持てていない証拠だろう。小さな頃から強引で我儘ではあったけど、ここまでねじ曲がってはいなかった。満たされていないのが顔にでているからどうしてもシュファより見劣りする。
 だが姉がどうしてこんな風になったのかユーディアには何となく分かるので余計に彼女を哀れに思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

記憶喪失になったら弟の恋人になった

天霧 ロウ
BL
ギウリは種違いの弟であるトラドのことが性的に好きだ。そして酔ったフリの勢いでトラドにキスをしてしまった。とっさにごまかしたものの気まずい雰囲気になり、それ以来、ギウリはトラドを避けるような生活をしていた。 そんなある日、酒を飲んだ帰りに路地裏で老婆から「忘れたい記憶を消せる薬を売るよ」と言われる。半信半疑で買ったギウリは家に帰るとその薬を飲み干し意識を失った。 そして目覚めたときには自分の名前以外なにも覚えていなかった。 見覚えのない場所に戸惑っていれば、トラドが訪れた末に「俺たちは兄弟だけど、恋人なの忘れたのか?」と寂しそうに告げてきたのだった。 ※ムーンライトノベルズにも掲載しております。 トラド×ギウリ (ファンタジー/弟×兄/魔物×半魔/ブラコン×鈍感/両片思い/溺愛/人外/記憶喪失/カントボーイ/ハッピーエンド/お人好し受/甘々/腹黒攻/美形×地味)

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

嫌いなアイツと一緒に○○しないと出れない部屋に閉じ込められたのだが?!

海野(サブ)
BL
騎士の【ライアン】は指名手配されていた男が作り出した魔術にで作り出した○○しないと出れない部屋に自分が嫌っている【シリウス】と一緒に閉じ込められた。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...