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00.騎士たちの決断

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 成人男性一人分の背丈より高く作られた台の上に、十人の男女がいた。
 それぞれの手に握られているのは朝日を受けて光り輝くナイフ。
 壇上で横一列に並んだ十人はその場に膝をつくと、一人の男が空を仰いで叫んだ。

「リオス陛下に栄光あれ!!」

 言い終わると同時に、持っていたナイフを両手で己の胸に突き立てる。
 それに続いて残りの九人も同じ言葉を繰り返し、後を追うように凶刃を心臓に突き刺した。

 鮮血が広がる。一人、また一人とその場に倒れていく。
 浅い呼吸を数度繰り返した後、目から光が失われた。

 壇上に転がる骸からふわりと光の玉が浮かび上がる。
 ぽつぽつと増えていくそれは亡骸を覆うほどに増えると、一斉に羽ばたく蝶のようにして空へと舞い上がった。

 コツンと処刑台の上に落ちたのは、光り輝く結晶で作られた花だ。
 太陽の光を受けなおも煌めくその花に、一人の男が近づく。
 十人の男女が死にゆく様を黙って眺めていた男は、花の上に足を乗せると重心を移動させて体重をかける。
 ピシリと罅が入った花は次の瞬間、重さに耐えきれず砕け散った。

 舞い上がった花弁が風にさらわれて消える。
 本物の花のようにふわりと遠くに運ばれて、その途中で粒子となって消えていく。その花の持ち主の亡骸と同じように。
 朝日に溶けていく同胞の命を見ていた女性は、両の手をぐっと握りしめて俯いた。

「こんな事になるなら、もっと早く……」

 悲しみの涙をこらえ、肩を震わせる女性騎士を抱き寄せた深緑色の髪の男は、反対側に立っていた男性騎士に青い視線を移した。

「決断を」

 怒りを押し殺した低い声に、男性騎士は廊下に並んだ仲間たちを見た。黄金色の瞳が部下を見つめ、長い純白の髪がさらりと揺れる。一房編み込まれた髪に触れた騎士団長は、その端麗な顔に聖女のような笑みを浮かべて口を開いた。

「行きましょう。私たちの終焉の地フィネ・パラディーツォへ」

 澄んだ声は静かながらも仲間の耳に届き、その場にいた生き残りの騎士たちは頷いた。
 涙を拭った女性騎士は隣にいる男を見上げると、気丈に笑顔を作る。

「きっと、幸せになれるわ」

 女性騎士の水色の髪を撫でた男は、彼女の額にそっと触れるだけのキスをした。

「必ず行こう。みんな、そこで待っているから」

 誓いあうように手を握り合い、祈るように目を閉じる。
 それが最愛の人との、最期の穏やかな時間となった。
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