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夏祭りですよ
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咲飛(さと)が、夏休みに一人旅でやって来たのは、小さな田舎町だった。
咲飛は狐が好きだった。狐グッズを集めと、狐が祀ってある稲荷神社巡りをするのが趣味。
全寮制の高校生になってから休日に少しずつ遠くへ足を運ぶようになり。
そして今、大学生になり一人暮らしを良い事に、こうやって休みに一人旅するようになった。
もちろん彼氏無し。
電車を乗り継ぎ、やってきた自然豊かな町は、電車を降りた途端、風に混じり爽やかな草木の香りがした。今日夏祭りとあって賑わい、浴衣に下駄姿を多く見かけた。
タイミングが良いのか悪いのか、夏祭りはさほど興味は無く、本当はゆっくりと静かな神社を参拝したかったのだけど……。運が悪いと言ってしまえば、狐の神様に失礼だ。楽しもうと思う。
午後3時、旅館にチェックインし、せっかくなので《予約特典》サービスの浴衣を貸してもらい夏祭りを見て、明日の落ち着いた時間にもう一度ゆっくりと眺めようと考えた。
旅の疲れと汗を温泉でサッと流し、浴衣を選びに行く。
『どれにしようかな…』
紺地に菖蒲も落ち着いて綺麗だけど、この際あまり着た事のない柄にしよう。
選んだのは、白地に赤い牡丹が咲き、蝶が舞う……例えるなら花札の6月の札。大輪の牡丹が華やか。蝶は山吹色と若葉色。
着てみると艶やかで可愛くて気に入った。下駄も合わせて赤の鼻緒の物にした。
神社は旅館から徒歩5分。目と鼻の先。
日が落ちた頃、人混みに紛れ長い石の階段を登り向かった。
朱の鳥居の先には、屋台が並ぶ。お面屋で狐のお面を買い、斜めに被る。お好み焼きやクレープの誘惑に堪えながら、夕食前なのでチョコバナナで我慢。モグモグしながら参拝。
この神社は、普通のお稲荷さんとは違う。狐『稲荷』では無く、妖怪『九尾狐』を祀っている変わった神社だ。
妖狐は妖力が強く、位が高くなるほど尾の数が多いという。御守り売場で、ものすごく可愛い人形が売っていた。「帰りに買わなくては!」と呟く。
ぐるっと神社の裏手にまわると、細い道があった。
興味本位で人気の無い道に入って行く、すると祠(ほこら)があった。
チリンチリンと鈴の音が聞こえた。
チリンチリンと鈴の音は祠の後ろから。木々の隙間に、白いモノが見えた。
『狐?』…いや、違う。9本のフサフサとした尾が見えた。
『九尾狐!』狐が好き過ぎて、とうとう幻まで見えてしまったのか…。
遠くにいるはずの九尾狐が、耳ではなく、脳に直接話し掛ける。
『やっと見つけた。
ワタシの後継者。
ワタシには時間が無い。
ワタシは消滅する。
ワタシのカラダをアナタに授ける。
ワタシのチカラをアナタに授ける。
ワタシは時空を越えるモノ。
ワタシは自然を愛するモノ。
ワタシは天候を操るモノ。
ワタシは国を豊かにするモノ。
ワタシは傷を癒すモノ。
アナタの思うままで良い。
さあ、生きなさい。』
と、神々しい光が広がり、咲飛は包まれた。
眩しくて。真っ白で。
そして、胸が暖かく感じたと思ったら、全身が熱を帯び。
何かが、たぶん、九尾狐が身体に入った気がした。
もしかしたら、咲飛が九尾狐に入ったのかもしれない。
目を覚ませば森の中だった。
一瞬夢だったかと思ったが違った。
祠もなければ、道もない。木の種類も違う、スギやブナではない。もっと、木の種類は詳しく無いが暖かい地域、日本ではなく。
そして、身体が縮んだ感じがする。だって、地面に近過ぎる。
しかし、何故、視界に入っている手が獣の手なのだろう。白いフサフサとした毛にピンクの肉球。
ああ、もしかしたらでなく、やはり咲飛が九尾狐に入ったのだと悟った。
咲飛は狐が好きだった。狐グッズを集めと、狐が祀ってある稲荷神社巡りをするのが趣味。
全寮制の高校生になってから休日に少しずつ遠くへ足を運ぶようになり。
そして今、大学生になり一人暮らしを良い事に、こうやって休みに一人旅するようになった。
もちろん彼氏無し。
電車を乗り継ぎ、やってきた自然豊かな町は、電車を降りた途端、風に混じり爽やかな草木の香りがした。今日夏祭りとあって賑わい、浴衣に下駄姿を多く見かけた。
タイミングが良いのか悪いのか、夏祭りはさほど興味は無く、本当はゆっくりと静かな神社を参拝したかったのだけど……。運が悪いと言ってしまえば、狐の神様に失礼だ。楽しもうと思う。
午後3時、旅館にチェックインし、せっかくなので《予約特典》サービスの浴衣を貸してもらい夏祭りを見て、明日の落ち着いた時間にもう一度ゆっくりと眺めようと考えた。
旅の疲れと汗を温泉でサッと流し、浴衣を選びに行く。
『どれにしようかな…』
紺地に菖蒲も落ち着いて綺麗だけど、この際あまり着た事のない柄にしよう。
選んだのは、白地に赤い牡丹が咲き、蝶が舞う……例えるなら花札の6月の札。大輪の牡丹が華やか。蝶は山吹色と若葉色。
着てみると艶やかで可愛くて気に入った。下駄も合わせて赤の鼻緒の物にした。
神社は旅館から徒歩5分。目と鼻の先。
日が落ちた頃、人混みに紛れ長い石の階段を登り向かった。
朱の鳥居の先には、屋台が並ぶ。お面屋で狐のお面を買い、斜めに被る。お好み焼きやクレープの誘惑に堪えながら、夕食前なのでチョコバナナで我慢。モグモグしながら参拝。
この神社は、普通のお稲荷さんとは違う。狐『稲荷』では無く、妖怪『九尾狐』を祀っている変わった神社だ。
妖狐は妖力が強く、位が高くなるほど尾の数が多いという。御守り売場で、ものすごく可愛い人形が売っていた。「帰りに買わなくては!」と呟く。
ぐるっと神社の裏手にまわると、細い道があった。
興味本位で人気の無い道に入って行く、すると祠(ほこら)があった。
チリンチリンと鈴の音が聞こえた。
チリンチリンと鈴の音は祠の後ろから。木々の隙間に、白いモノが見えた。
『狐?』…いや、違う。9本のフサフサとした尾が見えた。
『九尾狐!』狐が好き過ぎて、とうとう幻まで見えてしまったのか…。
遠くにいるはずの九尾狐が、耳ではなく、脳に直接話し掛ける。
『やっと見つけた。
ワタシの後継者。
ワタシには時間が無い。
ワタシは消滅する。
ワタシのカラダをアナタに授ける。
ワタシのチカラをアナタに授ける。
ワタシは時空を越えるモノ。
ワタシは自然を愛するモノ。
ワタシは天候を操るモノ。
ワタシは国を豊かにするモノ。
ワタシは傷を癒すモノ。
アナタの思うままで良い。
さあ、生きなさい。』
と、神々しい光が広がり、咲飛は包まれた。
眩しくて。真っ白で。
そして、胸が暖かく感じたと思ったら、全身が熱を帯び。
何かが、たぶん、九尾狐が身体に入った気がした。
もしかしたら、咲飛が九尾狐に入ったのかもしれない。
目を覚ませば森の中だった。
一瞬夢だったかと思ったが違った。
祠もなければ、道もない。木の種類も違う、スギやブナではない。もっと、木の種類は詳しく無いが暖かい地域、日本ではなく。
そして、身体が縮んだ感じがする。だって、地面に近過ぎる。
しかし、何故、視界に入っている手が獣の手なのだろう。白いフサフサとした毛にピンクの肉球。
ああ、もしかしたらでなく、やはり咲飛が九尾狐に入ったのだと悟った。
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