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episode 6

実った初恋

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藤瀬くんは私を立ちあがらせると、後ろに置いていた二人分の荷物を手にした。

「これ以上コイツ等の話を聞くつもりはない」

そうハッキリ告げると、藤瀬くんは私の手を優しく繋ぎ、個室の出口へと向かう。

「ちょっと藤瀬くん、いいの?」

確かに私も帰りたかったけど、それじゃサヨナラというのも他の人に対して気が引ける。

「こいつらから謝られたところで、俺と茉莉香は今さらどうするつもりもない。あとは永久に任せるよ」

田原くんに丸投げした藤瀬くんは振り返り、にっこり笑ってそう言った。

「はぁ!?何言ってんだお前」

焦ったように立ちあがろうとした田原くんに、藤瀬くんは待ったをかける。

「永久だって当事者だろ?茉莉香と付き合ってるなんて、今考えてもぶっ飛ばしたくなるような嘘つかれてんだから」

握り拳をかかげた藤瀬くんに向かって、田原くんは思いっきり両手を振って遠慮した。

「わかった。俺に任せろ。喜んで引き受ける」

「頼むな」

「一つだけ言わせてもらうと、俺は本当に茉莉香とは何でもないからな。今も昔も大事な友達としか思ってねえ」

「そんなの当り前だ、あほ」

露骨に顔をしかめ、藤瀬くんは田原くんにそう言った。

その姿は中学生時代と何も変わっていなくて、あれから十年以上も音信不通だった二人だとは思えなかった。

「この5人には永久からの長~い説教が待ってる。真斗は早く茉莉香と二人きりになりたいらしいから、もう行かせてやってくれ」

小沢くんの一言で、みんな冷やかし半分だが快く私と藤瀬くんを送り出してくれ、私はホッと胸を撫で下ろした。

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