Perverse

伊吹美香

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episode 8

甘い未来へ

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まぁ、と津田さんは間延びした声で続けた。



「今の柴垣は二股最低男のレッテルくらい、どうってことないでしょ?」



「ものすごく嫌な響きですけど」



「それだけ三崎さんは人気者なんだから仕方ないよ。竹下さんだって男性社員には人気だからね。うちの会社のツートップを手玉に取ってるなんて、全ての独身男性社員を敵に回すようなものだからね」



「しばらくは大人しくしてた方がよさそうですね」



あれだけ私が制したにも関わらず『社内恋愛推奨企業だから』と持論を押し通そうとしていたくせに。



大人しくと言われると、なんだか少しガッカリしてしまう。



そうか、結局私も柴垣くんと同じ気持ちだったのか。



改めてわかった自分の隠された気持ちに気付き、口元をすぼめて苦笑いを隠した。



「今度は『可哀想な三崎さん』を慰めるために、男どもが寄ってくるかもしれねぇし。少しの間は我慢する」



眉を寄せて口をへの字に曲げながら不満げに柴垣くんはそう言った。



「私も今までと同じように接するから」



噂なんて本人たちが堂々としていれば、そのうち立ち消えるものだろう。



どれだけの時間が経てば消え去るかはわからないけれど、何があっても動じなければ問題ないはずだ。



「救世主が立ち上がってくれるといいんだけどね」



ポツリと呟いた津田さんに、「救世主って?」と聞き返すと、津田さんは誤魔化すようにニッコリ笑った。



「何でもないよ」



そう言われても気になってしまう救世主とは、いったいなんのことなのだろうか……。
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