奏でる調べは癒しの旋律

霞花怜

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終幕 『儀式』の始まり

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 神様の代弁者《アドボカシー》ユアが啓示した十月になった。
 ヒルコ村で服装を整え、神の社、『儀式』の間へと向かう。

「白無垢って、こんな着物だったっけ?」

 自分が纏った真っ白い装束を改めて眺める。
 装飾は綺麗で可愛らしい感じだが、丈が短めで着付けも男性の着流しに近い。綿帽子はマント付きのフードのようだ。動きやすくて有難いが、婚礼の衣装とは程遠い。

「カナデ、似合ってる。とても可愛らしいよ」

 袴を付けて出てきたセスティに絶句した。
 羽織は確かに着物に近いが、袴の裾は絞ってあるし、どちらかというと洋装っぽくて、カナデの知っている羽織袴ではない。

(これがムーサ王国の婚礼装束なんだろうか?)

 異文化交流が和洋折衷過ぎて、逆に納得せざるを得なかった。
 カナデの肩を抱いて髪にキスするセスティはとても嬉しそうだ。

「セスも、似合ってる。やっぱり、格好良い」

 イケメンは、何を着ても似合う。

(セスが格好良いから、何でもいいか)

 嬉しそうに笑むセスティの顔を眺めていたら、自分の中の疑問はどうでも良くなった。

「変わった衣装だな。国が変わると、婚礼装束も様変わりするものだ」

 二人の姿を眺めて、アルバートが感心した顔をする。

「どっちの服も精霊が編んだ絹糸が使われてるんだよ。強度もあるし魔力も高めてくれる」

 キルリスの説明にアルバートがまた感心して聞き入っている。

「カナ、セス、おめでとう」

 小さなブーケをジンジルがカナデに手渡した。

「ありがとう。これ、ジルの手作り?」

 ジンジルが頷いた。

「リアとマイと三人で作った」

 ジンジルが振り返った先で、リアナが照れた顔を背けていた。

「ジルってば、三人の中で一番器用でさ。私ら、足引っ張っちゃったにゃ」

 カラカラと笑うマイラとは裏腹に、リアナの表情は冴えない。
 カナデはリアナの髪を撫でた。

「絶対に、会いに来るから。それまでこのブーケ、きっと大切にするよ」
「……会いに来なかったら、許しませんわ。私が御婆ちゃんになる前に、絶対に、二人で、会いに来なさい」

 目に涙をいっぱいに溜めるリアナを抱き締める。

「うん、約束する。きっと、会いに来る」
「もう誰にも気を遣わずに、セスと幸せになるんですのよ」

 子供のようにカナデに縋り付いて泣くリアナを力いっぱい抱き締める。
 そんな二人の肩をセスティが優しく包み込んだ。

「さぁ、『儀式』に向かおう」

 社の前の扉が開く。
 セスティを先頭に、あの日と同じ場所に、全員が揃った。
 鳥居の前の玉座には、三年前と同じように少年が、精霊ユアが座していた。

「戻ったな。間違いを正し、再度この場所に集った精鋭よ」

 全員の顔を眺めて、ユアが満足そうに笑んだ。

「お前たちは、やっとスタートラインに立った。ここからが本当の『儀式』の始まりだ」

 ユアが立ち上がる。玉座が消えて、後ろの三ツ鳥居から光が溢れる。

「この先もまた険しい道のりだが、試練を乗り越えたお前たちなら耐えうるだろう。神の祝福を得たければ、鳥居を潜れ」

 カナデは呆けた。
 思っていた『儀式』と違う。
 恐らく、この場にいた全員が同じことを思ったはずだ。

「えっと、すまない。確認なんだが、『儀式』は神楽を披露するものではないのか? 特に今回の『儀式』は婚礼の意味合いが強いと、キジムから聞かされているが」

 セスティが代表して、皆の心の声を代弁した。

「キジムか。そういえば、報せていなかったかもな」

 ユアが面倒そうに頭を掻く。

「もしかして、神様の側で、何かあったの?」

 キルリスの何気ない問いに、ユアがこちらを睨んだ。

「神の神力を高める神楽がない状態が十年続いた。神子がなく只でさえ疲弊しているエミス様が弱っている。お前たちは神楽以上に神力を高める上納をしなければならなくなった」

 嫌な予感が全身を駆け巡る。

「この先の神域に眠る神器を探し出し、献上しろ。神域は人の世以上に広い。心して探せ」

 ユアが、ぷいっとそっぽを向く。
 その顔は、気まずい色を隠しきれていない。

「ちょっと待て、俺たちこのままストレートに神様の元に行けるんじゃないのか? 神子は神様の元でお務めがあるんだろ」
「最初の務めだと思え。これも神子の仕事の内だ」

 カナデの言葉に言い返したユアの顔色は、明らかに何かを誤魔化していた。

「つまり、不測の事態が起きたから、『儀式』メンバーで解決しろって言いたいの?」

 キルリスの言葉に、ユアが言葉を詰まらせた。

「……助けてくださいって言いなよ、ユア」

 キルリスのダメ押しに、ユアが顔を真っ赤にして憤慨した。

「元はといえばお前たち人間のせいなんだ。責任は取ってもらうぞ!」

 開き直ったユアを眺めて、アルバートが諦めた顔をした。

「俺たち、当面は国に帰れそうにないな」
「さっきまでの涙の別れは、なんだったんだろうにゃぁ」

 アルバートと同じ顔色で、マイラが呟く。

「広大な神域で神器を探すって、なんだよ、そのRPG展開! 聞いてねぇよ! とにかく、神様に会わせろよ! ここに来るまで、どれだけ大変だったと思ってんだ!」

 ユアに向かって怒鳴るカナデをセスティが宥める。

「カナ、落ち着いて。一先ずは詳しい話を聞かないと、ね?」
「なんだかとっても大変そうですわ。オプションでカイリを付けられないかしら?」

 リアナが真剣に悩んでいる。
 セスティもリアナも、どこか楽しそうに見えた。
 
「なんで皆、そんなに落ち着いてんの?」

 一人憤る自分が馬鹿みたいだ。
 そんなカナデの肩をジンジルが叩いた。

「俺は、少し嬉しい。まだ皆で一緒にいられる。学院にいた頃みたいに、ふざけ合える」

 ジンジルの笑顔に、肩の力が抜けた。

「俺だって、リアたちとここでお別れより、少しでも長く一緒にいたいよ」

 皆の顔を眺める。
 誰一人、反対する表情は無かった。
 カナデは大きく息を吸い込み、吐き出した。

「わかった。じゃぁ、行こう。今度は乙女ゲじゃなくて、RPGな!」

 ユアを振り返り、光溢れる三ツ鳥居の向こう側へと一歩を踏み出した。
 新しい一歩の向こう側は、その先の物語へと続いていく。
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