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episode 6

実った初恋

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少し前の私だったら、藤瀬くんの言葉だけ聞いて、自分の気持ちは言葉にしなかったかもしれない。

けれど今回のことで、それは大きな間違いだったと気付かされた。

自分の気持ちは言葉にしなければ、決して相手には伝わらない。

だから全部を言葉にしよう。

もうすれ違わないように。

「私だって同じだよ。私の思い出は藤瀬くんでいっぱいだもの。だから由加里から藤瀬くんと本当に付き合ってるのは自分だって言われた時、目の前が真っ暗になった」

今でも鮮明に思い出せる胸の痛みを、自分の気持ちを吐露する事で緩和する。

「最初は裏切られて気持ちでいっぱいで、藤瀬くんのことを恨んだりした。でもその後に残った感情は、自己嫌悪だった」

どうしてもっと藤瀬くんを理解してあげられなかったのか。

どうしてもっと藤瀬くんの気持ちに寄り添えなかったのか。

どうしてもっと素直に気持ちを伝えられなかったのか。

どうしてもっと……どうしてもっと……。

そんな思いばかりが消えないまま来てしまっていた。

「俺は田添から永久とのことを聞いたとき、怒りよりも諦めが先に来てしまったよ。こんな俺だから仕方がないって。それでもやっぱり諦めきれなくて、卒業式の日に茉莉香に縋って断られて、後に残ったのは後悔だった」

私達はずっと、後に残った気持ちを抱えて今まで生きてきたのだろう。

転職して藤瀬くんと再会しなければ、私達は今でもこの想いを抱えていたはずだ。

今日の同窓会に来なければ、真実を知ることなどなかった。

ここにだって来れなかったはずなんだ。
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