上 下
53 / 198
episode 2

望まぬ再会

しおりを挟む
完全に集中してものすごいスピードでキーを叩く姿が、中学の頃に図書館で受験勉強をしていた姿と重なって見えた。

一度ダブってしまうと無意識に高鳴る胸が、あの頃の甘酸っぱい気持ちを一気に思い出させてしまう。

眉間に皺を寄せてペンをした顎に当てながら考えている。

その姿をこっそり盗み見てキュンとするのが好きだった。

そんな姿をもう一度見ることになるなんて。

思ってもみなかった。

この抑えられない感情をどうすればいいのだろう。

過去と現在を混同したくなくて、私はふいっと視線をそらした。

なのに。

「真鍋さん」

彼が私ではなく真鍋さんを呼んだ。

そのことに小さく反応してしまったことが悔しくて仕方がない。

「お昼、外に出る?」

「またいつもの?」

「頼むよ」

「忙しい時はいつもなんだから。仕方ないなぁ」

真鍋さんが溜め息を漏らすと、藤瀬くんはデスクの中から黒い二つ折りの財布を取りだし、真鍋さんに向かって放り投げた。

「真鍋さん達もいつもの、いいから」

「了解。じゃ、行ってくる」

藤瀬くんの財布を当然のように受け取りポケットにしまう。

真鍋さんのその姿に、また胸がチリっと焼ける気がした。

思い出なんて、消えてなくなってしまえばいいのに。

私は心の底からそう思って、そっと溜め息をついた。
しおりを挟む

処理中です...