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episode 6

実った初恋

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「この設計図を基に、一緒に夢を実現しないか?」

「え……」

藤瀬くんの真っ直ぐな瞳を見れば、この言葉の意味がどういうことなのかくらいわかる。

つまりこれは……。

「私達のスキルで、実際に人が住める形にしてみようってことよね?」

私はあえて見当違いなことを口にしてみた。

だって……それじゃ悟ることはできても伝わらないもの。

ちゃんとストレートに、誤解なんてできないくらいの言葉が欲しい。

そんな思いを表したわざとらしいとぼけ方なのだ。

「いや……こめん。そうじゃなくて」

「ごめんなさい。本当はわかってる」

長年の思いが昨日伝わったばかりで、藤瀬くんだって意を決してここまでの言葉を言ってくれてるんだ。

これ以上は意地悪になってしまう。

「私が仕上げてもいいの?」

この設計図は、幼かった私達が二人がともに結ばれた将来を見据えて描いた夢だ。

それを形にしようと言ってくれている藤瀬くんにそう尋ねると、「だめだ、やっぱり違う」と首を振るではないか。

私の勘繰りすぎだったのだろうか。

藤瀬くんの言葉には、それほど大きな意味はなかったのだろうか。

急に不安と勝手な勘違いによる恥ずかしさで俯いてしまった時。

「俺と一緒に、俺達のマイホームを作ってくださいっ」

私の頭上から、藤瀬くんの大きな声が響く。

弾けるように藤瀬くんを見上げると、緊張からなのか見たこともないほど真っ赤になっていた。

「俺と……結婚してほしい」

息を吐くように、ゆっくりと言葉を紡ぐ藤瀬くんの顔は、私の溢れた涙でぼやけて見えた。
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