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第1章

第13話 絶望

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 あれから毎日、慎ちゃんと愛し合った。籍は入れず、私は内縁の妻状態だ。避妊をしてくれず、妊娠する可能性があるので、ちゃんと籍に入れて欲しいと思ったけど、やっぱり3桁を超える男達に抱かれている私なんかを、戸籍上の妻にはしたく無いのかも知れない。
 私も元は男だったのだ。男は、変にプライドが高く嫉妬深い。女性の過去にこだわる傾向が強く、特に女性の経験人数を気にする。勿論、0であって自分が初めての相手である事が望ましいのだが、それを望むなら学生時代から付き合うとか、まだ初めての人に出会う縁が出来るまで待つしか無い。そんな事を言っていたら、出会いを逃す。それなら限りなく0に近い経験人数の女性であれば、より好ましい。
 あの検査と称する性的虐待を受けた私は、もう一生結婚も出来なければ、恋や愛を囁く相手なんて現れないだろうとも思っている。慎ちゃんには好感があるし、親しみもあるが、まだ研究所にいるであろう友梨奈の事が気掛かりで、そこから逃げる為に私は友梨奈を裏切ってしまったと、悔やむ毎日だ。私の母も、父は1番好きな相手ではなかった、と言った事がある。完全な熱愛で結婚するなんてレアな世の中だ。お見合いだって、まぁこの人なら無難かな?とか思って結婚するのだ。それは生活するのに苦労しない、つまりお金であったりとか、お金は無くとも、先祖から受け継いだ家や土地があり生活には困らないだとか、女性はそう言う現実も加味して考える。そこに愛があれば尚良いが、愛は後からついて来ると思って結婚する人もいる。私は元男だったから、好きになった人としか結婚はしたくないと思いながらも、慎ちゃんは良い人だし、私を愛してくれるなら、これもまた人生かと思い悩んだ。
 ふと、変な事を思い出した。そう言えば、私を春町に連れ戻す時に、超能力の様な力の発現を確認したと。あの研究所に集まっていた人や私には、そんな力は発現していない。でも、春町の住人全員が集められていたのだとすると、何人かいるはずの住人が足りなかった気がする。その人達が発現した人で、更に何かの実験の為に違う施設にでも連れて行ったのだろうか?
 それから数日が経ち、慎ちゃんと暮らし始めてから1ヶ月が経った。この所、慎ちゃんの行動が不自然で怪しい。私は彼の浮気を疑っている。お風呂に入った隙にスマホを確認した。パスコードを3度間違えて焦ったが、4つ目のパスワードがヒットして開いた。メールのやり取りに女性はいない。こまめに消しているのか、男性の名前にしているのか?慎ちゃんがお風呂から上がって来る前にドキドキしながら、確認した。すると名前は「安田」となっていたが、メールの内容は研究所の職員とのやり取りだった。
「何なのコレ…」
 心臓の動悸が激しくなり、貧血で頭がクラクラする。手足がガタガタと震えて、立っていられなくなった。慎ちゃんがお風呂から上がる音が聞こえて、慌ててスマホを元の位置に戻して部屋に戻った。
「瑞稀!お風呂上がったよ。次どうぞ」
「はーい!」
 声が震えていなかったか心配したが、どうやら気付かれなかったみたいだ。慎ちゃんに会わない様にトイレに入ってから、お風呂へ向かった。
 慎ちゃんと研究所の職員とのメールの内容は、私を観察報告している内容と、妊娠させて子供が作れるか実験を促す内容だった。あまりの衝撃に、さっき見たメールの中身が信じられなかった。こらえようとしても泣き声を止められず、シャワーを捻ってその音で掻き消した。
「うぁあん…ひっく、ひっく…」
(もうダメだ。もう耐えられない。生きていたくない。ごめん、友梨奈。ごめん、慎ちゃん。もう何も信じられないよ…)
反射的に置いてあったカミソリで、左の手首を斬った。その手をお風呂に浸けると、あっという間に赤く染まった。お湯のシャワーに打たれているのに、身体は酷く寒くなって来た。
「眠いし寒い…もう死んじゃうんだ、私…」
目をつぶると、意識が遠ざかった。
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