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「あんたもお祖父様にミルドーレを誘えって言われてるんでしょ? ミルドーレのお家は貴族じゃないけど魔法薬の事業を広げてきているし、王都で仕事を見つける足がかりになって良いんじゃない?」
「煩いな。俺のことはほっといてくれ。それにお前とエドの事に俺を巻き込むな」
「そっちこそ、今までずーっと、彼にべったりで私の邪魔をしてきたくせに、どうして親友が誘う相手すら知らないの?」
姉にぐさりと痛いところを指摘され、ユーディアはぐっと下唇を噛んだ。
「……知らないよ。最近はあまり会話してないから」
「ふうん? まあいいわ。絶対に『姉さんが誘って欲しそうだよ』なんて口が裂けても言わないでよ。そんな真似したら一生の恥だわ。いーい。向こうから申し込むように仕向けるのよ」
(姉さんプライドだけはフーリー山脈並なんだから)
「相手に気がない時はどうしたらいいんだよ」
「やり方ぐらい、あんたが考えなさい。彼の事よーく知ってるんでしょ? 親友なんでしょ?」
「そうだけど……」
ユーディアとエドゥアルドは、同い年で同性ということもあって、リリールーより先に父に引き合わされた。出会った直後から馬があって、寮のお互いの部屋で勉強したりボードゲームをしたり、時には朝まで語り明かして過ごすぐらいには親しかった。だけど夏の手前あたりから彼に避けられ始めたのだ。
最後に彼の部屋に泊まった晩、二人はちょっとした悪ふざけをした。
その日エドゥアルドは植物学の教授が秘蔵していた、希少な花酒を小瓶に少し分けてもらって帰ってきた。
研究用に貰った酒だったが、極上の酔心地を味わえると聞き、ちょっぴり味見をしてみようということになった。ユーディアは二舐めぐらいですっかり心地よくなってしまって、翌朝すごく気分良く目が覚めた。なんだかとても良いことがあったような、だけどそれを忘れてしまったような。少し切なくて幸福な余韻が感覚として残っていた。
だがエドゥアルドの寝台の上で目を覚ました時、すでに隣に彼の姿はなかった。
この後から彼に明らかに避けられはじめた。だからきっとユーディアは酔った自分が何か良くない行動を取ったのかもしれないと思ったが、その時の記憶がまるでない。
だが怖くて聞けず何をしたのか分かってないから謝ることすらできないのだ。
「またぼんやりしてる。いい? エドゥアルドの心を読んで、誘う相手がもう決まっていたら一時的に人の心を操る魔法をかけて私に申し込むよう仕向けなさいよ。一度誘ってくれさえすればもう、言い逃れは出来ないんだから」
「人の心を読んで、その上、相手の気持ちは無視して自分の思う通りに動かすのか。馬鹿馬鹿しい。どうかしてる」
「でも、私とエドゥアルドは婚約者同士なのよ。何がいけないのか分からないわ」
「……っ!」
だがどうしても彼女の言い分が正しいと思えない。正しい以前に姉が親友をまるで自分が着飾るための宝石か何かのように扱っていることに、腹の奥にふつふつと怒りが沸き起こった。だが同時に心の中に冷たく切ない風が吹く。
(……強引なお祖父様が南部の名門と縁を結びたくて無理やり推してきた縁談だ。二人が婚約者同志なのは事実だし。俺は口出しできる立場じゃない。いくらリリーより、ずっと、俺の方がエドの事を想っていたって……)
そんな風に考えて、ハッとした。
(な、何馬鹿な事考えてるんだよ。あいつは親友だろ。いや、エドにとっての俺は、今はどんな存在なんだろう。以前みたいに近くにいるわけじゃない。あいつが何を考えているのか分からない。でも、待てよ)
普段ならば我儘な姉のこんな馬鹿げた命令には乗らない。だが……。
「あんたもお祖父様にミルドーレを誘えって言われてるんでしょ? ミルドーレのお家は貴族じゃないけど魔法薬の事業を広げてきているし、王都で仕事を見つける足がかりになって良いんじゃない?」
「煩いな。俺のことはほっといてくれ。それにお前とエドの事に俺を巻き込むな」
「そっちこそ、今までずーっと、彼にべったりで私の邪魔をしてきたくせに、どうして親友が誘う相手すら知らないの?」
姉にぐさりと痛いところを指摘され、ユーディアはぐっと下唇を噛んだ。
「……知らないよ。最近はあまり会話してないから」
「ふうん? まあいいわ。絶対に『姉さんが誘って欲しそうだよ』なんて口が裂けても言わないでよ。そんな真似したら一生の恥だわ。いーい。向こうから申し込むように仕向けるのよ」
(姉さんプライドだけはフーリー山脈並なんだから)
「相手に気がない時はどうしたらいいんだよ」
「やり方ぐらい、あんたが考えなさい。彼の事よーく知ってるんでしょ? 親友なんでしょ?」
「そうだけど……」
ユーディアとエドゥアルドは、同い年で同性ということもあって、リリールーより先に父に引き合わされた。出会った直後から馬があって、寮のお互いの部屋で勉強したりボードゲームをしたり、時には朝まで語り明かして過ごすぐらいには親しかった。だけど夏の手前あたりから彼に避けられ始めたのだ。
最後に彼の部屋に泊まった晩、二人はちょっとした悪ふざけをした。
その日エドゥアルドは植物学の教授が秘蔵していた、希少な花酒を小瓶に少し分けてもらって帰ってきた。
研究用に貰った酒だったが、極上の酔心地を味わえると聞き、ちょっぴり味見をしてみようということになった。ユーディアは二舐めぐらいですっかり心地よくなってしまって、翌朝すごく気分良く目が覚めた。なんだかとても良いことがあったような、だけどそれを忘れてしまったような。少し切なくて幸福な余韻が感覚として残っていた。
だがエドゥアルドの寝台の上で目を覚ました時、すでに隣に彼の姿はなかった。
この後から彼に明らかに避けられはじめた。だからきっとユーディアは酔った自分が何か良くない行動を取ったのかもしれないと思ったが、その時の記憶がまるでない。
だが怖くて聞けず何をしたのか分かってないから謝ることすらできないのだ。
「またぼんやりしてる。いい? エドゥアルドの心を読んで、誘う相手がもう決まっていたら一時的に人の心を操る魔法をかけて私に申し込むよう仕向けなさいよ。一度誘ってくれさえすればもう、言い逃れは出来ないんだから」
「人の心を読んで、その上、相手の気持ちは無視して自分の思う通りに動かすのか。馬鹿馬鹿しい。どうかしてる」
「でも、私とエドゥアルドは婚約者同士なのよ。何がいけないのか分からないわ」
「……っ!」
だがどうしても彼女の言い分が正しいと思えない。正しい以前に姉が親友をまるで自分が着飾るための宝石か何かのように扱っていることに、腹の奥にふつふつと怒りが沸き起こった。だが同時に心の中に冷たく切ない風が吹く。
(……強引なお祖父様が南部の名門と縁を結びたくて無理やり推してきた縁談だ。二人が婚約者同志なのは事実だし。俺は口出しできる立場じゃない。いくらリリーより、ずっと、俺の方がエドの事を想っていたって……)
そんな風に考えて、ハッとした。
(な、何馬鹿な事考えてるんだよ。あいつは親友だろ。いや、エドにとっての俺は、今はどんな存在なんだろう。以前みたいに近くにいるわけじゃない。あいつが何を考えているのか分からない。でも、待てよ)
普段ならば我儘な姉のこんな馬鹿げた命令には乗らない。だが……。
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